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取り返しのつかない罪
しおりを挟む朝早く、妹の宏美がコンビニでお弁当を買って持って来てくれた。
親戚に殺人犯が出たなど、妹の家族だって、どんなに迷惑なことだろう。
心配して気遣ってくれる宏美には感謝してもしきれないほどだ。
こんなことなら、遺産はきちんと半々にするべきだったと今になって悔やまれる。
今からでも預金通帳から引き出して渡したいところだが、こんな身の上では貴之の承諾もなく勝手なことは出来ない。
この先、介護費用にどれだけかかるかわからないのだから。
『宏美、本当にごめんなさい。あなたのお家にまですごく迷惑かけちゃったわ』
宏美とはいつも携帯のメールで会話をする。
その方が手書きよりも早いから。
「起きてしまったことは仕方ないよ。今後のこと考えないと。だから、貴之さんもしっかり食べて体力つけて」
うなだれてソファーに座っている貴之に声をかけた。
「ありがとう、宏美ちゃん。仲々、外には出られなくてね、正直助かるよ」
レンジで温めてくれた幕の内弁当を受け取り、貴之は食べ始めた。
「お姉ちゃんはどれにする?」
食欲はなかったが、せっかく買って来てくれたのだからと思い、鮭のおにぎりを頼んだ。
私のおにぎりを温め、カップのお味噌汁をテーブルに置いた。
「じゃあ、私これから仕事だからもう行くね」
そう言って、宏美は慌てて出て行った。
貴之が健太の面会に行くというので、さっき書いた手紙を渡した。
貴之がそのA5の用紙を広げて見た。
「ダメだろ、こんなこと書いちゃ。検閲されるんだぞ!」
軽蔑したように、その手紙をゴミ箱へ捨てた。
一体、何がいけないというのだろう?
『なにがいけないの? 検閲されたっていいわ。だって私が犯人なんだから。早く健太を釈放してあげたいの!』
「バカ! 自分の気が済めばそれでいいのか? こっちの身にもなってみろ! お前が犯人ってことになれば、全国に名前が公表されるんだぞ。そんなことになったら、俺たちがまともに暮らせる場所なんかありはしないんだ!」
だからって、健太の将来はどうなるの!?
『そんな、そんなこと言ったって、健太が殺人犯のままだなんてそんなこと、私の身代わりになるなんて』
「健太は鑑別所へ送られたら、数年もしないうちに出て来られるんだ。名前も公表されないしな。あいつに犠牲になってもらうしかないんだ」
『そんな、ひどい。まだ14歳の息子を犠牲にするなんて。私の人生なんてもうどうだっていい。自首します、自首させてよ、お願いだから!』
こんな生き地獄って他にあるだろうか。健太が殺人犯にされてしまうなんて。
「お前の心配なんか誰もしてないよ! 俺たちがこれから生きるために一番いい方法を探しているんだ。健太の人生にとってもな!」
殺人犯の汚名を着るよりもいい人生なんて。
「しかも、和樹だけじゃなくて、姉貴まで殺したなんてな。死刑になるかも知れないんだぞ!」
「……… 」
「母親が殺人犯で逮捕されるってことが、家族にとってどんなことになるか、少しは考えてみたことがあるのか?」
……もう、なにも反論できない。
家族を守ろうとしてしたことは、最愛の家族を最も傷つけてしまう結果になった。
自分は死刑になったって構わないけれど、確かに子供たちは、母親が殺人犯の死刑囚になったら、生きる希望までなくしてしまうかも知れない。
追い詰められて起こした行動は、結局一番悪い選択だったということに、今頃になって気づかされた。
殺人が最悪なことだということに何故いまになって気づくのか。
一体なにがその重大な罪の意識を忘れさせていたのだろう。
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