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貴之の怒り
しおりを挟む普通の平和な主婦になることは、思っていたほど簡単ではなかった。
夫の貴之は、突然姉を失ったことにかなりのショックを受けていた。
しかもそれが自分の妻の不注意によってなのだから。
言葉の端々に怒りが感じられ、ねちねちと不満をぶつけた。
「去年だってニュースでやってただろう。雪で立ち往生した車に閉じ込められて亡くなったって親子が!」
「……あれは凍死でしょ。一酸化炭素中毒じゃなかったわ」
「今までにも何度かあっただろう。一酸化炭素中毒で死んだってニュースが。北海道に住んでいてなんでわかんないんだよ!」
「すみません。でも義姉さんだって気づかなかったんだわ。エンジンを切った方がいいってことに」
「お前がちゃんとマフラーの周りの雪をかいてくれてると思ってたんじゃないのか?」
「今更そんなこと言ってどうなるの。 どうしろっていうのよ。私も一緒に死んでいたらよかったんだわ」
「そういうこと言ってるんじゃない! おまえが全く反省してないからだよ。姉貴がいなくなってせいせいしてるんだろ。だから腹が立つんだよ!」
「どうしてせいせいするのよ? 貸したお金も返してもらってないのに。私だって被害者じゃないの!」
貴之の顔が怒りで震えたように見えた。
「姉貴が死んだっていうのに、よくそんなことが言えるな。おまえはいつでも金の心配ばかりだもんな。いいよ、わかったよ」
そう言って貴之は二階の階段を登って行った。
一体なにがわかったというのだろう。
離婚したいのならそれでもいい。介護しなければいけない母はもういないのだ。
自分の面倒くらいは自分でみれる。
日菜と健太のことだって、本人のしたいように任せたらいいんだ。
大学で本当に勉強したいのなら、奨学金でももらっていけばいい。
勉強したくもないのに行かせる必要はない。学歴がなくても金持ちになれるというのだから。
義姉の法事にはもう二度と出たくない。
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