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お友達になりたくて
しおりを挟む「婚姻届だけどさ、囲碁サークルの牧口と平田に証人を頼んだんだ。そのうち二人で挨拶に行きたいんだけど、いい?」
お布団の中でふざけあっていたら、聡太くんがそんな話を切り出した。
「一緒にお食事でもするの?」
「そうだね。いつもは平田の家で鍋とか焼肉を作って食べてたけど、どこかに美味しい店がないかな?」
「このアパートに招待するのじゃダメかな?」
美味しいお店など知らないし、人見知りのわたしには、初対面の若い人と差し向かいで話すのが怖い。
「じゃあ、美穂さんが何か作ってくれるのかい?」
「ええ、お店だとなんだか緊張してしまいそうで。お食事の準備をしながらの方が気楽だわ」
キッチンですることがあれば、沈黙を恐れることもあまりないように思える。
「そうだね。それがいいな。美穂さんのお料理は美味しいから、牧口も平田も驚くだろうな」
「食べたいものを聞いておいてね。気に入られるかどうかちょっと心配だわ」
ポジティブに考えようとしても、失敗経験の多いわたしにとって、それは逃げ出したくなるようなストレスだった。
だけど苦手なことから逃げていたら、逆にいつまでも恐怖から解放されないのだろう。
もう、逃げない。失敗したっていいんだ。そこからまた学べばいい。なんでも練習しなければ上手くはならないのだから。
「それとね、前に話した結衣さんなんだけど、一緒に合同結婚式をしないかって誘われたんだ」
「結衣さんって、お母様から紹介されたお嬢さんでしょう? 合同結婚式って、、」
「別にどこかの宗教の結婚式じゃないよ。式は別々にだけど、同じ日に同じ式場でやらないかってことさ。結衣さん、ブライダルのバイトを長いことしていたらしいんだ。同じ日だと一度で済むから手間もお金もさほどかからないんだってさ」
「で、でも、結婚式なんて、呼ぶ人もいないのに」
「いいじゃないか。結衣さんも二人だけでするみたいだよ。僕だって美穂さんのウエディング姿が見たいしさ。美穂さんだって着てみたいだろ?」
結衣さんって、どんな人なんだろう。
彼女も両親から交際を反対されて、今の恋人とは内緒で付き合っているらしい。
お互いに両親の束縛から解放されるために、聡太くんは結衣さんの提案に協力すると聞いている。
「それで、結婚式は三月十六日でいいかなって。月末近くなると引越しで大変になるだろう。僕たちは行けばいいだけで、特に準備もいらないらしいんだ。ただ、ウエディングドレスの試着だけは前もってしておいた方がいいってさ」
ウエディングドレスに結婚式。そんなこと、想像もしていなかった。わたしには無縁の世界だと思っていた。確かに一度くらいは着てみたいけれど。
「それで、さっき結衣さんからラインが来てたんだけど、これからウエディングドレスの試着に来ないかって?」
「え! これから?」
「うん、三人とも都合のつく日って中々ないだろう。これから忙しくなるから、なんでもできる日に済ませておいた方がいいって」
「で、でも、、なんだかわたし、気後れしちゃって……」
「大丈夫だよ。結衣さんはとってもサバサバしていて気さくな人だから。四時に○○○ホテルで待ち合わせしたよ」
本当に大丈夫だろうか。
歳の近い同性は苦手というか、仲良くなれる自信がない。
だけど逃げずに挑戦しなきゃ。人付き合いは大切なことだ。聡太くんとの結婚生活を円滑にするためにも、自分を変えていかなくちゃいけないんだ。
「島村くん! ここよ!」
四時五分前にホテルのロビーに着くと、向こうから若い女性の声がした。
手をあげて近づいてきたその女性は、ファッション雑誌から抜け出たような輝きを全身にまとっていた。
結衣さんという人は、多分きれいな人なのだろうなと思っていたけれど、想像以上だった。
全てにおいてバランスのとれた洗練された女性だ。聡太くんのお母様が気にいるのも無理もない。わたしとは正反対の人。
聡太くんはこんな素敵な人を紹介されたのに、わたしでいいって言うの?
わたしは年下の彼女に一目で圧倒されていた。
「はじめまして。磯村結衣です。美穂さんですね。島村くんが天使みたいな人って言ってたけど、本当に可愛らしい方ね。あ、ごめんなさい。年上の方に失礼ないいかたをしてしまって」
「い、いえ、、はじめまして。片山美穂です。この度はお世話になります」
ホテルのブライダルコーナーに案内される。
ガラス張りのショーケースに並べられた沢山のウエディングドレスの中から、結衣さんと担当の方が相談して、三着ほど選んで見せてくれた。
定番のAライン、プリンセスライン、スレンダーラインなど、他にも様々な形のウエディングドレスがあるそう。
「美穂さんは可愛らしいAラインか、プリンセスラインが似合うと思います。それともスレンダーとか、マーメイドの方が好きですか?」
「いえ、わたしAラインが好きです」
結衣さんが勧めてくれたからではなく、自分でもAラインのドレスが似合うと思った。
「じゃあ、この三着を試着してみましょうか?」
「あ、、ありがとうございます!」
オドオドせずに堂々としてなくちゃ。
試着室で着替えてみると、サイズはピッタリだった。さすがブライダルでバイトをしていただけのことはある。
ドレスはステキなレースにスワロフスキーなどが散りばめられ、みているだけでため息がもれる。
試着室から出ると、結衣さんが目を見開いて大袈裟に褒めてくれた。
「わぁー! なんて素敵なんでしょう! 美穂さん、とっても似合いますよ」
大きな鏡の前に立ち、自分でもなんだか素晴らしく似合っているような気がして心がはずむ。
聡太くんはなんて言ってくれるだろう。
そんなことを思うと、躊躇していた結婚式が待ち遠しくさえ感じられた。
三着試着して、レースで胸元が隠れるデザインのドレスを選んだ。パールが散りばめられたシンプルだけど、ゴージャスな光沢のあるドレス。
「三着ともとっても似合ってました。きれいすぎて島村くん、ビックリしますよ」
ステキな結衣さんに褒められて、なんだか天にも登るような気持ちになる。
ドレスのほか、ヴェールやティアラ、ブーケなども試して選び、ロビーで待つ聡太くんの所へ向った。
「結衣さん、ありがとうございました。わたし一人じゃ何もわからなくて、本当に助かりました」
エレベーターの中で結衣さんに頭を下げた。
「とんでもないです。島村くんにはとても助けられたので、なにかお返しがしたかったんです。喜んでもらえて嬉しいわ」
結衣さんは本当に気さくで、いつまでも話していたくなるようなステキな人だった。こんな人がお友達だったら、なんでも相談できそう。
「あ、そうだわ。もうすぐバレンタインですよね」
結衣さんがパン!と手を叩き、思い出したように言った。
「美穂さん、島村くんにはチョコ買ってあげるんですか? 手作りですか?」
「一応、チョコケーキを作ろうかと思ってます」
「島村くんが美穂さんのこと、料理がとっても上手って褒めてました。私にチョコケーキの作り方を教えてくれませんか?」
「とっても簡単ですよ。今はYouTubeなんかでもやってますし」
「初心者は失敗しちゃうんですよ。バレンタインであげるものだから、きれいに仕上げたくて。お忙しいですか?」
お嬢様育ちの人は、そういうことが苦手なのかもしれない。
「わたしでよければいくらでも教えますが、お店みたいなセンスの良いケーキはムリです」
「普通のでいいんです。あまり上手すぎても疑われてしまいますからね。フフフッ」
そんなわけで今度の日曜日、結衣さんの住むマンションに赴くことになった。
仲の良い、お友達になれるといいな。
バレンタインデー前日の仕事帰り、教えられた住所をグーグルマップに入力して、結衣さんのマンションへ向かった。
駅近のマンションにすぐに到着し、エントランスで番号を入力すると、「はーい!」と言う、結衣さんの元気な声が聞こえた。
セキュリティのドアが開き、エレベーターに乗り込む。
女友達でも緊張して、胸がドキドキした。
オドオドしないように気をつけないと、と思いながらも、ありのままの自分でいいのではと思いなおした。
背伸びしてもバレてしまうし、お互いに疲れてしまうだろう。
嫌われたら、嫌われても仕方がないわ。
そんな心配をしながら結衣さんの部屋の前に立ち、ブザーを押した。
ドアがガチャリと開いて、結衣さんが笑顔で迎えてくれた。
「わぁ~~ 美穂さん!! 本当に来てくださってありがとうございます。どうぞ、お入りになって」
外観も素敵なレディースマンションは、やはり中も洗練されていた。
でも、パステル系で統一されたお部屋はメルヘンチックで、結衣さんのイメージとはちょっと違っているように感じられた。
「どうぞ、掛けてください」
結衣さんがベビーピンクのソファを指差して勧めてくれた。部屋にはサンリオキャラクターのぬいぐるみがたくさん置かれてある。
「とっても可愛らしいお部屋ですね」
「私の趣味ではないんですけどね」
そう言って、結衣さんはローテーブルに紅茶を置き、わたしの隣に座った。
甘いパルファムの香り。
若い女性にしては濃密で官能的な香りだった。
「美穂さんとこんな風にお友達になれて、本当に嬉しいわ」
いきなり手を握られて、少しとまどう。
「わ、わたしも友達になれて嬉しいです。お友達いないものですから」
「本当に? 嬉しい!!」
結衣さんに力一杯抱きつかれ、嬉しいのかよくわからない違和感をおぼえた。
「美穂さん、私、本当に寂しくて、、」
結衣さんがわたしの耳元でそう囁き、頬を密着させた。
違和感を感じながらも、女友達のいなかったわたしには、その異常さがよく飲み込めなくて、どういう態度を示せばよいのかわからなかった。
「結衣さん、どうしたの? 寂しいって、、結衣さんももうすぐ結婚なさるんでしょう?」
彼女はポロポロと涙を流してわたしを見つめた。
「ゆ、結衣さん!! 一体どうなさったの?」
もしかして、結婚直前になって恋人と破局してしまったのだろうか?
「美穂さん、お願い、私を助けて」
結衣さんはそう言ってまた私に抱きつき、ソファに押し倒すと唇にキスをして来た。
「や、やめて! 結衣さん、ダメよ!」
結衣さんの細く冷たい指がわたしのブラの中に入り、キスされた口の中に彼女の舌がねじ込まれた。
ウソでしょう!!
聡太くん、た、助けて!!
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