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離婚後の打撃
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**彩矢**
両親にも、悠李と雪花にも離婚のことは言えなかった。
あれほど悩んで決心し、離婚届を提出してきたにもかかわらず、子供たちに隠れてメソメソ泣いてばかりいる。
離婚届を提出するなど、今思えば簡単なことだった。大変なのはこれからなのだ。
ジェニファーはわざわざ来日までして、家庭を壊すつもりはありませんと言いに来てくれたのに。
彼女があまりに穏やかで無欲な女の子だったから、つい同情してしまったのかも知れない。
そして、あまりに美しく完璧に見えたジェニファーに恐れをなしたのだった。
あんな娘に勝てるわけがないと。
それは確かにそうだったと思う。
子供まで産まれてしまったら、わたしに勝ち目などあるはずもなかった。
離婚届を出さずにいればいたでまた、落ち着かない日々を過ごすことになったのだろう。
だけど、離婚によるダメージは想像以上にひどく、すぐに佐野さんへ鞍替えするような気分にはなれなかった。
潤一に離婚届を提出したことを伝えなくてはいけない。
電話で直接話をする勇気は持てなかった。
『この間、役所に離婚届を提出して来ました。ジェニファーと少し話しもしました。潤一さんの子であることに間違いはなさそうです。彼女と幸せになってください。諸々の急がない手続きは、帰国後で構いません。お元気で、研修がんばってください。さようなら
』
離婚届が出されたと知ったら、潤一はすぐにもジェニファーと入籍をするのだろうか。
そう思うと送信することが躊躇われた。
こんな文面では、今の気持ちの百分の一も伝えられない気がする。
LINEで送ること自体が軽薄すぎる。
だけど、離婚届を提出してしまった今となってはこれ以上なにが言えよう。
死にたいほどの悲しい気持ちを伝えたからといって、それが一体なにになるのか?
今さら潤一に、どうしてもらいたいのか。
別になにをしてくれなくてもいい。ただ、喜び勇んで佐野さんのところへ行こうとしていた訳ではない。そのことを知って欲しい。
私は無い物ねだりをしていたのだ。家族を顧みない、仕事人間の潤一との生活が寂しくて。
その一方で、医師としては尊敬をしていた。そんな仕事熱心な潤一だったから、新米ナースの自分は憧れの気持ちをいだいたのだ。
ーー結局、ずっと片思いだったのかも知れない。
どんなに浮気をされようと、嫌いにはなれなかった。悲しい気持ちを紛らわせようと、佐野さんへ逃避していたのだろうか。
冷めてしまったから佐野さんのところへ行くのではないということを、どうやって伝えたらいいのだろう。
でも、何故そんな言い訳を探しているの?
やっぱり、まだ期待をしているの?
潤一がロスアンゼルスから飛んで来て、” 彩矢、やっぱり俺たち、もう一度やりなおそう ” って言ってもらいたいの?
子供たちの寝息が聞こえる実家の和室で、今夜も寝付けず、そんな堂々巡りの考えても仕方のないこと思っては涙にくれていた。
離婚したことを潤一に報告できないまま、忙しい毎日に追われる。
しなければいけない手続きの多さに驚かされる。
児童扶養手当のことくらいは知っていたけれど、住宅手当や医療費の助成、旧姓に戻すの戻さないのなど、離婚を取り消したくなるほど、うんざりな手続きが山ほどあった。
勤め先にも離婚したことは伝えないといけないのいのだろうか。事務手続きなどが必要なのかも知れないが、出来ることならまだ伏せておきたいけれど。
昼休み、同僚ナースや助手さんと食堂で日替わりランチを食べていたら、窓際の誰もいないテーブルに沙織さんが一人ぽつんと、日替わり定食のトレイをおいた。
いつものことで特に誰も気にもとめなかった。
ひとりぼっちの沙織さんを気の毒に思わないわけではないけれど、私に助けてあげられるような何かが出来るわけもない。
佐野さんがいつ食堂に入って来たのか、気づかなかった。
一人ぼっちの沙織さんの向かい側に、佐野さんはトレイを置いて座った。
沙織さんの顔がパッと明るい笑顔になった。
テーブルは離れていたので何を話しているのかは聞こえなかったけれど、沙織さんに向けられた佐野さんの穏やかな眼差しに、ひどく焦りを感じた。
だけど、佐野さんは優しいから一人ぼっちの沙織さんを放っておけないのだろう。
ただ、単純にそう思いこもうとしていた。
「ねぇ、北村と佐野さんが付き合ってるって本当なの?」
3歳年上のナース、早川さんがヒソヒソと囁く。
院内のうわさ話などに疎い私には何も答えられない。
「さぁ? 私は聞いてませんけど……」
看護助手の野田さんは、この病院には10年も務めている50を過ぎた噂好きの主婦で、そういった話には耳ざとかった。
「本当みたいよ。最近、しょっちゅう一緒に帰ってるって」
野田さんは面白くなさそうに、フンッと鼻をならして、エビフライにタルタルソースをつけた。
「なにも北村と付き合わなくたっていいと思うけどね。 ここにこんないい女がいるってのにさ。なんで気づいてくれないのよ。私なんて来月三十路よ~」
早川さんはそう言ってため息をつくと、美味しくなさそうにご飯を食べた。
「ただ指をくわえて待ってるだけじゃダメよぉ~。北村はレントゲン室に通いつめてた甲斐があったわね。あの二人、お互いにバツイチ同士だから再婚するんじゃないの? あ~あ、病院に来る楽しみがまた一つ減っちゃったわよ」
「いいなぁ、北村は美人で。私も一回くらい結婚したかったなぁー」
しょんぼりと早川さんはうなだれる。
「まだ、30なら望みあるわよ。頑張りなさいよっ!」
野田さんは早川さんの背中をバシッと叩いて励ました。
「頑張るって言ってもね~ 松田さんはどうやってご主人のハートを射止めたの? やっぱり可愛いから言い寄られたわけ? 」
突然、思いもよらない質問をふられて戸惑った。
「あ、いえ、……、、な、なんとなく付き合ってるうちに、結婚することになってしまって、、」
あやふやな態度で誤魔化す。
「やっぱり、きれいな子は得よねぇ。なんの努力もなしに、いい男をゲットするもの」
「なに言ってるのよ。結婚してるほとんどが普通の顔じゃないの。こういうのは縁だから、美人でも結婚してない人はたくさんいるでしょ」
「それは高望みしすぎて行き遅れたのよ。美人は最高の男と恋愛して結婚ができるのよぉ。並みの女とは全然ちがうわよ」
ふて腐れたように早川さんは言い放つ。
「そんなことないって。だけど、あの二人は年内に結婚しそうね。北村がぞっこんって感じだもの。佐野さんなんて優しいから押し切られちゃうわよ」
野田さんが言うとなにか説得力があって、本当に今にもあの二人が再婚してしまいそうな気がした。
そんな、佐野さん……。
沙織さんの片思いにすぎないとばかり思っていたのに。
沙織さんに取られてしまうなんて、思ってもみなかった。こんなことなら潤一をジェニファーになど譲るのではなかった。
二兎追うものは一兎も得ずということか。
離婚で落ち込んでいたところに、さらにひどい打撃を受けて、日替わりランチが食べられなくなってしまった。
離婚はもうしてしまったことなのだ。いつまでも引きずって、クヨクヨなどしていられない。
今になって佐野さんを取られてしまったら、一体なんのために離婚したのか。
沙織さんには申し訳ないけど、まだチャンスがあるなら佐野さんを諦めたくない。
食堂からナースステーションの休憩室へ戻り、佐野さんへLINEを送った。
『今日の帰りは何か予定がありますか? なければ会って話したいことがあるのですが』
今は佐野さんも休憩中だと思うけれど。沙織さんもレントゲン室に一緒にいるのだろうか。
返事はすぐに届いた。
『予定はあるんだけど、急ぎの用ならキャンセルします。LINEでは話せないことなのかい?』
すぐにOKの返事がもらえると信じて疑わなかった。
それなのに………。
今までとは全くちがう、明らかに冷めてしまっている佐野さんの対応に、ひどくショックを受ける。
『突然ごめんなさい。大丈夫です。また今度にします』
泣き出してしまいそうなほど絶望的な気持ちで返信をした。
仕事を終え、実家で待っている子供たちと夕食を食べた後、今日は琴似のマンションへ戻ることにした。
早くひとりになって泣きたかったから。
お風呂に入れてお布団を敷き、いつものように悠李と雪花に読んでほしい絵本を選ばせた。
悠李が好きな『めっきらもっきらどおんどん』と、雪花が好きな『しろくまちゃんのホットケーキ』を読む。
食欲旺盛な雪花は、食べ物がでてくるお話が大好きだ。
「ポターン、プツプツ、まだかな? まーだまだ、、はい、できあがり」
雪花は中々寝てくれなくて、『ぐりとぐら』も読んであげて、やっとウトウトしだした。
寝たと思っていた悠李はまだ眠っていなかった。パッチリと目をあけ、天井を見つめている。
「悠李、まだ寝てなかったの? 絵本まだ読む?」
「いらない! 悠李はもう、自分で読めるもん! ママ、悠李、パパのところに電話する。九九を言えるようになったって、パパに知らせてあげるんだ」
「悠李、、ロサンゼルスはまだ朝の4時頃だからパパは寝ているよ。今度にしようね」
「今度っていつ? この間もママは ” 今度ね ” って、言ってたじゃないか」
不信感がいっぱいの目で悠李は睨む。
「……パパは今とっても忙しいの。アメリカでたくさんお勉強しないといけなくて、電話をしても病院にいることの方が多いのよ。だからパパの方から電話が来るの待ってようね」
「やだっ! 悠李が電話する。ママのスマホかして」
枕元に置いていた私のスマホをつかんだ。
「ダメよっ、パパはまだ寝てるって言ったでしょう。もう、いいかげんにあなたも早く寝なさい!」
思わずきつく叱って、悠李からスマホをとりあげた。
「ママのウソつき! ママはウソをついてる。わざといじわるしてるんだ、うわーん!!」
……お願いだから責めないでよ。
悠李を慰さめてあげる余裕はなかった。
離婚してしまった後悔と、佐野さんを奪われてしまったショックに加え、悠李にまで責められて無理やりせき止めていた涙腺がとうとう崩壊した。
わっと泣き出し布団に伏せっていたら、悠李は驚いたのか私の頭をなでてくれた。
「ママ、ごめんね、泣かないで。ごめんね、ママ、ママ~」
泣きながら慰さめてくれる悠李が不憫で、潤一の実の子である雪花にも酷いことをしてしまった後悔で、嗚咽が止まらなくなる。
「あーん、うわーーん!!」
子供の前で大泣きするなんて、なんて困った母親なんだろうと呆れながらも、止めることが出来なかった」
「ママ~、泣かないで、ママ~!」
両親にも、悠李と雪花にも離婚のことは言えなかった。
あれほど悩んで決心し、離婚届を提出してきたにもかかわらず、子供たちに隠れてメソメソ泣いてばかりいる。
離婚届を提出するなど、今思えば簡単なことだった。大変なのはこれからなのだ。
ジェニファーはわざわざ来日までして、家庭を壊すつもりはありませんと言いに来てくれたのに。
彼女があまりに穏やかで無欲な女の子だったから、つい同情してしまったのかも知れない。
そして、あまりに美しく完璧に見えたジェニファーに恐れをなしたのだった。
あんな娘に勝てるわけがないと。
それは確かにそうだったと思う。
子供まで産まれてしまったら、わたしに勝ち目などあるはずもなかった。
離婚届を出さずにいればいたでまた、落ち着かない日々を過ごすことになったのだろう。
だけど、離婚によるダメージは想像以上にひどく、すぐに佐野さんへ鞍替えするような気分にはなれなかった。
潤一に離婚届を提出したことを伝えなくてはいけない。
電話で直接話をする勇気は持てなかった。
『この間、役所に離婚届を提出して来ました。ジェニファーと少し話しもしました。潤一さんの子であることに間違いはなさそうです。彼女と幸せになってください。諸々の急がない手続きは、帰国後で構いません。お元気で、研修がんばってください。さようなら
』
離婚届が出されたと知ったら、潤一はすぐにもジェニファーと入籍をするのだろうか。
そう思うと送信することが躊躇われた。
こんな文面では、今の気持ちの百分の一も伝えられない気がする。
LINEで送ること自体が軽薄すぎる。
だけど、離婚届を提出してしまった今となってはこれ以上なにが言えよう。
死にたいほどの悲しい気持ちを伝えたからといって、それが一体なにになるのか?
今さら潤一に、どうしてもらいたいのか。
別になにをしてくれなくてもいい。ただ、喜び勇んで佐野さんのところへ行こうとしていた訳ではない。そのことを知って欲しい。
私は無い物ねだりをしていたのだ。家族を顧みない、仕事人間の潤一との生活が寂しくて。
その一方で、医師としては尊敬をしていた。そんな仕事熱心な潤一だったから、新米ナースの自分は憧れの気持ちをいだいたのだ。
ーー結局、ずっと片思いだったのかも知れない。
どんなに浮気をされようと、嫌いにはなれなかった。悲しい気持ちを紛らわせようと、佐野さんへ逃避していたのだろうか。
冷めてしまったから佐野さんのところへ行くのではないということを、どうやって伝えたらいいのだろう。
でも、何故そんな言い訳を探しているの?
やっぱり、まだ期待をしているの?
潤一がロスアンゼルスから飛んで来て、” 彩矢、やっぱり俺たち、もう一度やりなおそう ” って言ってもらいたいの?
子供たちの寝息が聞こえる実家の和室で、今夜も寝付けず、そんな堂々巡りの考えても仕方のないこと思っては涙にくれていた。
離婚したことを潤一に報告できないまま、忙しい毎日に追われる。
しなければいけない手続きの多さに驚かされる。
児童扶養手当のことくらいは知っていたけれど、住宅手当や医療費の助成、旧姓に戻すの戻さないのなど、離婚を取り消したくなるほど、うんざりな手続きが山ほどあった。
勤め先にも離婚したことは伝えないといけないのいのだろうか。事務手続きなどが必要なのかも知れないが、出来ることならまだ伏せておきたいけれど。
昼休み、同僚ナースや助手さんと食堂で日替わりランチを食べていたら、窓際の誰もいないテーブルに沙織さんが一人ぽつんと、日替わり定食のトレイをおいた。
いつものことで特に誰も気にもとめなかった。
ひとりぼっちの沙織さんを気の毒に思わないわけではないけれど、私に助けてあげられるような何かが出来るわけもない。
佐野さんがいつ食堂に入って来たのか、気づかなかった。
一人ぼっちの沙織さんの向かい側に、佐野さんはトレイを置いて座った。
沙織さんの顔がパッと明るい笑顔になった。
テーブルは離れていたので何を話しているのかは聞こえなかったけれど、沙織さんに向けられた佐野さんの穏やかな眼差しに、ひどく焦りを感じた。
だけど、佐野さんは優しいから一人ぼっちの沙織さんを放っておけないのだろう。
ただ、単純にそう思いこもうとしていた。
「ねぇ、北村と佐野さんが付き合ってるって本当なの?」
3歳年上のナース、早川さんがヒソヒソと囁く。
院内のうわさ話などに疎い私には何も答えられない。
「さぁ? 私は聞いてませんけど……」
看護助手の野田さんは、この病院には10年も務めている50を過ぎた噂好きの主婦で、そういった話には耳ざとかった。
「本当みたいよ。最近、しょっちゅう一緒に帰ってるって」
野田さんは面白くなさそうに、フンッと鼻をならして、エビフライにタルタルソースをつけた。
「なにも北村と付き合わなくたっていいと思うけどね。 ここにこんないい女がいるってのにさ。なんで気づいてくれないのよ。私なんて来月三十路よ~」
早川さんはそう言ってため息をつくと、美味しくなさそうにご飯を食べた。
「ただ指をくわえて待ってるだけじゃダメよぉ~。北村はレントゲン室に通いつめてた甲斐があったわね。あの二人、お互いにバツイチ同士だから再婚するんじゃないの? あ~あ、病院に来る楽しみがまた一つ減っちゃったわよ」
「いいなぁ、北村は美人で。私も一回くらい結婚したかったなぁー」
しょんぼりと早川さんはうなだれる。
「まだ、30なら望みあるわよ。頑張りなさいよっ!」
野田さんは早川さんの背中をバシッと叩いて励ました。
「頑張るって言ってもね~ 松田さんはどうやってご主人のハートを射止めたの? やっぱり可愛いから言い寄られたわけ? 」
突然、思いもよらない質問をふられて戸惑った。
「あ、いえ、……、、な、なんとなく付き合ってるうちに、結婚することになってしまって、、」
あやふやな態度で誤魔化す。
「やっぱり、きれいな子は得よねぇ。なんの努力もなしに、いい男をゲットするもの」
「なに言ってるのよ。結婚してるほとんどが普通の顔じゃないの。こういうのは縁だから、美人でも結婚してない人はたくさんいるでしょ」
「それは高望みしすぎて行き遅れたのよ。美人は最高の男と恋愛して結婚ができるのよぉ。並みの女とは全然ちがうわよ」
ふて腐れたように早川さんは言い放つ。
「そんなことないって。だけど、あの二人は年内に結婚しそうね。北村がぞっこんって感じだもの。佐野さんなんて優しいから押し切られちゃうわよ」
野田さんが言うとなにか説得力があって、本当に今にもあの二人が再婚してしまいそうな気がした。
そんな、佐野さん……。
沙織さんの片思いにすぎないとばかり思っていたのに。
沙織さんに取られてしまうなんて、思ってもみなかった。こんなことなら潤一をジェニファーになど譲るのではなかった。
二兎追うものは一兎も得ずということか。
離婚で落ち込んでいたところに、さらにひどい打撃を受けて、日替わりランチが食べられなくなってしまった。
離婚はもうしてしまったことなのだ。いつまでも引きずって、クヨクヨなどしていられない。
今になって佐野さんを取られてしまったら、一体なんのために離婚したのか。
沙織さんには申し訳ないけど、まだチャンスがあるなら佐野さんを諦めたくない。
食堂からナースステーションの休憩室へ戻り、佐野さんへLINEを送った。
『今日の帰りは何か予定がありますか? なければ会って話したいことがあるのですが』
今は佐野さんも休憩中だと思うけれど。沙織さんもレントゲン室に一緒にいるのだろうか。
返事はすぐに届いた。
『予定はあるんだけど、急ぎの用ならキャンセルします。LINEでは話せないことなのかい?』
すぐにOKの返事がもらえると信じて疑わなかった。
それなのに………。
今までとは全くちがう、明らかに冷めてしまっている佐野さんの対応に、ひどくショックを受ける。
『突然ごめんなさい。大丈夫です。また今度にします』
泣き出してしまいそうなほど絶望的な気持ちで返信をした。
仕事を終え、実家で待っている子供たちと夕食を食べた後、今日は琴似のマンションへ戻ることにした。
早くひとりになって泣きたかったから。
お風呂に入れてお布団を敷き、いつものように悠李と雪花に読んでほしい絵本を選ばせた。
悠李が好きな『めっきらもっきらどおんどん』と、雪花が好きな『しろくまちゃんのホットケーキ』を読む。
食欲旺盛な雪花は、食べ物がでてくるお話が大好きだ。
「ポターン、プツプツ、まだかな? まーだまだ、、はい、できあがり」
雪花は中々寝てくれなくて、『ぐりとぐら』も読んであげて、やっとウトウトしだした。
寝たと思っていた悠李はまだ眠っていなかった。パッチリと目をあけ、天井を見つめている。
「悠李、まだ寝てなかったの? 絵本まだ読む?」
「いらない! 悠李はもう、自分で読めるもん! ママ、悠李、パパのところに電話する。九九を言えるようになったって、パパに知らせてあげるんだ」
「悠李、、ロサンゼルスはまだ朝の4時頃だからパパは寝ているよ。今度にしようね」
「今度っていつ? この間もママは ” 今度ね ” って、言ってたじゃないか」
不信感がいっぱいの目で悠李は睨む。
「……パパは今とっても忙しいの。アメリカでたくさんお勉強しないといけなくて、電話をしても病院にいることの方が多いのよ。だからパパの方から電話が来るの待ってようね」
「やだっ! 悠李が電話する。ママのスマホかして」
枕元に置いていた私のスマホをつかんだ。
「ダメよっ、パパはまだ寝てるって言ったでしょう。もう、いいかげんにあなたも早く寝なさい!」
思わずきつく叱って、悠李からスマホをとりあげた。
「ママのウソつき! ママはウソをついてる。わざといじわるしてるんだ、うわーん!!」
……お願いだから責めないでよ。
悠李を慰さめてあげる余裕はなかった。
離婚してしまった後悔と、佐野さんを奪われてしまったショックに加え、悠李にまで責められて無理やりせき止めていた涙腺がとうとう崩壊した。
わっと泣き出し布団に伏せっていたら、悠李は驚いたのか私の頭をなでてくれた。
「ママ、ごめんね、泣かないで。ごめんね、ママ、ママ~」
泣きながら慰さめてくれる悠李が不憫で、潤一の実の子である雪花にも酷いことをしてしまった後悔で、嗚咽が止まらなくなる。
「あーん、うわーーん!!」
子供の前で大泣きするなんて、なんて困った母親なんだろうと呆れながらも、止めることが出来なかった」
「ママ~、泣かないで、ママ~!」
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