いつだって見られている

なごみ

文字の大きさ
39 / 58

つらい自宅療養

しおりを挟む

夕方娘の日菜が帰宅して、ベッドをさげてくれた。


やっと横になることが出来たけれど、何時間も同じ姿勢で座っていたので、感覚のないおしりが心配だ。床づれが出来たら大変なことになる。


日菜は優しいとは言えないけれど、やはり女の子だった。


こちらから言わなくても、オムツを交換してくれた。


「うわー  おしっこ、たくさんしてるじゃん。なんで健太に替えてもらわないの?  一日中ヒマしてるのに」


貴之が答えてくれなかった質問のメモを日菜に見せた。


いなくなった母は、去年の10月に急性心不全で突然亡くなったと言う。


去年の10月なら私がまだ事故に遭っていないときではないか。


「お母さん本当に覚えてないの? もしかして、和歌子おばさんといとこの和樹さんが死んだのも覚えてないんじゃない?」


呆れたように日菜が疑わしい顔で見つめた。


「どうして義姉さんと和樹が?」


汚い字で書きなぐる。


「おばさんは一酸化炭素中毒で死んだじゃないの。お母さん一緒に車に乗っていたくせに。和樹さんはそれがショックで自殺したんだって。ラーメン屋がうまくいかなかったせいもあったらしいけど……」


一酸化炭素中毒      


……ラーメン屋


……自殺


なぜか胸騒ぎがして、それ以上考えるのが怖くなる。


健太はどうして学校へ行かないのか? の質問にはこう答えた。


「部活の先輩と揉めたらしいよ。それが原因で友達ともうまくいかなくなったみたいね。冬休みが終わってから学校へは一度も行ってないよ」


そんな、、


健太がそんなことになっていたなんて。


あなたはどうするの?  どこの大学に行くの? 


日菜の進路についての質問部分を指さす。


「え、わたし?  だから、担任が推薦してくれた東京の大学へ行くよ。お母さんが事故に遭ったおかげって言ったら悪いんだけど、ぶつかって来たトラックの相手から結構な賠償金が貰えたらしいのよね。だからなんとか行かせられるって、お父さんが」


悪びれた様子もなく、平然と言ってのけた。



日菜、札幌の大学じゃダメなの?


藁にもすがる思いでメモに書きなぐった用紙を日菜に見せた。


「なに言ってんの?   もう今年の受験なんて終わってるのに。推薦以外に日菜が入れるような大学なんてないしね」


ーー日菜だけが頼りだというのに。


健太は今年中学三年生になるはずだ。不登校などいつまでもやっている場合ではない。貴之はなぜこんなに呑気なのだろう。


ヘルパーを週に3回だけ呼んで、 他の日は健太に面倒を見せようだなんて。



夜の7時を過ぎて貴之が帰って来た。


日菜が晩ご飯を作ってあげるということもなく、各自がそれぞれ食べたいものを自分で調達しているようだ。


「俺が買っておいた揚げ物は誰が食ったんだよ!」

 
貴之が冷蔵庫を開けてわめいた。


「わたしは知らないよう~  健太に決まってんじゃん、そんなことするの」


「たくさん買ってあっただろ、なんで全部食っちまうんだよ!」


「日菜は一個も食べてないですからね~」


「どいつもこいつも役に立たないお荷物ばっかりだな! まじめに働いて、なんでこんな目にばかり遭わなきゃならないんだよ。子供のしつけくらいちゃんとやってから寝たきりになれってんだ、まったく」


怒りの矛先は私に向けられた。


今日はテレビやiPadが欲しいなどの要求はしない方がよさそうだ。



なんの世話もあてに出来ない健太との日常は、忍耐の連続だった。


寝返りさえも上手くうてない身では、オムツが汚れても我慢しているしかない。


お昼ご飯も冷めたお粥に、佃煮かふりかけをのせるだけ。


それでも、ベッドの背もたれを上げ下げしてくれるだけでもありがたかった。


健太に汚れたオムツを替えてとはとても言えない。


だけど日菜が先週、上京してしまったので、オムツはどうしても貴之に頼むしかない。


ヘルパーや貴之のいるときにタイミングよくお通じがあるわけもなく、もう一週間も出ていない。


お腹が張って苦しい。


事故の賠償金はどのくらい出たのだろう。


日菜を甘やかして東京の大学になど行かせる余裕があるなら、私を転院させてくれたら良かったではないか。


日菜がいなくなって、私のための賠償金まで使われて、踏んだり蹴ったりだ。


テレビもインターネットも見られず、片手で本を読むしか出来なかった。












しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

25年目の真実

yuzu
ミステリー
結婚して25年。娘1人、夫婦2人の3人家族で幸せ……の筈だった。 明かされた真実に戸惑いながらも、愛を取り戻す夫婦の話。

【完結】私が愛されるのを見ていなさい

芹澤紗凪
恋愛
虐げられた少女の、最も残酷で最も華麗な復讐劇。(全6話の予定) 公爵家で、天使の仮面を被った義理の妹、ララフィーナに全てを奪われたディディアラ。 絶望の淵で、彼女は一族に伝わる「血縁者の姿と入れ替わる」という特殊能力に目覚める。 ディディアラは、憎き義妹と入れ替わることを決意。 完璧な令嬢として振る舞いながら、自分を陥れた者たちを内側から崩壊させていく。  立場と顔が入れ替わった二人の少女が織りなす、壮絶なダークファンタジー。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

裏切りの代償

中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。 尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。 取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。 自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

🥕おしどり夫婦として12年間の結婚生活を過ごしてきたが一波乱あり、妻は夫を誰かに譲りたくなるのだった。

設楽理沙
ライト文芸
2026.1.4 73話見直した際、瑛士の台詞《本音/懺悔》を加筆しました。😇 ☘ 累計ポイント/ 200万pt 超えました。ありがとうございます。 ―― 備忘録 ――    第8回ライト文芸大賞では大賞2位ではじまり2位で終了。  最高 57,392 pt      〃     24h/pt-1位ではじまり2位で終了。  最高 89,034 pt                    ◇ ◇ ◇ ◇ 紳士的でいつだって私や私の両親にやさしくしてくれる 素敵な旦那さま・・だと思ってきたのに。 隠された夫の一面を知った日から、眞奈の苦悩が 始まる。 苦しくて、悲しくてもののすごく惨めで・・ 消えてしまいたいと思う眞奈は小さな子供のように 大きな声で泣いた。 泣きながらも、よろけながらも、気がつけば 大地をしっかりと踏みしめていた。 そう、立ち止まってなんていられない。 ☆-★-☆-★+☆-★-☆-★+☆-★-☆-★ 2025.4.19☑~

処理中です...