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第2章
懐かしい海岸線をぬけて
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高速を通って一時間ほど走り、余市《よいち》町というところに出る。
ここには『マッサン』という、NHKの朝ドラに出て来た、ニッカのウイスキー工場がある。
日本初の宇宙飛行士、毛利衛さんが生まれ育った町でもある。
果樹園を営んでいる農家が多い自然が豊かな町だ。
いつのまにか七海は助手席で寝ていた。
まだ、函館までは三時間ほどかかる。
実家の両親に七海のことを、なんて紹介すべきか悩んだ。
僕の今の懐事情では、ホテルに泊まり続けるわけにはいかないし。
七海は明るすぎる性質ではあるけれど、訳あり少女にも見えなくはない。
DVでストーカーの元カレに、待ち伏せされて困っている女の子ということにしておこうか。
沙織の友人で、沙織からたのまれたということにしておくのがいいと思った。
町中をぬけ、懐かしい海岸線を走る。
よく晴れた今日の海は、濃いロイヤルブルーにエメラルドグリーンが、折り重なったような鮮やかさで彩られていた。
波もなくキラキラ光る水面の向こうに、ロウソクのように細く尖ったロウソク岩が見えてきた。
「七海、ロウソク岩が見えて来たよ」
眠っていた七海に声をかけると、ぼんやりとうつろな目を開けた。
「あー、本当だ。あの岩見たことがある。翔ちゃんとドライブで来たことがあるから」
過去を懐かしむかのように微笑むと、はにかみながらまた海を見つめた。
そんなに金谷が好きなのか。
途中、二度ほど道の駅に寄り、函館の実家に着いたのはちょうどお昼を過ぎた頃だった。
「七海、入って」
表玄関は整骨院の患者が出入りするので、裏口の鍵を開けた。
「ふーん、慎ちゃんのおうちって整骨院なんだね」
「今はちょうどお昼休みだから、うちの親もお昼ご飯を食べてるんじゃないかな。突然だから、びっくりするだろうな」
「慎ちゃんのご両親は怖い人? 七海みたいな子を見たらびっくりするかも知れないね」
人見知りなどしなさそうな七海だけれど、少し不安げな顔をして見せた。
「大丈夫だよ。うちの親父とお袋はとっても優しいから。ただ両親にはちょっと嘘をつく。なんといっても僕はまだ、新婚二ヶ月の身の上だからね。それで、話を合わせて欲しいんだ、頼むよ」
「ウヒャヒャ~! いいよ、なんだか楽しそうだね。じゃあ、わたしは慎ちゃんの愛人役なんでしょ?」
「バカ、そんなわけないだろう。ヤクザな元カレに追いかけ回されてる可哀想な娘ってことにしておこう」
「えーっ、なにそれ~~!」
とってもいいアイデアだと思うのに、七海はつまらなそうに唇を尖らせた。
「しーっ、静かに。とにかく中へ入って」
「はーい、お邪魔しまーす!!」
七海は喜劇役者にでもなったかのようにワクワクしたようすで、僕の後ろから着いて来た。
裏口からキッチンを通り、リビングに入った。
「あ、ただいま!」
両親は昼食を食べているのかと思ったら、深刻そうな顔をして、ソファに腰掛けていた。
「まぁ、慎也だわ!」
驚いた母の唖然とした顔が見え、その隣に腰をおろしていたのは、
「さ、沙織!!」
ここには『マッサン』という、NHKの朝ドラに出て来た、ニッカのウイスキー工場がある。
日本初の宇宙飛行士、毛利衛さんが生まれ育った町でもある。
果樹園を営んでいる農家が多い自然が豊かな町だ。
いつのまにか七海は助手席で寝ていた。
まだ、函館までは三時間ほどかかる。
実家の両親に七海のことを、なんて紹介すべきか悩んだ。
僕の今の懐事情では、ホテルに泊まり続けるわけにはいかないし。
七海は明るすぎる性質ではあるけれど、訳あり少女にも見えなくはない。
DVでストーカーの元カレに、待ち伏せされて困っている女の子ということにしておこうか。
沙織の友人で、沙織からたのまれたということにしておくのがいいと思った。
町中をぬけ、懐かしい海岸線を走る。
よく晴れた今日の海は、濃いロイヤルブルーにエメラルドグリーンが、折り重なったような鮮やかさで彩られていた。
波もなくキラキラ光る水面の向こうに、ロウソクのように細く尖ったロウソク岩が見えてきた。
「七海、ロウソク岩が見えて来たよ」
眠っていた七海に声をかけると、ぼんやりとうつろな目を開けた。
「あー、本当だ。あの岩見たことがある。翔ちゃんとドライブで来たことがあるから」
過去を懐かしむかのように微笑むと、はにかみながらまた海を見つめた。
そんなに金谷が好きなのか。
途中、二度ほど道の駅に寄り、函館の実家に着いたのはちょうどお昼を過ぎた頃だった。
「七海、入って」
表玄関は整骨院の患者が出入りするので、裏口の鍵を開けた。
「ふーん、慎ちゃんのおうちって整骨院なんだね」
「今はちょうどお昼休みだから、うちの親もお昼ご飯を食べてるんじゃないかな。突然だから、びっくりするだろうな」
「慎ちゃんのご両親は怖い人? 七海みたいな子を見たらびっくりするかも知れないね」
人見知りなどしなさそうな七海だけれど、少し不安げな顔をして見せた。
「大丈夫だよ。うちの親父とお袋はとっても優しいから。ただ両親にはちょっと嘘をつく。なんといっても僕はまだ、新婚二ヶ月の身の上だからね。それで、話を合わせて欲しいんだ、頼むよ」
「ウヒャヒャ~! いいよ、なんだか楽しそうだね。じゃあ、わたしは慎ちゃんの愛人役なんでしょ?」
「バカ、そんなわけないだろう。ヤクザな元カレに追いかけ回されてる可哀想な娘ってことにしておこう」
「えーっ、なにそれ~~!」
とってもいいアイデアだと思うのに、七海はつまらなそうに唇を尖らせた。
「しーっ、静かに。とにかく中へ入って」
「はーい、お邪魔しまーす!!」
七海は喜劇役者にでもなったかのようにワクワクしたようすで、僕の後ろから着いて来た。
裏口からキッチンを通り、リビングに入った。
「あ、ただいま!」
両親は昼食を食べているのかと思ったら、深刻そうな顔をして、ソファに腰掛けていた。
「まぁ、慎也だわ!」
驚いた母の唖然とした顔が見え、その隣に腰をおろしていたのは、
「さ、沙織!!」
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