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20 バトンタッチ
しおりを挟む食堂は、かの有名な魔法学校のそれのようだった。
昼にはまだ早い時間帯とあって人は少なく、広いテーブルにまばらに座っている。
兄様は私を抱えたままカウンターに近づいた。そこには無表情のまませっせと配膳するノアちゃんがいた。
「ノアール、俺の分とさっき頼んでおいたリヴの分お願い。」
「どうぞ。」
出てきたのは、ノアちゃんが先程まで魔族の人達に渡していた一人前の料理と、一回り量が少ない料理だった。
わざわざ私の分頼んでおいてくれたんだ。
気配り上手すぎるよ、兄様。婿に欲しいわ
。
「ありがとう。ついでに運んでくれない?」
「…これから人も増えるので抜けられないんですけど。」
「片手でおぼん二つ持ってリヴに中身がかかったりしたら危ないだろ。
運ぶぐらい良いじゃん。」
はいはい、片手に乗った荷物ことリヴちゃんです。
ノアちゃんが、その右手に乗っている奴を下ろせばいいだろう、とでも言いたげに私の方をチラリと見た。
私もそう思います。でも兄様が下ろしてくれないんだよ、察しておくれ。
「…勝手に持ち場を離れるなと言われてるん
「ねぇ、ノアール借りていい?
すぐ返すからさ。」」
ノアちゃんの言葉は、兄様が厨房内の誰かに声をかけたことで遮られた。
「ん、おーぅ。
可愛くねぇ歪みまくった性格、真っ直ぐにして返してくれ。」
「はは、別に訓練に参加させるわけじゃないよ。
ってことで、許可も降りたし運んでくれるよね、ノアール?」
「チッ。」
ノアちゃんが、苦虫を噛み潰して、飲み込むに飲み込めないような顔してる。
いや、私のせいじゃないからね?
なんだろう。ノアちゃんのこの嫌悪感溢れる顔しか見ていない気がする。
兄様は、適当な席を見つけて座る。そして私は彼の膝の上。ノアちゃんは、お盆を置くと私を一睨みしてさっさと帰っていった。
ノアちゃん呼びまでの道のりは遠いな。
まぁ、いいや。それよりもご飯だご飯!
「あの、にいしゃま?」
「なんだい?」
「おろちてもりゃわないと、ごはんがたべれましぇん」
「でも、リヴが普通に座ったら顔がテーブルの上に出ないよ?」
くっ。確かにそうなのだ。魔族は総じて体格が良い者が多いため、家具自体が余裕を持って作られている。
私は大人しく兄様の上でご飯を食べることにした。それじゃあ、いただきまーす!
「リヴは美味しそうに食べるね。」
実際とても美味しいからね。
兄様の話に相槌を打ちながら、しゃかしゃかと料理を口に運ぶ。子供は食べるのが遅いからね、兄様待たせるのも悪いし。
「前失礼しますね。」
内心急ぎながらも、うまうまと美味しい料理を堪能していると上方から声が聞こえた。
視線を料理から前方に向けると、先頃別れた美形のエルフさんがいた。
ええと…名前なんだったかな。
「ふふふ、美味しいですか?」
口の中に食べ物が入ったままだったので返事の代わりにコクコクと頷いた。
「それは良かった。料理人が喜びます。
申し遅れました。私はイリディーネ・トロワです。呼びにくければ、イディでいいですよ。」
そうそう思い出した。イリディーネさんだ。
カタカナの羅列を覚えるのは苦手だから、ありがたくイディさんと呼ばせてもらおう。
「リヴ・フロルでしゅ
よろちくおねがいしましゅ、イディしゃん」
きちんとご飯を飲み込んで、笑顔で私もご挨拶。
「こちらこそよろしくお願いしますね、リヴ。」
んんんん、イディさんの笑顔の破壊力すごい。眩しすぎて目が潰れるかと思った。
「あ、あにょ
アーシュしゃんはちゃんとおちこどしていましゅか?」
顔をまともに見れないことを誤魔化すために、咄嗟に質問を投げかけた。
「さぁ、どうでしょうね。
とりあえず、仕事が終わるまで部屋から出られないよう閉じ込めてはきましたが。」
……ん?今なんと?
「いい、リヴ。
イリディーネさんは絶対に怒らせたらダメだよ。」
私が目の前の美丈夫から発された言葉をうまく飲み込めずにいると、兄様が小さな声で耳打ちした。
私は、その言葉に高速で頷いた。私、長い物には巻かれる質なので!
「どうかしました?」
「なんでもないでしゅ!」
勘づかれる前に話題を変えなければ、と私は咄嗟に口を開いた。
「イディしゃん!
わたちにもできるおしごとありましぇんか?」
「お仕事ですか?」
「あい
ただめちぐらいはいやでしゅ」
城に住まわせてもらい、美味しいご飯も食べさせてもらえるのに何もしないというのは、精神大人の身としては肩身が狭い。
ちんちくりんの身体に何ができるかは分からないが、私ができる範囲ならば何でもやろうと思う。
…あれ?なかなか返事が返ってこない。
不思議に思い、視線をイディさんの方に向けると、少し強張ったような表情をしていた。どうしたんだろう。兄様の頭を撫でる手も止まっているし。
「…リヴ」
イディさんに名前を呼ばれたので、なんでしょうか、と首を傾けた。
「心構え自体は素晴らしいことだと思いますが、言い方がよろしくありませんね。
そんな言葉使ってはいけません。」
あぁ、言い方が悪かったのか。確かに見た目幼女がタダ飯ぐらいはないな。
ならば、と私は再度口を開いた。
「リヴもみなしゃんのおてちゅだいがしたいでしゅ」
「合格です。」
少しあざとく小首をかしげて言うと、イディさんから合格を貰えた。
絶世の美じょ…美青年から頭を撫でてもらったよ、やったね!
でも顔が近すぎて頭爆発するかと思った。
間近にある美丈夫の顔に悶絶していると、''副隊長~!''と涙声の絶叫が聞こえた。
なんだろう、と顔を向ければ、筋肉ダルマが兄様の足にすがりついていた。
うわあ、結構な視界の暴力。
「隊長が、隊長が~!!」
「隊長だけじゃ分からないよ。
あの人はまた何をやらかしたの?」
「隊長から未処理の書類が大量に送られてきました!!
イリディーネ隊長にバレる前によろしく、と!!」
イディさんこの場にいるのにそれ言っていいの?
目線だけでイディさんの顔色をうかがうと、彼はとても綺麗な黒い笑みを浮かべていた。
私はすぐ視線を逸らした。
「あの脳筋野郎っ…」
兄様が額を抑えて低い声で呟いた。
ニコニコ笑っている兄様しか見ていないから、私は怖くて兄様の膝の上でプルプル震えてます。どうしよう、この場から逃げたい。
アレシュさん、へるぷみー!
「隊長か副隊長のサインがいる書類も多いので、今から戻ってきてください!」
「…それ俺じゃなきゃダメ?」
「隊長がいない今、副隊長しかサインできる人がいないじゃないですか!!」
「俺他にもしないといけないことがあるんだけどなあ。」
「リヴの案内の続きなら私が引き受けますよ。」
口を開いたイディさんに、筋肉ダルマさん(仮)の顔に''やっべっ、やっちまった…!''の文字が浮かんだ。
まだ見ぬ隊長に合掌!自業自得、とだけ言っておこう!兄様を困らせた罰だ!ざまあみやがれ!
「でも、イリディーネさんもお忙しいのでは?」
「大丈夫ですよ。
今日分の仕事は終わらせてあるので、これから私はフリーです。」
兄様は少し考える素振りを見せた後、それじゃあ、と言って私をイディさんに手渡した。
他所に預けられる猫ってこんな気持ちなのかなって思ってみたり。
「ギルが帰ってきたらサンドバックにして良いですよ。今までのストレスを思いっきりぶつけなさい。私が許可します。」
「隊長に片膝でも折らせられたらいいですけどね。」
「おや。あなた副隊長でしょう。
それぐらい出来てくれなきゃ困りますよ。」
「ははは、手厳しいなあ。」
「にいしゃま!
おちごとがんばってくだしゃい!」
お疲れの兄様を少しでも励ますため、とりあえず声援を送る。
「ありがとう、リヴ。
俺も仕事頑張るから、終わったら探検の感想聞かせてね。」
「あい!」
兄様は名残惜しそうに私の頭を撫でた後、イディさんに向き直った。
「とりあえず、次の行先は医務室でお願いします。双子が運ばれたのでそのお見舞いに。その後はおまかせします。」
「一体何が…いえ、あの駄犬ですね。
リヴのことは私に任せて、安心して仕事に励んでください。」
「ご名答、流石ですね。
安全面に関しては全く心配していませんよ。
じゃあね、リヴ。いい子にしてるんだよ。」
「あい!
いってりゃっしゃい!」
兄様はちゅっ、と私のおでこに1つキスを落とすと空いた3人分のお盆を片手に軽々と持ち、もう一方の手を振りながらこの場を後にした。
最後まで兄様は気遣いができる紳士だった。
しかも去り際にでこちゅーとか兄様ぱねぇ。
驚きで照れてる暇もなかったわ。
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