勇者召喚に巻き込まれた(?)私、魔族の元で華咲かす

斑鳩 鳰

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Another side1 佐藤勇人

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※変態注意




「大丈夫、この手は絶対に離さないよ!
だから、頑張って!」

その日、ありふれた日常が音を立てて崩れていった。
そして、彼女と出会ってこれまでの退屈な人生に光がさした。








俺、佐藤勇人さとうゆうとは自分で言うのもなんだが、世間で言う勝ち組に属している。
大金持ちという訳では無いけれど、それなりに裕福な家庭に生まれたおかげで、金に不自由したことは無い。両親ともに美形で、ありがたいことにその遺伝子をきちんと受け継いだ。わざわざ勉強なんてしなくても学校の成績は良かったし、大抵の運動は1度見れば、人並み以上できた。
今でこそサッカー部のキャプテンをやっているが、これも中学の部活見学で友達に勧められて始めただけで、高校では、そいつに引っ張り出されなかったら続けるつもりは無かった。
教師に頼まれて生徒会長を務め、指定校推薦で有名大学への進学も決まった。
まさに順風満帆というのに相応しい人生をおくっていた。

そんな俺だが、一つ欠陥があるとすれば、周りに興味を抱けないところだろう。
容姿のおかげで、何もしなくても女が向こうからよってきた。来る者拒まず、のスタンスだったから、その時彼女がいなければ誰でも付き合った。
それなりに経験もしてきたけれど、やはり誰にも興味は湧かなかった。

「あー、時計忘れた。」

時間を確認しようと腕を上げたが、そこには愛用の時計はついていなかった。
制服のズボンのポケットからスマホを取り出そうとして、俺は地面が青く光っているのに気づいた。

「は?」

光は俺の足元に集まり、魔法陣を描き始める。何が起こっているんだ、と足を止めたのもつかの間、俺の下半身はいきなり地面に吸い込まれた。

「うわぁぁぁあ!」

腰あたりで勢いは止まり、そこからはゆっくり地面に埋もれていく。いくらもがいてもコンクリートの下に消えた下半身はビクともしない。
状況が飲み込めず混乱していると、腰を囲むように地面にうっすらと線が入る。
嫌な予感を感じた瞬間、地面に穴が空いて俺の体はストンと落ちた。いや、正確には落ちそうになった。

右手1本で宙ずり状態になった体。下を見れば暗闇が永遠と続いている。唯一の灯りは俺の頭上に空いた穴から入ってくる太陽の光だけだった。
俺の右手を掴むのは、細く白い女の手で、その腕を追って視線を上げれば、通学途中、時々見かける女の人だった。はじめて見かけた時は美人な人だなとは思ったが、このレベルなら高校にもいるし、特に意識したことは無かった。

その女の人は、顔を上げると俺に笑いかけた。

「大丈夫、この手は絶対に離さないよ!
だから、頑張って!」

その輝く笑顔を見て、俺の中で何かが落ちた。
稲妻が体の中を迸ったなんて表現じゃあ、生ぬるい。数十個の隕石がすごいスピードで俺の元に落ちてきたような衝撃だった。
そんな場合ではないのはわかっていたが、熱が顔に集まっていくのを感じずにはいられなかった。

「うっ…」

その時、下から引っ張る力が一段と強くなり、女性の上半身もこちらに引きずり込まれた。

「このままでは、貴方も巻き込まれてしまう!俺のことは気にしないで、離してください!!」

俺は咄嗟にその腕を振りほどこうとしたが、彼女はもう一方の手も使って俺の右手を掴んだ。

「何、言ってん、のよ
子ども、は、黙って、お姉さん、に甘えときゃ、いい、の」

彼女はそう言って少し意地悪な笑を浮かべた。
ああ、なんて素敵なんだろう。心臓がドクドクと脈打つ音がよく聞こえる。吊り橋効果だと言われれば、否定はできない。それでも、初めて他人に惹かれた。堪らなくこの人が欲しいと思った。
今すぐにでもこの腕を引っ張ってその小柄な体を抱きしめたい。

俺がそんな邪な考えを抱いたからだろうか、今までの比じゃない力が加わり、ついに彼女共々暗闇に引きずり込まれた。

一瞬の浮遊感と共に意識も途切れる。
次に目覚めたところは、固く冷たい石台の上だった。頭上の燭台が灯す炎だけがあたりを照らしている。

「成功だっ!
神は我々をお見捨てにならなかったのだ!」

急に騒がしくなる周りに、体を起こせばさらに歓声が上がった。

「おお、我らが救世主勇者様。
私はクリュシュ国が王、クリュシュ14世と申します。以後お見知り置きを。」

恭しく頭を垂れたのは、やたら煌びやかな衣装を身にまとった太ったおっさんだった。
世界史の資料集の、中世ヨーロッパあたりのページにこんな格好の王様が載ってたな。

ぐるりと辺りを見渡せば、誰も彼もが中世ヨーロッパのような格好をしていた。なるほど、周りの日本人とは思えない色彩や顔立ちとさっきから聞こえる''勇者''という単語から推測するに、俺は勇者として異世界に召喚されたというわけか。
ま、これはこれで少しは退屈しのぎになるかな。

「それで、俺は魔王でも倒せばいいの?」

「おお、さすが勇者様っ!
こちらが何も言わずとも、用件を汲み取ってくださるとは、なんと聡明な!」

いちいち大袈裟だな、このおっさん。
ひょいっと台から降り、服についた埃を払う。
その際、自分の右手首にシルバーのブレスレットがぶら下がっているのを見つけた。
俺のものではない。となると…。
俺ははっとしておっさんに詰め寄った。

「ここに召喚されたのは俺だけか!?」

「え、ええ、たぶん!
そうだよな、神官!」

「え、ええ。
今回実行しましたのは、古来の勇者召喚の義になります」

おかしい。彼女も巻き込まれるのをこの目でちゃんと見たはずだ。
もしかして、他の場所に転送されたのか?
彼女のことを考えながらも、もう1つ気になっていることを聞く。

「なぁ、俺ってちゃんと元の世界に戻れるわけ?」

「そ、それはですね、まだ、模索中と言いますか、ええ、はい。」

肝心なことを尋ねれば、額に大粒の汗を浮かべながらどもる国王。

「帰れるのか帰れねぇのかはっきりしろよ」

「は、はい!
今のところお帰しする術は見つかっておりません!」

予想はしていたが、はっきりしない態度が気に食わなかったため、強く尋ねれば、帰る術はないと言われた。

「はぁ。
勝手に召喚されて帰れないのは些か腹が立つが、ここにいてもすることないし、魔王討伐には協力はしてやるよ。」

「なんと、ありがたいお言葉!」

「その代わり条件が2つ。
1つは俺が魔王退治に協力する間、国の全力を持って元の世界に帰る方法を探すこと。
もう1つは、この世界のどこかにいる知り合いを探すのを手伝うこと。
最悪、結果的に1つ目が無理でも、2つ目は何がなんでもやってもらう。でないと俺は協力しない。」

「ほ、ほんとにそれだけでよろしいのですか?」

「まぁな。
あぁ、でも生活費とかその他もろもろの費用も全部そっちもちな。」

「それはもちろんでございます!」

よし、これで彼女を探す目処もついた。

「部屋に案内してくれ。今日はもう休む。
詳しいことは明日聞くから。」

「か、かしこまりました!
アメリア!勇者様を部屋に案内して差し上げなさい!」

「はい、お父様。」

アメリアと呼ばれた女は、すっと片足を引いて礼をすると俺の顔を見てにっこり笑った。
濃い紫の髪はドリルのように巻かれ、同じ色の瞳は釣り上がりギラギラと輝いている。
胸元がガッツリ開いたドレスに濃い香水の匂い。俺は少し顔を顰めた。

「アメリア・クリュシュと申します。
勇者様のお顔を拝見出来て光栄ですわ。」

そこで俺は自分がまだ名乗っていないことに気づいた。

「悪い、名乗ってなかったな。
佐藤勇人だ。これからよろしく頼む。」

簡潔に自己紹介して、頭を下げる。

「サトーの方が勇者様のお名前でしょうか?」

「いや、勇人が名前で佐藤はファミリーネームだ。」

「ユウト様とお呼びしてもよろしいかしら?」

「お好きにどうぞ」

「嬉しいですわ。
それでは、私がお部屋に案内いたします。」

自分の腕を俺のそれに絡ませ、胸を俺の腕に押し付けるようにして歩くアメリア。
前までの俺だったら、優しく接しているところだが、生憎あの人に出会って、優しくして彼女以外から好意を持たれても迷惑以外何物でもないと気づいたから、自分の腕をするりと解いた。

「さっさと案内してくれ。
俺は疲れているんだ。」

早く頭の中を整理して、あの人の笑顔の余韻に浸りたい。
ぴーぴー言っているアメリアを無視して、俺は近くにいたメイドに自分の部屋を聞いた。
俺の部屋にまで入ってこようとするアメリアを追い返し、中から鍵を閉める。
まだ外からうるさい声が聞こえるが、無視した。
俺はブレスレットを腕から外し、ベットに寝転んでそれを見つめた。

「彼氏からのプレゼントだったりするのか?」

うわ、あの人に彼氏がいるとか考えただけでもその男に殺意がわく。あぁ、これが嫉妬ってやつか。
世の中の連中はこんな殺意を押し殺して生きているのか、大変だな。

「まあ、彼氏がいようがいるまいが関係ねぇけど」

彼女の隣に立つのはこの俺だ。
知り合いがいない状況で、彼女は不安で震えているかもしれない。そんな彼女を抱きしめて、俺がいるよ、とその可愛い顔に何度もキスを落としたい。
再会したら、もう二度と離すもんか。
ここにいる間に口説き落として元の世界に帰ったらすぐに籍をいれてやる。幸い俺は少し前に18歳にになった。
あぁ、でも彼女と一緒ならこの世界で生きるのもいいかもしれない。どこか人がいない遠い場所で2人だけでゆっくり過ごしたい。
もし地球に想い人がいるようならその方がむしろいいかもしれない。

「参ったな。帰る方法を探すよう頼んでしまった。」

でも、それも彼女が見つからないと意味が無い。
じっくりブレスレットを見ていて、名前らしきものが掘ってあることに気づいた。

''K.HANA''

と筆記体で掘られた文字。

「はなさんって、言うのか。」

彼女にぴったりの名前だと思う。俺は、はなさんのお母さんに今まで生きてきた中で1番の感謝を捧げた。

待ってて、俺だけの女神。
俺がすぐにあなたを見つけてあげますから。

俺はそっとブレスレットを自分の左手に通した。

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