勇者召喚に巻き込まれた(?)私、魔族の元で華咲かす

斑鳩 鳰

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19 side ニコル・ラウーラ

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リヴちゃん達と別れ、イリディーネに続いて城内に入る。
テオに任せて本当に大丈夫かしら。不安になってきたわ。
廊下を歩きつつ窓から外を覗けば、嬉しそうにリヴちゃんを肩車したテオが見えた。
テオ兄と言われてから浮かれてたものね。
私もリヴちゃんにお姉ちゃんって呼んでほしいな。頼んだら呼んでくれるかしら。
そんなことを思いながら目線を前に戻せば、私と同じように心配そうに窓の外を見るアレシュがいた。
ふふふ、うちの魔王様の鉄仮面を外すことが出来るのは、きっとリヴちゃんだけね。

それにしても、リヴちゃん予想以上の可愛さだったなあ。
くりくりとした若草色の瞳は今にも零れそうな程大きくて、前会った時よりも少し肉付きがよくなって、桜色のほっぺはぷくぷくしていた。
拙い喋り方も、それ故に歯痒そうな顔をしていたのも可愛らしかった。

「どうぞ。」

扉を開ける音とイリディーネの声で、リヴちゃんの余韻から現実に引き戻される。
扉を支えてくれているイリディーネにお礼を言って部屋に入り、適当な席に座る。

「さて、本題に入る前に目の前の問題を片付けましょうか。
アレシュ、あの人間の子供はなんです?」

「リヴだ。」

「彼女の名前を聞いたのではありません。
どうしてここに居るのかを聞いているのです。」

「拾った。」

「いつです?」

「二月ぐらい前か?」

「丁度リャンが勇者召喚の報告書を持って来た日ね。」

「そんな大事なことを報告しなかった理由が知りたいですね。」

「理由なら先程言っただろう。」

「…そういう事じゃないんですが。」

「アレシュに皮肉は通じないわよ。
イリディーネも知っているでしょう?」

「…そうですね。」

俺が何かしたか?とでも言いたげに無表情で首を傾げるアレシュと、項垂れたイリディーネ。右腕様はマイペースな魔王様の尻拭いで大変そうね。

「貴方が城に連れてきたと言うことは、敵ではないと認識したのでしょうが、そこに至った経緯を話してください。」

「面倒だな。」

「ぶっ飛ばしますよ。」

「…冗談だ。」

今のイリディーネは本気だったわ。
アレシュは、私の時と同じようなことを話し始めた。



「大体の事情はわかりました。アレシュが見定めたならば大丈夫でしょう。
それにしても、1度もあの子を城で見かけたことがないのですが。」

「グウェンのところに預けていたからな。
言葉を覚えさせるためと、最終確認として。」

「あぁ。審判者としてあの双子はうってつけですね。」

「イリディーネ双子ちゃんと知り合いなの?」

私でさえ医療部隊の代わりに、グウェンのところに薬を取りに行った際に1度見かけただけだ。常に城に引きこもっているイリディーネが彼女達を知っているのが意外だった。

「おや、ニコルは知らないのですか?
彼女達は、前魔王の時からの諜報部隊の一員ですよ。」

「…ん?」

前魔王が亡くなったのって何百年も前よね?
え、あの子達今いくつなの!?

「グウェンに命を助けられたので、恩返しのために百年ほど有給を取っていたみたいですが、今回二人から戦闘部隊への異動願いを受け取ったんですよ。」

「ちょっと待って。頭の整理が追いつかないわ。
彼女達は、私の先輩なの?」

「そうなりますね。
確かゴトベルと同期なはずですよ。」

ゴトベルって900歳超えてるって言っていたわよね。

「…そんなの詐欺よ。」

二人とも見た目、せいぜい160歳ぐらいじゃない!

「まぁ、彼女達は猫獣人の中の希少種、猫又族の血を引いていますから。尾が二又になった時から、外見の成長が止まるそうですよ。」

「尻尾二つに分かれていたかしら?」

「隠しているんだろう。二又と言うだけで、記憶に残りやすいからな。
そうなれば、諜報部隊員として致命的だ。」

「…そう。それにしても、何故今更異動なの?」

「戦闘部隊の方がリヴを守りやすいから、だそうだ。
双子の戦闘能力は申し分ないぞ。何回か手合わせしたが、あの速さはなかなかのものだった。」

「了承の旨は、既に彼女達に伝えてあります。
それでは、本題に入りましょうか。」

「勇者か?」

「えぇ。報告書によると、出発はまだまだ先になりそうだと言うことです。
理由は、勇者の探し人が見つからないからだそうですよ。」

「世界は広いんだから、そう簡単に見つかるわけないじゃない。」

「それが、探し人の特徴が黒髪の人間、つまりは異世界からの渡り人らしいんですよ。だから、すぐに見つかるはずだと。勇者自身、その方を見つけるまで旅には出ないと謳っているみたいで。」

「召喚されたのは勇者だけじゃなかったのか?」

「勇者の証言では、一般人の女性が巻き込まれたみたいです。」

「関係ない人まで巻き込むなんて、人間はそこまでして魔族を倒したいの?」

召喚が成功したのは二月も前。右も左も分からない世界に女性が一人で生き続けられるとは考え難い。ひょっとすると彼女はもう…。
私は知らずのうちに拳を握りしめていた。

「…きっと人間自身も何が間違いで何が正しいのかなんてわからないんですよ。」

「そうだな。
ところで、勇者召喚に成功したクリュシュ王国は、少し前に協調協定を結びたいと言ってきた国ではなかったのか?」

「それは前王の時ですね。
彼は、反対派の貴族によって王妃共々暗殺されたと聞きました。現在は反魔族派の王弟が王位についています。」

「人間の王族と言うものはつくづく面倒だ。血縁者であっても、利権の齟齬で殺されることもあるなんてな。」

「それが人間というものですよ。
さて、報告は終わりましたから、次はこちらです。」

イリディーネがニッコリと笑ってパチンと指を鳴らすと、私とアレシュの前に書類の山が現れた。アレシュの方が私より山の数が多い。

「…何のつもりだ?」

「貴方がここ二月、幾度なく逃走を図ったせいで滞っている書類です。
ニコルも、最近うわの空でいることが多いので、仕事が溜まっています。
やらないとは言いませんよね?」

「ははは…」

ヤバい。あのイリディーネの笑顔は完璧に怒っている。柔らかな笑の後ろに般若降臨してるもの!

「それでは、私はここで。」

「どこに行くつもりだ?」

「どこって、あの幼子のところですよ。
私はまだ自己紹介が出来ていませんので。」

リヴちゃんと対面した時の反応が薄かったから、イリディーネは子供に興味が無いと思っていたけれど、そうでも無いみたいね。
まぁ、当たり前か。エルフは魔族の中でも飛び抜けて出生率が低く、イリディーネ自身城からほとんど出ないもの。子供は新鮮よね。

少しワクワクした様子のイリディーネは、扉の取手に手をかけるが、何か思い出したのかこちらを振り向いた。

「仕事が終わるまでこの部屋から出られないよう、魔法をかけていますから。くれぐれも脱走しようなんて浅はかなことは考えないように。
アレシュ、貴方なら容易く破れるのでしょうけれど、そんなことしたらあの子に言いつけますからね。」

「ぐっ…。」

あらあら、アレシュが唸ってる。珍しいものが見れたわ。

「それでは。」

イリディーネは今度こそ部屋を出ていった。
ああ、何でこんなに書類ためちゃったんだろう。これじゃあ、いつまで経ってもリヴちゃんと遊べないじゃないの。

「ニコル。」

ため息をつきながら、ノロノロと書類に手を伸ばしていると隣から声がかかった。

「さっさと終わらせてリヴに会いに行くぞ。」

顔を上げて、アレシュの方を見れば凄い速さで書類を捌く姿が。うそ、山のひとつがもう5分の1ぐらい減ってるわ。

「そうね。早く終わらせましょう。」

頬をペチンと叩いて気合を入れ直し、書類に取り掛かる。
待ってて、リヴちゃん。こんなものすぐに終わらせてあなたに会いに行くからね。
その時は、大輪の花のような笑顔でお疲れ様って言って欲しいな。





















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