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Another side3 佐藤勇人
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勇者として異世界に降り立ってから数週間。
未だに彼女の情報は一切見つからない。
自分で探すと言ったのだが聞き入れてもらえず、外出すらさせてもらえない状況。
俺の顔を見ると掌のシワがなくなるんじゃないかレベルでごまをすりだす贅肉の塊と、飢えたハイエナ顔負けの化粧と香水の毛皮を被った肉食女共しかいない城に軟禁状態というわけだ。
悪を浄化すると言われて覚えた聖魔法は、日々俺の食事や飲み物に紛れ込む毒や媚薬を取り除くために使われる。
会いたくてたまらないのに手がかり1つ見つからないことへの焦りと、この世の地獄のような劣悪な環境に俺の苛立ちはピークに達していた。
もう限界だ。
何としてでも俺の手で彼女を見つけ出す。
そんな衝動に駆られ、部屋を出てクロードを探す。
城外に出るためには彼の手が必要だ。
やたら広い城内を歩き回ること数分、男と話すクロードの後ろ姿を捉えた。
クロードが誰かと話しているなんて珍しいな。
城内には君主であるクロードを避けるような態度の家臣が多い。
廊下の角に隠れて2人を観察する。
城内の者の大半が中世ヨーロッパのような服装をしているのに対し、その男はヒョロりとした長身にチャンパオのような中華風の服を纏っていた。
細く編んだ髪は、背中にかかるほど長く深い紫色をしている。
ジロジロと見ていたせいだろう。
視線に気づいた男が俺の方を見てニコリと笑った。
キュッと不自然なほど上がった口角に糸目なのも相まって胡散臭い印象を受ける。
何故だろうコイツに近寄りたくない、というか関わりたくない。
背筋を走るゾワゾワとした寒気に身の危険を感じてその場から去ろうとしたが、男の視線で俺に気づいたクロードがこちらに手を振ってきた。
くそ、逃げられなかった。
この状況で去るのは明かに不自然なので、仕方なく2人に近づく。
「悪いな、取り込み中だったか」
「もう話は終わったから大丈夫だよ」
「殿下、そちらの方はもしや噂の勇者様デスカ?」
「うん、そうだよ」
「ナント!
ワタシ生きているうちにに一目で良いから勇者様にお目にかかりたかったデスヨ!
夢が叶いましタ!光栄デスよ!」
少し片言で話す男はパチパチと手を叩きながら、大袈裟に喜んで見せた。
やっぱり胡散臭い。
「殿下とのお話も終わりましたシ、勇者様とも会えたのでワタシはここらで失礼しますネ」
男はペコリと一礼すると、ダボっとしたズボンの裾を翻し軽やかに歩いていってしまった。
「胡散臭いな
あんな奴城にいたか?」
男が角を曲がったのを確認して、クロードにそう問えば彼はきょとんとした顔をしていた。
「え?何のこと?」
「何って......」
あ、れ......?
俺は今何の話をしようとしていたんだ?
口を開いたものの何を話そうとしたのかわからない。
思い出そうとしても霞みがかったように記憶がぼやける。
俺は城外に出るためにクロードを探していて、それから......
クソッ、思い出せない!
何だ
何が起きてるんだ
「ユウト?」
「っ何でもねぇ」
「顔色が良くないよ?」
「平気だ。
それより、お前に頼みたいことがある」
未だに不思議そうな顔をしているクロードを無視して防音の魔法を唱える。
これで外部には俺らの話声は一切もれない。
それから、クロードに城を抜け出したい旨を伝える。
「別に逃げようってんじゃねぇ。
今回は王都をある程度見たらちゃんと城に戻る」
「今回は、なんだ。
まあ、いいか。君もこんなところに箱詰め状態では窮屈だもんね
僕についてきて」
クロードは苦笑いを浮かべつつも城外へと繋がる隠し通路へと案内してくれた。
「サンキュ」
「どういたしまして。
それと、はい」
差し出されたのは薄汚れたローブだった。
なるほど。確かに、この髪色や格好だと王都で目立つな。
再度お礼を言おうとしてクロードの腕の中にも同じローブがあることに気づく。
「僕も行くよ。
君に案内できるぐらいには王都のこと詳しいよ」
「そりゃあ助かる。
ありがとな」
「うん、どういたしまして」
クロードに続いて隠し通路に足を踏み入れ、指先に灯った炎を頼りに薄暗い道を進む。
カツン、カツン、と靴音だけが響く。
俺は沈黙に耐えられなくなり、口を開いた。
「なあ、魔王ってどんな奴なんだ?」
「それが、誰もわからないんだ」
「わからない?
それって本当に存在しているのか?」
「存在しているのは確かだよ。
これまで多くの国が魔王軍と戦ってきているからね」
「なのに知らないのか?」
「知らないというと少し語弊があるかな。
当代の魔王の名前はアレシュ・ハインズ。
この名前は赤子でも知っているからね。
だけど、魔王がどんな姿なのか何族なのかは誰もわからないんだ」
「意味がわからねぇな」
「魔王軍との戦いで生き残った者はたくさんいるのだけれど、誰一人として魔王や四天王の容姿を覚えちゃいないんだ。
彼らが覚えているのは魔王軍と戦ったという事実だけ」
「その四天王っていうのはあれか?
魔王の次に強い幹部的な奴らのことか?」
「うん、そうだよ。
“血濡れの狂犬” テオ・クライシス
“鬼神” ギルロイ・ディモン
“不死鳥” ニコル・ラウーラ
“風使いの精霊” イリディーネ・トロワ
姿形はわからないけれど、通り名と共に彼らの名前は浸透しているんだ」
「なるほどな。
敵の戦力や戦法は何一つとしてわからないわけか。
それはまた、なんとも無謀な戦いだな」
「そう、だね......
あ、もう着くよ」
クロードは、目の前を塞ぐ壁に手を当てグッと押す。
壁がずれたことで一気に差しこんだ光の眩しさに目を細める。
こうして俺は窮屈な城から一時的に脱出した。
未だに彼女の情報は一切見つからない。
自分で探すと言ったのだが聞き入れてもらえず、外出すらさせてもらえない状況。
俺の顔を見ると掌のシワがなくなるんじゃないかレベルでごまをすりだす贅肉の塊と、飢えたハイエナ顔負けの化粧と香水の毛皮を被った肉食女共しかいない城に軟禁状態というわけだ。
悪を浄化すると言われて覚えた聖魔法は、日々俺の食事や飲み物に紛れ込む毒や媚薬を取り除くために使われる。
会いたくてたまらないのに手がかり1つ見つからないことへの焦りと、この世の地獄のような劣悪な環境に俺の苛立ちはピークに達していた。
もう限界だ。
何としてでも俺の手で彼女を見つけ出す。
そんな衝動に駆られ、部屋を出てクロードを探す。
城外に出るためには彼の手が必要だ。
やたら広い城内を歩き回ること数分、男と話すクロードの後ろ姿を捉えた。
クロードが誰かと話しているなんて珍しいな。
城内には君主であるクロードを避けるような態度の家臣が多い。
廊下の角に隠れて2人を観察する。
城内の者の大半が中世ヨーロッパのような服装をしているのに対し、その男はヒョロりとした長身にチャンパオのような中華風の服を纏っていた。
細く編んだ髪は、背中にかかるほど長く深い紫色をしている。
ジロジロと見ていたせいだろう。
視線に気づいた男が俺の方を見てニコリと笑った。
キュッと不自然なほど上がった口角に糸目なのも相まって胡散臭い印象を受ける。
何故だろうコイツに近寄りたくない、というか関わりたくない。
背筋を走るゾワゾワとした寒気に身の危険を感じてその場から去ろうとしたが、男の視線で俺に気づいたクロードがこちらに手を振ってきた。
くそ、逃げられなかった。
この状況で去るのは明かに不自然なので、仕方なく2人に近づく。
「悪いな、取り込み中だったか」
「もう話は終わったから大丈夫だよ」
「殿下、そちらの方はもしや噂の勇者様デスカ?」
「うん、そうだよ」
「ナント!
ワタシ生きているうちにに一目で良いから勇者様にお目にかかりたかったデスヨ!
夢が叶いましタ!光栄デスよ!」
少し片言で話す男はパチパチと手を叩きながら、大袈裟に喜んで見せた。
やっぱり胡散臭い。
「殿下とのお話も終わりましたシ、勇者様とも会えたのでワタシはここらで失礼しますネ」
男はペコリと一礼すると、ダボっとしたズボンの裾を翻し軽やかに歩いていってしまった。
「胡散臭いな
あんな奴城にいたか?」
男が角を曲がったのを確認して、クロードにそう問えば彼はきょとんとした顔をしていた。
「え?何のこと?」
「何って......」
あ、れ......?
俺は今何の話をしようとしていたんだ?
口を開いたものの何を話そうとしたのかわからない。
思い出そうとしても霞みがかったように記憶がぼやける。
俺は城外に出るためにクロードを探していて、それから......
クソッ、思い出せない!
何だ
何が起きてるんだ
「ユウト?」
「っ何でもねぇ」
「顔色が良くないよ?」
「平気だ。
それより、お前に頼みたいことがある」
未だに不思議そうな顔をしているクロードを無視して防音の魔法を唱える。
これで外部には俺らの話声は一切もれない。
それから、クロードに城を抜け出したい旨を伝える。
「別に逃げようってんじゃねぇ。
今回は王都をある程度見たらちゃんと城に戻る」
「今回は、なんだ。
まあ、いいか。君もこんなところに箱詰め状態では窮屈だもんね
僕についてきて」
クロードは苦笑いを浮かべつつも城外へと繋がる隠し通路へと案内してくれた。
「サンキュ」
「どういたしまして。
それと、はい」
差し出されたのは薄汚れたローブだった。
なるほど。確かに、この髪色や格好だと王都で目立つな。
再度お礼を言おうとしてクロードの腕の中にも同じローブがあることに気づく。
「僕も行くよ。
君に案内できるぐらいには王都のこと詳しいよ」
「そりゃあ助かる。
ありがとな」
「うん、どういたしまして」
クロードに続いて隠し通路に足を踏み入れ、指先に灯った炎を頼りに薄暗い道を進む。
カツン、カツン、と靴音だけが響く。
俺は沈黙に耐えられなくなり、口を開いた。
「なあ、魔王ってどんな奴なんだ?」
「それが、誰もわからないんだ」
「わからない?
それって本当に存在しているのか?」
「存在しているのは確かだよ。
これまで多くの国が魔王軍と戦ってきているからね」
「なのに知らないのか?」
「知らないというと少し語弊があるかな。
当代の魔王の名前はアレシュ・ハインズ。
この名前は赤子でも知っているからね。
だけど、魔王がどんな姿なのか何族なのかは誰もわからないんだ」
「意味がわからねぇな」
「魔王軍との戦いで生き残った者はたくさんいるのだけれど、誰一人として魔王や四天王の容姿を覚えちゃいないんだ。
彼らが覚えているのは魔王軍と戦ったという事実だけ」
「その四天王っていうのはあれか?
魔王の次に強い幹部的な奴らのことか?」
「うん、そうだよ。
“血濡れの狂犬” テオ・クライシス
“鬼神” ギルロイ・ディモン
“不死鳥” ニコル・ラウーラ
“風使いの精霊” イリディーネ・トロワ
姿形はわからないけれど、通り名と共に彼らの名前は浸透しているんだ」
「なるほどな。
敵の戦力や戦法は何一つとしてわからないわけか。
それはまた、なんとも無謀な戦いだな」
「そう、だね......
あ、もう着くよ」
クロードは、目の前を塞ぐ壁に手を当てグッと押す。
壁がずれたことで一気に差しこんだ光の眩しさに目を細める。
こうして俺は窮屈な城から一時的に脱出した。
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