スターライトパレード

木風

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第五巻 Prisoner

第4話「寝顔とテスト」

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「……あ」

寝ちゃってる。

背もたれに腕をのせて、頭を預けるような姿勢。
呼吸は深く、穏やかで、少しだけ開いた唇と、微かに動くまつげ。
午後から仕事だったって言ってたし、きっと疲れてたんだろうな……
そっと椅子を立ち、足音を忍ばせて彼の傍へ。

胸が、ぎゅっと締めつけられる。
さっきまで背中に音を届けていただけだったのに、いま目の前で眠る姿を見ていると、どうしようもなく、触れたくなる。

頬に、指を伸ばしてみたくなって。
髪を、そっと撫でてみたくなって。
さっきまで彼に見つめられていた私が……
今は、見つめる側になっていた。

「……ずるいな、セナ君って」

思わずこぼれた小さな声にも、彼は目を覚まさず、ただ静かに、安心しきった顔で眠っている。
そっと、ソファの隣に膝をついた。
少しだけ、寝顔に寄り添うように。

……この時間が、誰にも見られていませんように。

ステージでも、テレビでも見られない顔。
私だけが知っている、彼の表情。
ずっと見ていたい……そう思った、そのとき。

「……ん」

セナ君のまぶたが、わずかに揺れた。

「……なーに、見てんの」

半分眠ったままの低い声で、ゆっくりと目を開ける。

「っ……!ご、ごめん……起こしちゃっ……」

……ダメだ、この人の不意打ちの色気、本当に心臓に悪い……
慌てて立ち上がろうとした瞬間、セナ君の指が、私の手首をつかんだ。

「やだ。……どこ行くの」

寝ぼけた声なのに、ほんの少しだけ力のこもったその手に、私は動けなくなる。

「……寝てて、いいよ?」

そう言った私の言葉に、セナ君はゆっくり手を引いて、
そのまま、自分の体に誘うようにして、自然に、腕を回してきた。

「……ん、ここにいろ。まだ寝る」

目を閉じた彼の横顔は、ついさっきまで眠っていたとは思えないほど、安らかで。
部屋の静けさのなか、私の心臓の音だけが、やけに大きく響いていた。



月曜の朝。
制服に袖を通して、リビングに戻ると……
セナ君はすでに出かける支度を整えていた。

「じゃ、行ってくるわ。おまえも遅れんなよ」

そう言って、玄関で私の頭をくしゃっと撫でて、おでこにキスをくれた。
……何度か繰り返してきた、もう“慣れた”はずの仕草なのに。
今朝は、なんだか妙に胸が締めつけられる。

「いってらっしゃい」

精一杯、明るく返したつもりだったけど。
見送ったあと、私はそっと自分のコートを羽織って、静かな朝の空気のなかに出ていく。
どこか、まだ身体に彼の体温が残っているような気がした。

学校に着いて、午前中の授業とテストをこなす。
午後には早めの解散。
今日は、もうセナ君の家には帰らない。
さすがに、テスト期間だから。

電車を乗り継いで、自宅の最寄り駅に着き、
マンションの鍵を開けて、自室のドアを引いた瞬間……
あまりにも、静かで。
あまりにも、“自分の部屋”だった。

ベッドに鞄を放り投げて、深く、ひとつため息を吐く。
週末のあの空気が、まるで夢みたいに遠く感じた。
誰もいない部屋。
誰の気配も、声も、ない空間。
スマホを手に取ってみるけれど、セナ君からのLINEは来ていない。

……うん。来るはずがない。
今日は午後から番組の収録って言ってた。
わかってる。
忙しいの、ちゃんと知ってる。

でも……

「……はぁ……なにやってるんだろ、私……」

ぽつりと漏らした声は、誰にも届かず、そのまま部屋に沈んでいく。
やらなきゃいけないピアノの練習も、課題も、テスト勉強も、山ほどあるのに。
それなのに、今はただ、自分がどうしようもなく子供みたいで、ぐちゃぐちゃになりそうだった。

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件名:
【主題歌コンペ】映画『夜に焦がれて』タイアップ楽曲募集のご案内(3/5〆)

本文:
音羽奏 様

いつもお世話になっております。マネージャーの八神です。
このたび、諏訪セナ主演の映画『夜に焦がれて』(2027年春公開予定)における主題歌制作のご相談をさせていただきたく、ご連絡差し上げました。
以下、作品概要と楽曲募集要項をご案内いたします。

【納期】
2027年3月5日(金)15:00まで

【作品概要】
劇場用長編映画『夜に焦がれて』
主演:諏訪セナ(スターライトパレード)
ジャンル:恋愛/ヒューマンドラマ/心理スリラー
原作:朝井あや『夜に焦がれて』(講談社文庫)
監督:篠田光(『密やかな夜』『記憶の家』ほか)

【ストーリー(抜粋)】
「どこにも行かないで。たとえ、私が壊れても……」
静かな町で偶然出会ったふたりの男女。
ほんのささやかな日常のはずが、互いの心の奥に潜む“不安”と“執着”が、次第にふたりの関係を歪めていく。
愛しているからこそ、手放せない。
孤独を知るふたりの、不器用で痛いほど真っ直ぐなラブストーリー。

【主題歌コンセプト】
“愛ゆえの狂気”、“感情の牢獄”を音楽で表現できる一曲を希望しています。
表面的な美しさやロマンティックさよりも、**心の奥に潜む「嫉妬」「独占欲」「赦しと依存」**といった、人間らしい弱さに触れるような歌詞・構成を求めています。

【キーワード例】
「あなたが笑うと怖くなる」
「ひとりでいるなら、いっそふたりで堕ちたい」
「ほどいて、ほどけない」
「選ばれたいの、ちゃんと」
「このままずっと囚われていたい」

【曲調】
ミッドテンポ~スローバラード(BPM65~85目安)
ドラムレスまたは重めのビート×エレクトロ+ストリングス基調
無機質なコード感と、情緒的な旋律とのコントラストが好ましい

【提出物】
・メロディ+コード譜(PDFまたは画像形式)
・仮歌入りデモ音源(mp3)
・歌詞(テキスト形式)
・サンプル動画を参考のうえ、物語との親和性を重視してご検討ください
▶︎ 参考映像(限定公開)
※映像内にはセナ主演の一部シーンが含まれます(パスワード:夜焦2026)

【参考楽曲】
「mirror」/Noël(ノエル)
「vanilla haze」/VALS(ヴァルス)
「きみを壊したくなる夜も」/iris & the crow(アイリス・アンド・ザ・クロウ)

【歌唱】
センター:諏訪セナ
→ 深みのある声質と低中音域での色気・哀しさを活かした表現が得意です。
→ 地声~ファルセットの自然な行き来を含む構成も歓迎します。
音域目安:mid1B~hiC#(要相談)

【備考】
・詞先/曲先どちらでも可
・共作可(事前申告)
・1~3案まで提出可
・映像とのリンク重視のため、映像を観た上での制作を推奨いたします

感情の揺らぎを抱きしめるような、静かな衝動を届けられる楽曲を心よりお待ちしております。
ご質問等ございましたら、いつでもご連絡くださいませ。
何卒よろしくお願いいたします。

マネージャー 八神
RiseTone Management
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