スターライトパレード

木風

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第五巻 Prisoner

第2話「吐息とメガネ」

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……違う吐息が聞こえて、目をうっすら開ける。

……寝ちゃってたみたい。

視界に映るのは、セナ君の顔。
部屋はTVの光だけで照らされていて、青白い明かりが頬骨、喉仏、鎖骨をやわらかくなぞっている。

……メガネ……?

セナ君のメガネのレンズに、TVの映像がゆらりと映り込む。
光が反射して、静かな色気と知性が滲み出していた。
なんでこんなに綺麗なんだろう……
ほんと、ズルい。
TVの音声がほんのり流れてて、セナ君は気づいたように目線を落として

「起きた?……動かなくていいよ」

優しい声とともに、背中をゆっくり撫でられる。
……あれ、この体勢……
私、もしかして……セナ君の上に乗って寝てた!?

「わあっ!ごめん……!重くなかった!?」
「おい、いきなり。動くなって」

慌てて起き上がろうとして、体勢を崩した私を、セナ君が慌てて支えてくれた。

「あ……ありがとう。メガネ、見慣れなくてびっくりしちゃった」
「メガネはたまにな。ブルーライトカットのやつ」

そう言いながらメガネを外す仕草すら格好良くて見とれてしまう。

……私、どれくらい寝てたんだろ。
スマホの時間を見る。……2時。
あ、もう2時!?え?日付変わっちゃってる……!!

「……あの、お誕生日おめでとう」
「ぷっ。あんがと」
「プレゼント、用意してきたの。受け取ってもらえる?」

カバンから取り出したのは、去年と同じ箱に入れたUSBメモリ。

「曲?かけていい?」
「……1回だけね」
「いやー、それは約束できねーな」

そう言いながら、ノートPCに差し込んで再生する。

流れてきたのは、私がセナ君をイメージして作った曲。
王道のアイドルソング。

軽やかなシンセとアコースティックギターが重なるイントロ。
春の風の中、ふと顔を上げたら、隣に笑顔で立っていてくれそうな……そんな透明感。

リズムは心地よく弾んでいて、でもどこか包み込むようなやさしさがあって。
サビでは、まっすぐなストリングスが重なって……
まるで、セナ君の歌声が聴こえてくるみたいだった。

キラキラしてて、まぶしくて。
たぶん、きっと……
みんな、セナ君に恋しちゃう。

そんな、セナ君にしか歌えない曲。

「これ、新曲?」

「新曲っていうか……いつか、ソロ曲とか作れたらなって。
セナ君をイメージして」

……でもこれは、仕事じゃない。コンペでもない。
ただ、私だけが贈れる、たったひとつのプレゼント。

何曲作っても、セナ君のソロを考えると、自然とキラキラしたメロディーばかり浮かんできてしまう。
どんなコードを重ねても、どんなフレーズを並べても……
“誰かのため”じゃなくて、“セナ君のため”だって思った瞬間に、どうしても、こういう音になる。

少しでも長く聴いていてほしくて。
少しでも、自分のことを思い出してほしくて。

……あなたにしか歌えない曲を、私にしか作れないかたちで。

そんな気持ちで、胸がいっぱいだった。

「これ、どんな歌詞乗るの?」
「え?」
「なんか考えてんだろ?」

たしかに……ふんわりとは、ずっと考えていて。
もしこの曲に私が歌詞をつけるなら……

曲に合わせて、人差し指でトントンとリズムを取りながら、最後のサビを小さく口ずさんでみた。



たとえ別々の空を歩いても
この胸の音は 君に届くよ
願いを繋いだこのメロディが
いつか迷う君の背を押すなら
そのときは 隣で笑っていたい



「……なんて。どうかな?」
「……お前さぁ……歌もいけんだな」

えっ。
まさか、歌のほうを褒められるなんて思ってなくて……

「え?ほんと?音程は合ってると思うけど……」

アイドルの人にそう言ってもらえるなんて、嬉しくて、思わず舞い上がってしまいそうになる。

「次の仮歌、自分で歌っちゃおうかな!」
「いや、それはやめとけ」
「はい……」
「マジで……そんな可愛い声で歌うの、誰にも聞かせらんねーよ」

……そんな理由。
やっぱり色々、勘違いしてしまいそうになるじゃん……
時計を見ると、もう午前3時をまわっていた。

「あの……プレゼントも渡せたし、私、そろそろ帰ろうかと……」
「は?帰んの?」
「え……うん。学校だし、着替えもないし……」
「制服なら、今から洗濯回せば朝には乾くだろ」
「でも……」
「ちょっと、こっち来い」

そう言って、セナ君に手を引かれて案内されたのは、寝室ではなく……

開かれた扉の向こうを見た瞬間、思わず足が止まった。

……ここ、クローゼットってレベルじゃない。
完全に、“衣裳部屋”。

「……ここ、全部お洋服……?」
「ん。プライベート用。衣装とは別」

色ごとにグラデーションで並べられたシャツやジャケット。
たたみジワひとつないニットやパンツが、種類ごとにきっちり整頓されていて。
まるで、撮影現場のスタイリングルームみたいだった。

「セナ君って、服好きなの?」
「好きっつーか……まあ、自己プロデュースがキモみたいな仕事だからな。
見られてナンボだし、服とか髪型って武器になるし」
「……みんなも、同じ感じなの?」
「全然ちげーよ。レオはスタイリッシュだけど、プライベートはわりとゆるめだし。
ツバキはブランド好きだけど、派手でギラついてるしな」

ちょっと笑いながら、セナ君が続ける。

「マオなんて、迷彩とかヒョウ柄とか普通に着てる。
こないだ現場に上下ヒョウ柄で来て、カメラマンに“今日はなんの狩り?”って聞かれてた」
「……ふふっ」

想像しただけで、笑ってしまう。
私につられて、セナ君もくすっと笑った。

「まあ、ユニットとして並んだときにチグハグにならないようにはしてるけど。
個人の趣味はけっこうバラバラ。……だから逆に、揃えたときに映えるんだよな」

棚には小さな箱がずらりと並び、ガラスケースの中には、見たこともない形のアクセサリーが黒いトレーに大切に並べられている。

……どこのブランドかはわからないけど。
“すごく高そう”ってことだけは、空気で伝わってきた。

「わ……スタイリストさんの部屋みたい……アクセサリーもいっぱいあるんだね」
「気になるのあったら、持ってけば」

……そういうとこ。
ほんと、ずるい。

まるで飴ちゃんでも渡すみたいな、気軽なテンションで「持ってけ」とか言わないで。
……私、今たぶん、ほんのちょっとだけ、キラキラの世界に足を踏み入れてる気がする。

「本題は、こーこ」

そう言ってセナ君が指差したのは、部屋の一番奥。

その一角だけ、モノトーンの空間とはまるで違う雰囲気で……
やわらかな色味の服が、いくつか並んでいた。

女性用のカーディガン、ワンピース、スニーカー。
軽井沢のアウトレットモールを思い出させる……
どれも……私のサイズっぽかった。

「……これ、まさか……」
「1週間分は置いといた。服と靴、あと下着も」
「……っ下着!?」
「下着は、サイズ合わなくてもなんとかなるやつ。あんま派手なのは選んでないけど」

さらっと言われた言葉が、ゆっくり頭の中で意味を持ち始めて。
顔が一気に熱くなるのが、自分でもわかった。

……つまり、私は、いつ来てもいいってこと……?

「……なんで、そんな準備いいの……」
「で、洗濯も着替えも解決した。
帰んなきゃいけない理由、まだある?」

そんな風にやわらかく言いながら、そっと抱きしめられたら……

「……ない、です……」

それしか言えなくなってしまう。
この人は、こういう温度で言うんだ。
ひとつも照れずに、あくまで自然に。

「また季節変わったら、追加しとくからさ」

……季節が変わっても、そばにいていいの……?
ああもう、ずるいよセナ君。
そんなふうに言われたら……どうしたって、期待しちゃうじゃん。
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