【完結】ゆるキャラ好きの悪役令嬢はオネエ公爵に拾われる

柊ハセル

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魔術師団長

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 驚きのあまり繋いでいた手が離れ、二人揃ってマリアが消えた場所を呆然と見つめる。

「今のは……」
「どうやら彼女には協力者が居るようですね……それもかなりの魔法の使い手の……」

 マリアには協力者が居る。
 もしかして、他の攻略対象者だろうか。
 その上、かなりの魔法の使い手と聞くと、一人しか思い浮かばない。

(きっと魔術師団長のクレリオ様ね……あの方は厄介でしかないけど)

 クレリオ様は光と闇以外の全ての属性の魔法が使える魔術師団の団長で、魔法や呪術が大好きな変わり者。
 そして、彼はゲームの攻略対象者なのだけれど、ヤンデレ属性……。

 ヤンデレが好きではなかった私は、彼のルートをほとんどプレイしていない。
 けれど、どういうキャラクターかはよく知っている。
 なぜならクレリオ様は、自身が使えない光と闇の属性を研究したくて仕方がないという設定で、ヒロインと悪役令嬢両方に執拗に絡んでくるからだ。

(攻略ルートに進んでいないのに、なぜか絡んでくるという困ったキャラだったのよね……)

 転生してからは、死なないために闇属性であることをひた隠し、自発的に魔法を使わずに来たから、接点がなかった。
 けれど、どうやらマリアにはゲーム通りに絡んでいたようだ。

「厄介な人が出てきちゃったわ……」
「? ロベリア嬢には心当たりがあるのですか?」

 思わず呟いてしまった言葉に、すっかり丁寧な口調に戻ったランズベルト様が反応する。

(あの男らしいランズベルト様の口調もカッコ良くて良かったなあ……と、今はそんなこと考えてる場合じゃないわ)

「……いえ、その、」
「それは誰ですか?」

 言い淀む私に、ランズベルト様は次の問いを重ねる。

(どうしましょう!? 名前を挙げてしまうと、どこで接点があったのかと不思議に思われるんじゃ……)

 ランズベルト様には乙女ゲームの話はしていない。
 こんなに必死に私を守ろうと動いてくださっている方に、このまま隠し続けて良いのだろうか。
 けれど、話したところで信じてもらえるかというのはもちろん、既に元の乙女ゲームのシナリオとは大きく外れてしまっている。
 話す意味があるのかどうかさえ、怪しい。
 しかも、ランズベルト様自身も攻略対象者の一人で、『どうやらあなたが一番狙われています』だなんて……言えるわけがない。
 考え込んでいる私にランズベルト様は困ったような、少し寂しそうな顔をすると、そのまま一旦ヘルマンへと駆け寄っていった。

(あんな顔させたいわけじゃないのに……)

 ランズベルト様は禍々しい黒い靄に包まれているヘルマンを全く躊躇することなく抱きかかえると、「くま吉」を呼んだ。

「『くま吉』、こちらへ来てもらえますか?」

 呼ばれた「くま吉」は嬉しそうにランズベルト様の元へと急ぐ。

「クマクマ~」

「くま吉」によって、あっという間にヘルマンの周りの靄は浄化され、なんなら怪我も一緒に治してしまった。
 その事実に、二人して目を見開く。
 目を覚ましたヘルマンは、主人の腕に抱かれていると知るやいなや、慌てて飛び起き、頭をペコペコ下げた。
 そんなヘルマンを嬉しそうに見つめるランズベルト様。
 二人の様子を見ているうちに、不思議と話しても良いような気がして、私は口を開いた。

「ランズベルト様、マリアの協力者は魔術師団長のクレリオ・ノルン様です」

 ヘルマンの謝罪に笑っていたランズベルト様は、一瞬驚いた顔になり、私に視線を合わせる。

「ノルン師団長ですか……それなら先ほどの転移陣も納得がいきますね。師団長であれば、あれくらいの魔法は造作もないでしょう」

 そうして納得がいったとばかりにふむふむと頷く。
 なぜ私が知っているのかを訊かれると思って身構えているのに、一向に次の質問が飛んでこない。
 それどころか「では、早く屋敷に帰りましょうか」と言って私の目の前までやってきて、手を差し伸べた。

「……あの、何もお訊きにならないのですか?」

 訊かれないことがもどかしくて、思わず逆に尋ねてしまう。
 すると、ランズベルト様は私に切なげな笑顔を向けた。

「あなたが知られたくないと思うことを無理矢理聞き出すつもりはありません。ただ、それによってあなたの、ロベリア嬢の身に危険が及ぶのであれば、お話しいただきたいとは思いますね」

「……」

「何よりも……あなたが心配なのです。あなたの身に何かあったらと思うと……!」

「……っ!」

 あまりに真剣な瞳でそう言われ、心が揺らぐ。
 もういっそのこと、全部ぶちまけてしまった方が良いのではないだろうか。
 何よりも、その方が早くマリアを止められる、ひいては国を救えるのではないか。
 それに、このランズベルト様の気持ちは……「くま吉」を連れ帰ってきた時の私の気持ちと同じなのかもしれない。
 彼のエメラルドの視線が熱を帯びていて、あの時の自分の気持ちとリンクする。

「あの……ランズベルト様……その」
「申し訳ありません。気持ちを押し付けてしまいました。今のは、その、忘れてください……」

 顔をほてらせながら、最後は弱々しくそう告げるランズベルト様が少し可愛く見える。

「いえ、あの、ランズベルト様。ご心配いただいてありがとうございます。あの、先日の私も同じ気持ちでしたので……その、わかります」

 二人で顔を赤くさせているとヘルマンが咳払いをしながら「くま吉」を連れて、先に部屋を出ていく。
 その行動に思わず顔を見合わせ、また赤面した。
 けれど、ランズベルト様は赤面したまま私の体をグッと抱き寄せると、耳元で弱々しく呟く。

「どうにも、あなたに何かあったらと思うと胸がざわついて仕方がないのです」
「それは……私もです」

 抱きしめられたままランズベルト様の肩に顔を埋めてそう告げると、腕の力が少し強まる。
 そうして抱きしめられていたら、ランズベルト様の胸元がなぜか段々ぽかぽかと暖かくなっていくのがわかった。
 不思議に思って体を離すと、ランズベルト様の胸元からエメラルドの瞳をした「くま吉」が姿を現した。

「グマ~!」
「「ええ!? 『くま吉』!?」」

 驚きのあまり、二人揃って声を上げる。
 甘い雰囲気は吹き飛び、なんなら乙女ゲームの秘密もそのままに、新たな「くま吉」を連れて、馬車で待つヘルマンと「くま吉」のもとへと急いだ。
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