六華 snow crystal 8

なごみ

文字の大きさ
3 / 69

こんなことになるなんて、

しおりを挟む


颯爽と駆けつけた先生が、まるで白馬に乗った王子様か、雲に乗って現れた救世主のように思えた。



「大丈夫か?」


腰を抜かしてひっくり返っていた私を引っ張り上げてくれた。



「アナタハ誰デスカ?」


陰険な目つきでゲオルクは私たちのそばに来た。


「俺は茉理の主治医だ。病気がまたぶり返したようだから、このまま病院へ連れて行く」


そんな嘘を言って先生は私の腕をつかんだけれど。


ゲオルクがそんな言葉に納得して、私を解放してくれるはずもなかった。



「ワタシハ茉理ノフィアンセデス。モット優秀ナ医師ニ診テモライマス」


ゲオルクはそう言って、私のもう一方の腕をつかんだ。



「ギャアーー!!」


そばにいるだけで戦慄する人に腕をつかまれ、発狂しそうになる。



「茉理、落チ着イテクダサイ」


のけぞって硬直している私をゲオルクは抱きしめようとした。


「やめろ! この変態野郎、茉理にさわるな!!」



ーーボカッ!!


先生の拳がゲオルクの顔面を直撃した。



「ゲオルクさんっ!!」


後方からママの叫けぶ声が聞こえた。


ゲオルクはそのまま地面に倒れて、起き上がらなかった。



「茉理、行くぞ!」



「先生………」



まるで悪漢から救い出す映画のヒーローみたいにカッコ良かった。


二人で立ち去ろうとした瞬間、ドスッと鈍い音がしたと思ったら、今度は先生が膝からその場に崩れた。



えっ?


先生の後ろにレオンが能面みたいな顔で立っていた。


「レオン!  何したのっ!! 先生?  先生!!」

 

コンクリートの上で横たわっている先生は、呼んでも目を開けず、意識がなかった。


「なんて事してくれたのよ! 死んじゃったじゃないの!!」



まさか、こんなことになるなんて。


「大丈夫。急所ヲ外シテマス。アト五分モシタラ目ヲ覚マスデショウ」


落ち着いた様子でそう言ったレオンは、空手三段の黒帯だった。




「ゲオルクさん、大丈夫ですか?  ゲオルクさん!!」


ママが倒れているゲオルクに話しかけていた。


ゲオルクは仰向けに目を開けたまま、宙をジッと睨みつけていた。


「ムコウノ方ガズット問題デス」


レオンが倒れているゲオルクを見て、ため息をつきながらそう言った。


「ゲオルクは意識があるじゃない。先生の方がずっと重症よ!」


「ゲオルクヲ怒ラセタノハ茉理、アナタノ責任。今後ドンナ報復ニ出ルカ。コノ医師ハ破滅サセラレル」



ーー破滅って、、どういうこと? 




「ゲオルクの怪我は大したことないじゃない。先生は私を守ろうとして殴ったのよ」


「マンシュタイングループニハ、有能ナ顧問弁護士ガ何人モイマス。陪審員タチヲ買収スルコトニモ長ケテイル。コンナ医師一人、闇ニ葬ルコトナド造作ナイコトナノデス」



………………。



無表情に語ったレオンの言葉に嘘はないと思えた。


陰険極まりないゲオルクなら、十分にやりかねない。



ことの重大さを知り、震えがとまらなくなる。



これから、どうすればいいの?



先生は一体どうなっちゃうの?



私はゲオルクの言いなりにならないといけないの?










しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

とある男の包〇治療体験記

moz34
エッセイ・ノンフィクション
手術の体験記

処理中です...