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序章
第一夜「一夜月 召喚・契約・目覚め」②
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「美月せんぱ~い!本当にごめんなさい!
締め切り、私、完全に勘違いしてて!」
「えっ!?」
大学を卒業して三年。
憧れの化粧品メーカー広報部に配属され、ようやく慣れてきたと思った矢先――
最近の私の悩みは、教育係を任された新卒の後輩だった。
「メイクアップアーティストさんへの依頼じゃない!
今日中にスチール撮影のヘアメイク決めないと……!」
「え~、今日、私、大事なデートなんですよ~」
……デート?
私はここ一ヶ月、あなたの尻拭いのために残業続き。
プライベートどころか、家で湯船に浸かった記憶すらないんだけど。
そんな心の叫びは、社内コンプラという名の分厚い壁に阻まれ、
冷たい唾液と一緒に飲み込んだ。
顔には、広報として訓練された完璧な笑顔を張り付け、引き継ぎ資料を受け取る。
「今回は急ぎだから、私の方で対応するから。次は気をつけてね」
「は~い♡ありがとうございます!」
受け取った資料にざっと目を通す。
――やっぱり。ため息が出そうになるのを、必死に堪えた。
アーティストへの依頼は『仮』のまま放置、
当日のスケジュールは白紙。
肝心のモデルのスケジュールすら、確定で押さえられていない。
イベントまであと三日。
美容雑誌へのプレスリリースも止まったまま。
主要代理店にも緊急で確認を入れなければならない。
さて、どこから崩すべきか……。
ふと、デスクを離れようとする後輩の視線が、
私の左手の薬指に釘付けになっていることに気づく。
「美月先輩って、営業部の渡辺さんといつ結婚するんですか?
私たち、すごく楽しみにしてるんですよ」
思わずパッと左手の薬指で光を放つ大粒のダイヤの婚約指輪を押さえる。
後輩が言う彼、渡辺翔太――とは、先日の付き合ってちょうど1年の記念日に、プロポーズされたばかり。
「うーん……なかなか予定が合わなくてね。
式場見学、デート兼ねて行きたいんだけど」
「え~!素敵!羨ましいです♡」
うん。だから、あなたの尻拭いのせいで、その式場の見学、
先週も今週もキャンセルして、行けてないんだけどね。
「ほんと、美月先輩、仕事できてキレイで憧れちゃいます♡」
「そう?ありがとう」
「じゃ、お先に失礼しま~す!よい週末を!」
――『よい週末を』、か。
自分に言い聞かせるように小さく呟き、彼女の背中を見送る。
素直で可愛い後輩……そう思い込むしかない。
本当は今日こそ早く仕事を終わらせて、ここ数日高熱で寝込んでいる翔太の看病に行くつもりだった。
温かい差し入れを持って、少しだけでも翔太に会いたかったのに。
はぁ……。
深く息を吐き、机に戻る。
発表会の台本最終チェック、プレスリリース清書、Instagram用の撮影コスメの準備――。
どれも期限が迫っている。
最近はラインのサンプル確認すらできていない。
今日も残業確定。
すでに、諦めという名の覚悟はできていた。
夜のオフィス。
灯りが残るのは、私のデスクひとつだけ。
ノートPCを叩く音が、静寂の中で甲高く響く。
スクリーンに映るのは、新作リップの艶めき。
その光沢をどう表現すれば一番魅力的に見えるのか――
目を凝らして写真を選び続ける。
「残りは……明日の朝一で大丈夫かな」
時計を見ると、針はすでに23時を回っていた。
締め切り、私、完全に勘違いしてて!」
「えっ!?」
大学を卒業して三年。
憧れの化粧品メーカー広報部に配属され、ようやく慣れてきたと思った矢先――
最近の私の悩みは、教育係を任された新卒の後輩だった。
「メイクアップアーティストさんへの依頼じゃない!
今日中にスチール撮影のヘアメイク決めないと……!」
「え~、今日、私、大事なデートなんですよ~」
……デート?
私はここ一ヶ月、あなたの尻拭いのために残業続き。
プライベートどころか、家で湯船に浸かった記憶すらないんだけど。
そんな心の叫びは、社内コンプラという名の分厚い壁に阻まれ、
冷たい唾液と一緒に飲み込んだ。
顔には、広報として訓練された完璧な笑顔を張り付け、引き継ぎ資料を受け取る。
「今回は急ぎだから、私の方で対応するから。次は気をつけてね」
「は~い♡ありがとうございます!」
受け取った資料にざっと目を通す。
――やっぱり。ため息が出そうになるのを、必死に堪えた。
アーティストへの依頼は『仮』のまま放置、
当日のスケジュールは白紙。
肝心のモデルのスケジュールすら、確定で押さえられていない。
イベントまであと三日。
美容雑誌へのプレスリリースも止まったまま。
主要代理店にも緊急で確認を入れなければならない。
さて、どこから崩すべきか……。
ふと、デスクを離れようとする後輩の視線が、
私の左手の薬指に釘付けになっていることに気づく。
「美月先輩って、営業部の渡辺さんといつ結婚するんですか?
私たち、すごく楽しみにしてるんですよ」
思わずパッと左手の薬指で光を放つ大粒のダイヤの婚約指輪を押さえる。
後輩が言う彼、渡辺翔太――とは、先日の付き合ってちょうど1年の記念日に、プロポーズされたばかり。
「うーん……なかなか予定が合わなくてね。
式場見学、デート兼ねて行きたいんだけど」
「え~!素敵!羨ましいです♡」
うん。だから、あなたの尻拭いのせいで、その式場の見学、
先週も今週もキャンセルして、行けてないんだけどね。
「ほんと、美月先輩、仕事できてキレイで憧れちゃいます♡」
「そう?ありがとう」
「じゃ、お先に失礼しま~す!よい週末を!」
――『よい週末を』、か。
自分に言い聞かせるように小さく呟き、彼女の背中を見送る。
素直で可愛い後輩……そう思い込むしかない。
本当は今日こそ早く仕事を終わらせて、ここ数日高熱で寝込んでいる翔太の看病に行くつもりだった。
温かい差し入れを持って、少しだけでも翔太に会いたかったのに。
はぁ……。
深く息を吐き、机に戻る。
発表会の台本最終チェック、プレスリリース清書、Instagram用の撮影コスメの準備――。
どれも期限が迫っている。
最近はラインのサンプル確認すらできていない。
今日も残業確定。
すでに、諦めという名の覚悟はできていた。
夜のオフィス。
灯りが残るのは、私のデスクひとつだけ。
ノートPCを叩く音が、静寂の中で甲高く響く。
スクリーンに映るのは、新作リップの艶めき。
その光沢をどう表現すれば一番魅力的に見えるのか――
目を凝らして写真を選び続ける。
「残りは……明日の朝一で大丈夫かな」
時計を見ると、針はすでに23時を回っていた。
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