いつだって見られている

なごみ

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「そんな都合のいい話が信じられるかよっ!」


思いっきり突き飛ばされて、厨房の大型冷蔵庫に頭を打ちつけた。腰が抜けてしまい、その場にヘナヘナと座り込む。


ーー今度は私が殺される!


恐怖心が高まる一方で、それもいいかもしれないという諦めの気持ちもあった。


もうすっかり人生に失望していた。


ひと思いに殺してほしい。


「ふん、あんた、不倫してたんだってな?」


「えっ?」


「それで、口止め料に200万も払ったんだろうがっ! まったく最近の主婦はどうしょうもないな」


ーーどういうこと?


そ、そんな……じゃあ、義姉が見たと言っていたものは!


「不倫したのをバラされるのが嫌で、お袋を殺したんだろ!」


髪の毛をわしづかみにして和樹が後ろへ引っ張り上げた。


「痛い! や、やめてー!  誰か、誰か、助けて!」


「だまれ!  静かにしろっ!」


和樹に文化包丁を首に突き立てられ、もうおしまいだと諦めた。


「300万用意しろ!  明日までにだ。あんたには俺の母親を殺すだけの動機と殺意があったんだ。警察にそう言うぞ!」


「もういいわ、あなたの好きなようになさい。もう死にたいと思ってたの。本当よ、殺してよ、殺したらいいわ、早く殺して!」


開き直ってそういうと、和樹は包丁を首から離した。


「じゃあ、100万でいいよ。100万貸してくれよ」


どんよりとうつろな目でそう言った和樹は、いつもの気弱な小心者に戻った。


「わかったわ、100万円ならなんとか出来る。義姉さんへの罪滅ぼしにあげるわよ」





「本当か。じゃあ、すぐに振り込んでくれよ。100万」


まだ、信用していないと言いたげな顔で和樹が見つめている。


「いいわよ。ほら、今日は通帳だって持ってきてるの。今すぐに銀行に行けば、まだ2時過ぎですもの、間に合うわ」


バッグを開けて中から預金通帳を出してみせた。


「じゃあ、俺も銀行について行く。ちゃんと振り込むかどうかわからないからな。ちょっと待ってろ。通帳持って来るから」


和樹はそう言うと背を向けて厨房から出ようとした。


とっさにそこにあったステンレスの菜箸で
和樹の首を突き刺した。


「うっ、ぐぇっ」


和樹はなんの抵抗もなく崩れるように倒れると、手足を数秒ピクピクさせ、そして動かなくなった。


延髄にまで達したのだろうか。


震える手で血のついた菜箸を離した。


ーー和樹まで殺すことになろうとは。


殺人も三人目ともなると、こんなに冷静でいられる。


革の手袋は店に入ってからも、ずっとはめたままだったのだから指紋は残されていない。


あと証拠になるものはなんだろう?


ーー携帯電話だ。


私と話した履歴が残されているだろう。


和樹のズボンのポケットを探ると携帯はすぐに見つかった。


あとはなんだろう?


この店に防犯カメラは設置されているのだろうか?


もし設置されているのだとしたら、もう完全にアウトだ。


入り口とレジのまわりを見まわしたところカメラは設置されていないようだ。


この店はセキュリティに気を配るほどの売り上げなどなかっただろう。


外には必ず防犯カメラが設置されている。


この店に入って来るときに、確認していなかった。


どうすればいいのだろう。
















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