六華 snow crystal 8

なごみ

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二人でカフェへ

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初対面の僕に少しも臆することなく、堂々と挨拶をする彼女に圧倒されそうになる。


だけど、ここでひるむわけにはいかなかった。


母の思惑どうりにされてたまるか!


「悪いけど、帰ってくれないかな」


僕は悪びれたようすも見せずに、平然と言ってのけた。


「聡ちゃん!! なんてこと言うの!」


母がびっくりするような大声をだして僕をたしなめた。


今までの従順だった僕としては、かなり大胆な反抗だったと思う。


「いいんです。おば様、私は大丈夫です。突然無断でお部屋に入られたりしたら、不快に思われても仕方がありませんわ」


僕の塩対応とは対照的に、彼女は微笑みながら寛容な態度を示した。


そして素早くエプロンを外し、ハンガーに掛けられたコートに手を伸ばした。



「結衣さん、待ってちょうだい。本当にごめんなさい。こんな最低の礼儀もわきまえてないなんて、親として面目ないわ。聡ちゃん、謝りなさい! いくらなんでも酷すぎるわっ!!」


母は今にも泣き出さんばかりの目で僕を睨みつけた。確かに僕の大人気ない態度は褒められたものではない。


別に結衣さんを傷つけたいとは少しも思わない。だけど僕の気持ちを無視した母の身勝手な振る舞いは許せない。


「失礼な態度は謝るよ。申し訳なかった。だけどこれは母が勝手に仕組んだことで、僕が了承していたことじゃない」


僕は彼女から視線をはずしたまま、ペコリと頭を下げた。


「あの、もしよろしければ外で少しだけでもお話しできませんか? 」


好感度抜群の彼女は臆することなく僕に微笑みかけた。



この結衣という女性は、なにが目的で僕のような男と話がしたいのだろう。誰がみても相手に困るような女性ではない。


「話って、、 君がなにを考えているのかわからないけど、時間のムダだと思うよ」


この話には何かウラがあるに違いないと思った。


「時間のムダかどうかは話してみなければわからないでしょう。15分ほどでいいのでお願いできませんか?」


これから美穂さんの住む真駒内まで行かなければいけないけれど、15分くらいならなんの問題もない。


母が彼女とどんな打ち合わせをしているのか不気味ではあったけれど、母の考えを確認するためにも、話を聞いておいたほうがいいと思った。


「15分くらいなら大丈夫だけど……」


うまく丸め込まれそうな気がしないでもなく、曖昧に答えた。



「せっかく魚介たっぷりのブイヤベースを作ったのに……」


除け者にされた母は不満げにつぶやき、ガスの火を止めた。


「おば様もはるばる釧路から来られてお疲れでしょう。早くホテルでお休みになられた方がいいですよ」


「そうね、邪魔者の私はいないほうがいいわね。結衣さんにお任せするわ」


母は半分納得し、半分不貞腐れたかのような態度を示した。


「じゃあ、15分だけお願いします」


結衣さんはそう言って持っていたコートに袖を通した。




近くのカフェと言っても、このアパートから三分ほど歩く。


僕にとって、初対面の彼女と歩く無言の3分間は異様に長く感じられた。


結衣さんはそんなことは少しも気にならないようで、平然と前を向いて歩いていた。


明るめにカラーリングされ、軽くカールしているロングヘアー。洋服のことはよくわからないけれど、コートの中のモスグリーンのワンピースも、シンプルながらセンスのよさを感じさせた。話し方から知性も感じられ、とても洗練された女性に見える。


彼女は僕と会うためにお洒落をしてきたのだろうか? それともいつでもこんなだろうか?


僕から一体なにが聞きたいのだろう。


アレコレ考えながら歩いていると前方に、コメダ珈琲の看板が見えてきた。







夕食の時間帯ではあったけれど、食事のために来る客は少ないのか、店内は空いていた。奥の方のボックス席に案内される。


彼女は美人で明るく、自分に対して絶対的な自信を持っている女性だと思う。多少、押され気味な窮屈さを感じながらも、別に彼女に好かれなきゃいけない理由はない。


そんな思いが僕を開き直らせていた。


ずっと無言を通したって言い訳だ。話題に困って四苦八苦する必要もない。


運ばれてきたコーヒーをひと口飲み、彼女はやっと口を開いた。


「本当に大人しいんですね。相手が私でつまらないから黙ってるの?」


「話すことが浮かばなかったから黙っていただけです。要件はなんですか?」



彼女の視線に媚びたものは少しも感じられない。彼女も僕には特に興味がないのだろう。


「なんか、取りつく島もないって感じね。私にはまったく興味がないみたい」


「君も僕に興味があって会いに来たわけじゃないだろ。母からなにを頼まれたんだい?」


さっさと要件を言ってくれないと、美穂さんのところへ行くのが遅くなる。


「じゃあ、はっきり言っちゃっていい? あなたヤンキーと付き合ってるんですってね。どうしようもない性悪女に騙されて、結婚までさせられようとしているって。ねぇ、それって本当のこと?」


茶番を楽しむかのように、彼女は含み笑いを浮かべた。



「まったくのデタラメだよ! 僕の彼女はそれとは正反対だ。天使みたいに清らかな人だよ」


美穂さんに対する母の悪口に憤慨し、かなり感情的にまくし立てた。


「フフフッ、どうしてそんなに評価が違うのかしらね? 恋は盲目って言うけど、あばたもえくぼってことなのかしら?」


「君は母から聞いたことを信じていればいい。別に君に理解を求めているわけじゃないからね。それで話って一体なんなんだい?」


やっぱり話など聞きに来るのではなかった。不愉快な気分に苛まれ、今すぐにも帰りたい。


「あら、気を悪くした? ごめんなさい。怒らないで。私、あなたに助けて欲しいの。だから、私もあなたを助けるつもりよ」


この人は一体なにが言いたいのか?


さっきまでのふざけたような含み笑いはなくなり、かなり真剣な眼差しで僕を見つめた。



「だから、さっきから聞いてるじゃないか。君の要件は一体なんなんだい ⁉︎」


「私もあなたと同じなの。私には今、とっても大切な恋人がいるの。来年就職したら結婚するつもりよ。まぁ、結婚と言っても形だけなんだけどね」


「形だけって、、君の言っていることはさっぱり分からないよ」


結婚したい恋人がいるならすればいいじゃないか。もったいぶった言い方をする彼女に不信感を持つ。



「だから私も親に結婚を反対されているのよ。別に親のいいなりになるつもりはないんだけど、やっぱり両親に泣かれるのは辛いわ。だからなんとか穏便に済ませたいのよ」


「フン、それで? 君の結婚相手もヤンキーなのかい?」


僕はしらけたようにさっきの仕返しをした。


「ヤンキーくらいならまだマシね」


彼女はそう言ってコーヒーを飲むとため息をついた。



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