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50歳の誕生日を迎えて
しおりを挟む今日の11月7日は、私の50歳の誕生日だ。
日菜と健太が、マンションからもそれほど遠くない、札幌駅に近いホテルのディナーを予約したと言う。
車椅子で、しかも左手しか使えない身の上でナイフとフォークの食事など、周りの人たちの視線も気になり、あまり気が進まなかった。
だけど、こんな母のために、ここまでしてくれる二人の優しさに、感謝の気持ちでいっぱいになる。
こんなに幸せな母親が他にいるだろうかとさえ思えてくる。
人目など気にすることはない。
せっかく二人が計画してくれたプレゼントなのだから、今日という日を楽しもう。
日菜が髪をセットしてくれて、今風にメイクも施してくれた。
怪我をする以前、自分でしていたひと昔前のメイクより、ずっと素敵に見えた。
「わ~、私ってメイクの才能もあるかもね。お母さん、すごく綺麗になったじゃん!」
「あ、あ、う、うっ、」
" ありがとう、日菜。とっても嬉しい! ”
持っていた洋服の中では一番上等な、マックスマーラのモスグリーンのスーツを着せてもらう。
ここまでおめかしをすると、なにか背筋までシャキッとしてくる。
上からダウンのコートをはおり、毛糸の帽子を被され、ブーツを履かされて車椅子で家を出た。
夕方の6時も過ぎ、この時期だと外はすでに真っ暗で、札幌駅周辺はネオンやイルミネーションがきらめいて美しかった。
車道は交通量が多く、舗道は帰宅を急ぐ人の波で往来が激しかった。
舗道が狭く、車椅子と人がぶつかりそうになる。
「俺が車を運転できたらいいんだけどなぁ」
車椅子を押しながら、健太がブツブツと呟いた。
「まぁ、いいじゃない。家から10分くらいだもん」
グレーにブルーの縞のマフラーを巻いた日菜が、白いハーフコートのポケットに手を入れて微笑んだ。
「お母さん、寒くない? じっと座ってると寒いだろ」
健太が白い息を吐きながら、心配して私をのぞき込む。
大丈夫、と言うつもりで左手をあげたが、夜というせいもあって外気は冷たく、かなり寒かった。
ホテルのエレベーターに乗り、23階まであがる。
ボーイに指定された席へと案内された。
23階から見おろす札幌市内の夜景が、360度のパノラマで少しずつ回転しながら眺められる。
夜の外出など、なん年ぶりのことだろう。
しかも、ホテルのディナーだなんて。
家を出るまでは億劫な気持ちもあったけれど、なんて素敵なのだろう。
壮大な夜景を目の前にして、ため息がもれた。
こんなに幸せな気持ちにしてもらえるなんて、思ってもみなかった。
あの時、死んでしまわなくて本当に良かったと心から思える。
北海道産帆立貝の炙りと海の幸のマリネ。ウニとイクラのサラダ添えが運ばれてきた。
左手でナフキンを膝の上へおき、フォークだけで、帆立貝の炙りをいただく。
事前に障がい者であることを伝えていたのだろう。ナイフもテーブルに添えられてはいたけれど、私のものは一口サイズにカットされていた。
新鮮な北海道の海の幸より美味しいものなど、他にないように思われる。
北海道産かぼちゃのクリームポタージュ、エスプーマ仕立てのまろやかな甘さ。
オマール海老のポワレ 。金目鯛と大黒しめじのグリル 、エストラゴン風味のクリュスタッセソース?
一度聞いただけでは覚えられないソースのかかった魚料理が運ばれた。
一体いくらのコースなのだろう。
せっかくのバイト代をこんな高級なレストランで消費させるなんて。
若い頃は欲しいものがたくさんありすぎるというのに。
黒毛和種『知床牛』フィレ肉のポワレをいただく。
柔らかく、深い味わいが口の中にひろがる。
デザートにはいちごづくしのデセール。
いちごのソルベに、いちごとココナッツのテリーヌ。
お礼が言いたくて、健太にiPadを借りた。
『こんなに美味しい食事は生まれて初めて。夜景は素晴らしいし、これほど幸せな母親は他にいないと思う。生きていてよかった。最高のお誕生日をありがとう』
iPad に打ち込みながら、胸が熱くなり、涙ぐむ。
「まだ、プレゼントがあるんだよ。選んだのは姉ちゃんだけどな」
健太はコーヒーを飲みながら、そう言って笑った。
レモンティーを飲んでいた日菜が、あわてて プレゼントが入った紙袋をとりだした。
紙袋の中から取り出したプレゼントの箱は鮮やかなオレンジ色をしていた。
こ、これって、エルメスの、、
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