いつだって見られている

なごみ

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和樹の死体から早く逃げ出したい気持ちでいっぱいになる。


だけど、まだしなければいけないことはないだろうかと焦りながらも考えた。


靴の跡なども、警察は調べるはずだ。


ブーツの跡で、犯人は女だと断定されてしまうのではないか。


ブーツを脱ぎ、厨房に置かれていたスリッパを履いて、歩きまわったブーツの跡を雑巾で拭いた。


携帯と足跡以外にも何かがありそうだけれど、グズグスはしていられない。


誰かがここに来たらもうおしまいだ。


厨房から奥に通じるドアを開けると、ハンガーに和樹の黒いダウンコートとがかかっていた。コートの上から、ブカブカのそのコートを着て店を出た。


来るときにマスクをつけていたのは正解だった。


不自然に見えないように歩き、通りへ出た。


来るときよりも雪は激しくなっていた。


これで足跡も消えるだろうか。


まだ、やり残したことがありそうで落ち着かないが、仕方がない。


手稲駅の改札を通り、2番ホームから2時50分発の小樽行きの列車に乗った。




こんな時間だけあって、車内は空いていた。


和樹のダウンコートを重ね着していたので、汗をかいた。


このコートはどこに捨てたらいいのだろう。


持って帰って、ゴミに出すのが安全な気もするが、大きすぎて家族に発見されても面倒だ。


列車内に置き忘れるのはどうだろう。


誰かが持ち去ってくれたら一番いいけれど、忘れ物扱いされると危険かもしれない。


結局家まで持ち帰り、見つからないように紙袋に入れ、クローゼットにしまい込んだ。


来週、古着のゴミに出すのが一番安全だ。


防犯カメラはどこまで私を捉えていたのだろうか。それが一番に気にかかった。


捜査の手はどこまで伸びるだろう。和樹の母があんな死に方をしたのだから、容疑をかけられるかも知れない。


今度こそ本当に逮捕させられてしまうのだろうか。


母を殺してしまった時に逮捕されていた方が良かった。あの状況なら、介護に疲れた主婦として世間からも同情され、刑も軽く済んだだろう。


今では三人もの人間を殺めた極悪人だ。


ひとつの罪は、さらにもうひとつのより大きな罪を呼ぶ。


坂を転げ落ちるかのように、私の人生はこれからも加速して転落していく。


 日頃の不満と怒りが、これほど人を破滅に追い込むとは。



ーー和樹のスマートフォン。


これはどこに捨てるべきか。


うちの固定電話にもこのスマホから来た通話記録が残されているはずだ。


全ての証拠を消すとは、なんと難しいことなのだろう。


ーーあんた、不倫してたんだってな。


軽蔑した目で見すえた和樹の顔を思い出す。


 3年前、介護に疲れて精神的におかしくなっていた時期があった。


そんな私に貴之は無関心で、何の手助けもしてくれなかった。


投げやりな気持ちと救いを求めて、出会い系サイトでやり取りした相手と関係を持った。


何人かとそんな交渉を持ったが、少しの癒しも与えられず、みじめさと屈辱感だけが残った。


だけど、一体いつ見られていたのだろう。


そんな場所で目撃していたのなら、義姉だって怪しいものだ。


 義姉からの口止め料が、思いのほか安いと感じたのはそのせいだったのだ。


 人生の転落はすでに3年前から始まっていたのだった。
























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