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沙織の決意
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***沙織***
レストランで隣の女に水などぶっかけられなかったら、もっとステキな誕生日になるはずだったのに。
マンションへ戻ってきてからも、腹が立って仕方がなかった。
なぜか私のまわりにだけ、意地の悪い女がわんさかといるのだ。
そして、いつもひどい目にあわされても少しも同情してもらえない。
レストランを出たあと、車の中で佐野さんが言ったことも癪にさわる。
「ジロジロ見ていた男も悪かったけど、おまえも悪い。相手の女性が怒るのも無理はない」
はぁ?
どういうこと?
愛想笑いをしただけよ。男性が好意的な態度で私を見つめたから。
それがそんなに悪いことなの?
じゃあ、目が合っても仏頂面をしていたらよかったの?
「どうして私が悪いのよっ、なぜみんなで悪者の味方ばかりするのよ!」
佐野さんまでもそうなのかと思い、あまりに悲しくて涙ぐむ。
「そういうことがわからないから、おまえはいつも一人ぼっちなんだよ!」
「いいわよっ、どうせ一生ひとりぼっちなんだから。誰も私の気持ちなんかわからないわよ。うわぁーん!!」
ぐすん、ぐすんと泣いているうちに、自宅のマンションへ着いてしまう。
「沙織、、ごめん。言いすぎたよ。泣くなって、」
慰められてよけいに涙が止まらなくなる。
フン、いつまでも泣いてやるんだから。車を降りてなんてあげないんだから。
「誕生日なのに悪かったよ。ごめんな、沙織」
「私なんてもう死んじゃった方がいいんだわ、誰も悲しんでくれる人なんかいないんだから、うわぁーん!!」
「さ、沙織、、」
佐野さんにはこんなやり方がいいのかも知れない。優しすぎる人だから、放ってはおけないのだろう。
困り果てた佐野さんが、肩を抱いて慰めてくれた。
「俺は沙織がいなくなったら寂しいよ。橋本だって悲しむぞ。だから、変な気なんか起こすなよ」
私が本当に自殺でもすると思っているのだろうか?
「私を愛してくれる人なんて一人もいないもの。一生ひとりぼっちで独身のままなんだわ!」
「そんなことないって。沙織は綺麗だからその気になればすぐに見つけられるだろ。橋本みたいないい奴だっているし」
すぐに橋本君に押し付けようとする。
「年下は無理って言ったでしょう! 自分の方こそ、いつまで人の奥さんなんかを待ってるのよ!」
「………もう、待つのはやめたよ。沙織の言うとおりだよ。離婚なんてするはずない」
思わず泣きまねするのを忘れて顔をあげた。
「本当? 松田さんのこと諦めたの?」
「待ってなんかいたら迷惑なんだよ、彩矢ちゃんは。だから……」
佐野さんは、未練たっぷりな思いつめたようすでうつむいた。
なによ、まだ少しも諦められてないって顔じゃないの。
ーーいいわよ、私が忘れさせてあげるから。
「そうなんだ、よかった、私は諦めなくて」
肩を抱いて慰めてくれていた佐野さんの背中に腕をまわして抱きついた。
「沙織、待てよ、俺は別に、、」
佐野さんは慌てて私を押しのけた。
「まだ、好きなのね。松田さんのことが、忘れられないんでしょう?」
「忘れるしかないだろう。もう、忘れるしか……」
自分に言い聞かせるように、佐野さんは暗い顔をして言った。
「私、待ってる。松田さんのことが忘れられるまで。待っていてもいいでしょう?」
「…………。」
返事には困っていたけれど、はっきりダメとは言われなかった。
嫌われてはいないと思う。多分、同情なのだろうけど、はじめはそれで構わない。
いつか必ず、いつか必ず振りむかせてみせるから。
松田彩矢なんかに絶対に負けないから。
レストランで隣の女に水などぶっかけられなかったら、もっとステキな誕生日になるはずだったのに。
マンションへ戻ってきてからも、腹が立って仕方がなかった。
なぜか私のまわりにだけ、意地の悪い女がわんさかといるのだ。
そして、いつもひどい目にあわされても少しも同情してもらえない。
レストランを出たあと、車の中で佐野さんが言ったことも癪にさわる。
「ジロジロ見ていた男も悪かったけど、おまえも悪い。相手の女性が怒るのも無理はない」
はぁ?
どういうこと?
愛想笑いをしただけよ。男性が好意的な態度で私を見つめたから。
それがそんなに悪いことなの?
じゃあ、目が合っても仏頂面をしていたらよかったの?
「どうして私が悪いのよっ、なぜみんなで悪者の味方ばかりするのよ!」
佐野さんまでもそうなのかと思い、あまりに悲しくて涙ぐむ。
「そういうことがわからないから、おまえはいつも一人ぼっちなんだよ!」
「いいわよっ、どうせ一生ひとりぼっちなんだから。誰も私の気持ちなんかわからないわよ。うわぁーん!!」
ぐすん、ぐすんと泣いているうちに、自宅のマンションへ着いてしまう。
「沙織、、ごめん。言いすぎたよ。泣くなって、」
慰められてよけいに涙が止まらなくなる。
フン、いつまでも泣いてやるんだから。車を降りてなんてあげないんだから。
「誕生日なのに悪かったよ。ごめんな、沙織」
「私なんてもう死んじゃった方がいいんだわ、誰も悲しんでくれる人なんかいないんだから、うわぁーん!!」
「さ、沙織、、」
佐野さんにはこんなやり方がいいのかも知れない。優しすぎる人だから、放ってはおけないのだろう。
困り果てた佐野さんが、肩を抱いて慰めてくれた。
「俺は沙織がいなくなったら寂しいよ。橋本だって悲しむぞ。だから、変な気なんか起こすなよ」
私が本当に自殺でもすると思っているのだろうか?
「私を愛してくれる人なんて一人もいないもの。一生ひとりぼっちで独身のままなんだわ!」
「そんなことないって。沙織は綺麗だからその気になればすぐに見つけられるだろ。橋本みたいないい奴だっているし」
すぐに橋本君に押し付けようとする。
「年下は無理って言ったでしょう! 自分の方こそ、いつまで人の奥さんなんかを待ってるのよ!」
「………もう、待つのはやめたよ。沙織の言うとおりだよ。離婚なんてするはずない」
思わず泣きまねするのを忘れて顔をあげた。
「本当? 松田さんのこと諦めたの?」
「待ってなんかいたら迷惑なんだよ、彩矢ちゃんは。だから……」
佐野さんは、未練たっぷりな思いつめたようすでうつむいた。
なによ、まだ少しも諦められてないって顔じゃないの。
ーーいいわよ、私が忘れさせてあげるから。
「そうなんだ、よかった、私は諦めなくて」
肩を抱いて慰めてくれていた佐野さんの背中に腕をまわして抱きついた。
「沙織、待てよ、俺は別に、、」
佐野さんは慌てて私を押しのけた。
「まだ、好きなのね。松田さんのことが、忘れられないんでしょう?」
「忘れるしかないだろう。もう、忘れるしか……」
自分に言い聞かせるように、佐野さんは暗い顔をして言った。
「私、待ってる。松田さんのことが忘れられるまで。待っていてもいいでしょう?」
「…………。」
返事には困っていたけれど、はっきりダメとは言われなかった。
嫌われてはいないと思う。多分、同情なのだろうけど、はじめはそれで構わない。
いつか必ず、いつか必ず振りむかせてみせるから。
松田彩矢なんかに絶対に負けないから。
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