六華 snow crystal 5

第2章

最悪な別れ

固まって動けなくなっている慎ちゃんの隣に、下品な金髪女が不自然な作り笑いを浮かべて立っていた。


「こんにちは～～  七海と申します。お邪魔しまーす！」


元ヤンキーか、いかがわしい商売でもしていそうな安っぽい女だった。


年増に飽きて、今度はコギャルに走ったというわけ？


離婚したくなった理由はこの娘のせいなのね。


ムラムラと怒りの感情がわき起こった。

 

ビシッ！！


立ち上がって女の前へ行き、横っ面を思いっきり引っ叩いていた。



「キャアーー！！」


女はぶたれた頰をおさえてうずくまった。



「出て行きなさいっ、このあばずれ女！  ここはあなたみたいな女の来るところじゃないわよ！」


慎ちゃんからなにを言われたのか知らないけれど、愛人の分際で実家にまで乗り込んでくるなんて、図々しいにもほどがある。


あっけらかんとしていた軽薄女の表情が、ガラリと変わった。


その目はなんとも言えないほど仄暗《ほのぐら》く、地獄の底から這い上がってきたかのような恨めしさで私を見上げた。



こんな怖ろしい女には会ったこともない。



背筋に冷たいものが流れて戦慄した。




「ふ～ん、この人が慎ちゃんの奥さんなの？」


金髪女は取り乱すこともなく、不気味な笑みを浮かべた。


「沙織、誤解しないでくれ。この娘はそんなんじゃないんだ」


慌てふためいている慎ちゃんを退けて、女は私の前に立ちはだかった。



「なるほどね。慎ちゃんが別れたくなるのも無理ないわ。こんな女の尻に敷かれてることないよ。七海、慎ちゃんを離婚の危機から救ってあげようと思ったけど、やっぱりやめた。こんな女とは別れて正解だよ！」



やっぱり元ヤンキーなのだろう。


女は上目遣いにやさぐれた笑みを浮かべた。

  

「七海、やめろ、余計なことを言うな！」


「言うよ～～  もう、ぜーんぶ言っちゃう。
世界中で一番七海が好きって慎ちゃん言ってたじゃん、昨日の夜」


「嘘をつくな！ 沙織、違うんだ、これには事情があって、、」


あせって弁解する慎ちゃんの顔が涙でぼやけた。



七海という女は手で隠すこともなく、大きなあくびをした。


「ふぁーあ、七海めっちゃねむーい。もう、慎ちゃんのせいだよぉ、一晩中寝かせてくれないんだもん。ババァの相手はもう、うんざりだってさぁー」



「なんてことを言うんだよっ！！ 」


もう慎ちゃんの声も、言い争う声もなにも聞こえなかった。


バッグをつかんでリビングから飛び出していた。



もう、、もう、無理だ。



慎ちゃんとはやっていけない！



泣きながら駅へと走った。