いつだって見られている

なごみ

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この時はまだ理性が働いていた。


人など殺しても、いちばん損をするのは自分なのだから。


こんな人のために刑務所で生涯を過ごすなど真っ平だ。


マヌケ面している母の寝顔を見た。


低い鼻にぽってりとした唇が、自分と娘の日菜に受け継がれていることに、ひどく嫌悪を覚えた。


鼾をかいて寝ている母の首に両手をかけてみた。


殺す気など微塵もなかった。


なのに何故そんなマネをしてみたくなったのかは自分でもよくわからない。


母は鼾をかいて熟睡しているように見えたので安心していたのだ。


手をかけたと言っても少しも締めてはいない。


本当にただ手をかけただけだ。


私の指先が冷たすぎたのか、母が突然目を覚ました。


首に当てていた両手を慌てて離した。


「ひぃーっ!  人殺しー!」


驚愕した母が目を見開いて叫んだ。


「何を言ってるのよ、違うわよ。大きな声出さないで!」


「い、今、首を締めていたじゃないの。わたしは騙されないよ!  」


「締めてなんかないわよ。人聞きの悪いこと言わないで!  寒いかと思って、熱がないか確認していただけじゃないの」


母の不信感を払拭するには説得力がなかったようだ。


枕元のガラ携を開いてどこかに電話をしようとしている。


まさか、警察?


「ちょっと、どこに電話するのよ?  やめなさいよ!」


母から携帯を奪い、慌てて電源を切った。発信先は妹の宏美だった。


「わたしの貯金はあんたにはやらない。みんな宏美にやるんだから。通帳も印鑑も宏美が持ってるんだからね!」


お盆と正月くらいしか顔を出さない妹に、全財産を譲ると言う。


妹の宏美は、


 ” お姉ちゃんに世話してもらうんだから、お母さんの貯金は全部お姉ちゃんに任せるからね ” 


などと言っていたのに、ちゃっかり影で通帳を預かっていたのね。


あの倹約家の母にしては、いま預かっている通帳の残高は少なすぎると思ってはいた。


へそくりを貯めるのが母の何よりの楽しみだった。


だから違う預金通帳を何冊か隠し持っていることはわかっていた。無理に探さなくても、いずれは自分のものになるはずだと思っていた。


たった一人で面倒をみてきたのは自分なのだから。


まさか、宏美に渡していたなんて。


そんな貯金があったなら老人施設にだって入れたではないか。


 宏美に騙されていた。


母の世話を姉ひとりに押し付けておきながら、貯金を一人占めするなんて。


怒りと憎しみで頭が真っ白になった。


「宏美が来たら言うからね。あんたに殺されそうになったって!  あぁ、恐ろしい。もういいわよ、宏美にみてもらうから、子供の頃からあんたよりも宏美のほうがずっと優しかっ」


「黙りなさい!!」


頭の中で何かがはじけた。


本気で母の首を絞めていた。


「く、苦しい、だれか~、だ、」


麻痺していない右手でわたしの腕を強く掴んで抵抗した。


何分くらい絞めていたのだろう?


わたしの腕を強く掴んでいた母の手が力を失ってダラリと落ちた。













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