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つらい自宅療養
しおりを挟む夕方娘の日菜が帰宅して、ベッドをさげてくれた。
やっと横になることが出来たけれど、何時間も同じ姿勢で座っていたので、感覚のないおしりが心配だ。床づれが出来たら大変なことになる。
日菜は優しいとは言えないけれど、やはり女の子だった。
こちらから言わなくても、オムツを交換してくれた。
「うわー おしっこ、たくさんしてるじゃん。なんで健太に替えてもらわないの? 一日中ヒマしてるのに」
貴之が答えてくれなかった質問のメモを日菜に見せた。
いなくなった母は、去年の10月に急性心不全で突然亡くなったと言う。
去年の10月なら私がまだ事故に遭っていないときではないか。
「お母さん本当に覚えてないの? もしかして、和歌子おばさんといとこの和樹さんが死んだのも覚えてないんじゃない?」
呆れたように日菜が疑わしい顔で見つめた。
「どうして義姉さんと和樹が?」
汚い字で書きなぐる。
「おばさんは一酸化炭素中毒で死んだじゃないの。お母さん一緒に車に乗っていたくせに。和樹さんはそれがショックで自殺したんだって。ラーメン屋がうまくいかなかったせいもあったらしいけど……」
一酸化炭素中毒
……ラーメン屋
……自殺
なぜか胸騒ぎがして、それ以上考えるのが怖くなる。
健太はどうして学校へ行かないのか? の質問にはこう答えた。
「部活の先輩と揉めたらしいよ。それが原因で友達ともうまくいかなくなったみたいね。冬休みが終わってから学校へは一度も行ってないよ」
そんな、、
健太がそんなことになっていたなんて。
あなたはどうするの? どこの大学に行くの?
日菜の進路についての質問部分を指さす。
「え、わたし? だから、担任が推薦してくれた東京の大学へ行くよ。お母さんが事故に遭ったおかげって言ったら悪いんだけど、ぶつかって来たトラックの相手から結構な賠償金が貰えたらしいのよね。だからなんとか行かせられるって、お父さんが」
悪びれた様子もなく、平然と言ってのけた。
日菜、札幌の大学じゃダメなの?
藁にもすがる思いでメモに書きなぐった用紙を日菜に見せた。
「なに言ってんの? もう今年の受験なんて終わってるのに。推薦以外に日菜が入れるような大学なんてないしね」
ーー日菜だけが頼りだというのに。
健太は今年中学三年生になるはずだ。不登校などいつまでもやっている場合ではない。貴之はなぜこんなに呑気なのだろう。
ヘルパーを週に3回だけ呼んで、 他の日は健太に面倒を見せようだなんて。
夜の7時を過ぎて貴之が帰って来た。
日菜が晩ご飯を作ってあげるということもなく、各自がそれぞれ食べたいものを自分で調達しているようだ。
「俺が買っておいた揚げ物は誰が食ったんだよ!」
貴之が冷蔵庫を開けてわめいた。
「わたしは知らないよう~ 健太に決まってんじゃん、そんなことするの」
「たくさん買ってあっただろ、なんで全部食っちまうんだよ!」
「日菜は一個も食べてないですからね~」
「どいつもこいつも役に立たないお荷物ばっかりだな! まじめに働いて、なんでこんな目にばかり遭わなきゃならないんだよ。子供のしつけくらいちゃんとやってから寝たきりになれってんだ、まったく」
怒りの矛先は私に向けられた。
今日はテレビやiPadが欲しいなどの要求はしない方がよさそうだ。
なんの世話もあてに出来ない健太との日常は、忍耐の連続だった。
寝返りさえも上手くうてない身では、オムツが汚れても我慢しているしかない。
お昼ご飯も冷めたお粥に、佃煮かふりかけをのせるだけ。
それでも、ベッドの背もたれを上げ下げしてくれるだけでもありがたかった。
健太に汚れたオムツを替えてとはとても言えない。
だけど日菜が先週、上京してしまったので、オムツはどうしても貴之に頼むしかない。
ヘルパーや貴之のいるときにタイミングよくお通じがあるわけもなく、もう一週間も出ていない。
お腹が張って苦しい。
事故の賠償金はどのくらい出たのだろう。
日菜を甘やかして東京の大学になど行かせる余裕があるなら、私を転院させてくれたら良かったではないか。
日菜がいなくなって、私のための賠償金まで使われて、踏んだり蹴ったりだ。
テレビもインターネットも見られず、片手で本を読むしか出来なかった。
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