スターライトパレード

木風

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第一巻 shooting stars

8話「shooting stars」

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あれからセナ君はもちろん、他のメンバーに会うこともなかった。
楽曲買取のやり取りが八神さんから届いた以外は、特に大きな動きもないまま。

初めての曲を渡してすぐに夏休みに入り、私はすっかり元通りの、静かな日常を過ごしていた。

変わったことがあるとすれば……以前はあまり観なかったテレビで、今はスターライトパレードのバラエティーやドラマを追うようになったこと。
メンバーの元気な姿をリアルタイムで観られるのが、こんなに嬉しいなんて知らなかった。

千葉のライブのあと、彼らは北海道、仙台、大阪と公演をこなし、いよいよ来週末は東京ドーム。

「……夢だったのかな」

あれ以来、ピアノで弾くのはスターライトパレードの曲ばかりになっていた。

……ピンポーン。

「書留です」

書留? 何だろう。
差出人を見た瞬間、心臓が跳ねる。

封筒には「スターライトパレード」の名前が書かれていた。
中には……東京ドームの最前列のチケットが、1枚。

「しかもこの日って……」

東京ドーム初日。8月30日……

ライブ当日。

快晴……を通り越して、猛暑。予報は37℃。

ライブは17時からだけど、雰囲気を感じたくて少し早めに会場入り。
まだ3回目のライブなのに、会場が近づくと自然と胸が高鳴る。

会場前にはファンが溢れ、グッズ売り場には長蛇の列。
Tシャツ、タオル、ペンライト……みんな誇らしげに"推し"をまとっていた。

私も……ちゃんと“ファン”に見えるかな?

届いたチケットをスタッフに見せると、意外なほどスムーズに通された。
会場内に一歩足を踏み入れると、空気が一変する。

天井が高く、広すぎる空間が音を反響させる、そのわずかな“遅れ”までが特別に思えた。

案内された座席は、信じられないくらいステージが近い。
客席が次々に埋まっていく中、時間だけが私を置いていくような感覚。

今、彼らは……このどこかの裏側でスタンバイしてるのかな。

「完成したら一番に聴かせるから」

セナ君の声が、不意に蘇る。
……やばい。心臓、本当に破けそう。

早く来過ぎたかも。こんな調子で最後まで持つのかな……

客電が落ちた瞬間、ドーム全体が星空のように光り出した。
一斉に掲げられるペンライト。7色の光が波のように揺れる。

ステージ中央にゆっくりと現れるシルエット。
順に照らされていくメンバーの姿と共に、歓声が爆発する。

「東京ーーー!!! お前ら!!最後だぞ!! 騒ぐ準備できてるか……!!!?」

椿さんの声。
掠れているのに、なぜか心の奥まで届く、不思議な声だった。

最後に会ってから、まだ一か月しか経っていないのに。
どうしてこんなにも会いたかったんだろう。

何度も聴いた曲。何度も弾いた曲。
なのに、ライブで聴くと、どうしてこんなにも心を揺さぶられるんだろう。

音も、光も、熱も……全部がステージから溢れて、客席を包み込んでいた。

あっという間の4時間。

アンコールが鳴り響く中、肩を叩かれて振り返ると、そこには八神さんが立っていた。

「奏さん。メンバーが呼んでます」

言われるがまま席を立ち、会場裏へ。
裏側に入っても、アンコールの声がまるで風のように聞こえてくる。

カーテンをくぐった先に、ライブTシャツ姿のメンバーがいた。

「あ!奏じゃーん!!」

いきなり遊里君が飛びついてきて、転びかけたところを怜央さんが支えてくれる。

「こーら、遊里」
「あはっ、ごめんごめん! 曲、本当にありがとう!」

そう言って、遊里君はステージへと向かっていく。
通り過ぎざまに、他のメンバーも背中を軽く叩いてくれた。

「約束、しただろ。一番最初に聴かせるって」

背後から聞こえたセナ君の声に、ハッとして振り返る。

「……オレらの代表曲なんだ」
「……うん」
「ずっと大切にする」
「……うん」
「奏に、一番近くで聴いてほしい」

真剣な眼差しが眩しくて、いろんな気持ちを誤魔化したくて、少し俯く。

「……セナ君、私、今日、誕生日なんだ」
「え!?マジ? ~~~お前な~、そういうのはもっと早く言えって!なんも用意できねーじゃん」

慌てた様子が可笑しくて、ついクスッと笑ってしまう。
その言葉だけで、なにかを用意してくれようとした気持ちが、嬉しかった。

「今日のライブだけで、もう十分すぎるくらいだよ」
「じゃ……来年な」

来年。

その響きに胸がきゅっとなる。来年も会えるの……?

「……ピアスとか、ど?」
「ピアス!?」

思わず大きな声が出て、慌てて髪を耳にかける。

「私、ピアスの穴……開けてなくて!」

その瞬間、セナ君の顔がぐっと近づいた。
伸ばされた手が私の耳に触れて、思わず息が漏れそうになる。

……っ……!

「ん、ホントだ。……じゃ、ホールも、オレが開けてやんよ」

そっと耳から手が離れた瞬間、チリッ…と火花が散ったような感覚が走り、代わりに私の手を優しく握る。

セナ君に手を引かれ、ステージ袖へ向かう。

眩しすぎるステージの光の中。
ステージの光が強すぎて、逆光の向こうに立つ彼らが、まるで神さまみたいに輝いて見えた。

出番の合図がかかったとき、握った手をそっと引かれて、セナ君の唇が手の甲に触れた。
何も言わずステージへと向かっていく背中を、私はただ茫然と見送った。

触れられた耳と手が…ジンジンとしている気がする…

「アンコールありがとう…………!!」
「次が最後の曲です! 来月発売の新曲、みんなに一番に聴いてほしくて」
「この曲は、ファンから届いたラブレターみたいなもんです」
「俺たちは、空にいる星なんかじゃない」
「でも、見上げてくれる人がいるから、輝きたいって思えるんだ」
「みんながいる限り、何度でもステージに戻ってくる」

「……新曲『shooting stars』」

ステージが一瞬、闇に包まれる。
ピアノのイントロが、静かに鳴り始めた。
音に込めた想いが多すぎて、涙が止まらない。
あの時生まれたメロディが、今こんなにも大きくなって、たくさんの人の心を揺らしてる。

ああ、曲って……こうして届くんだ

今夜の景色は、一生忘れない。
きっと私がまた曲を作るたびに、思い出す。

この空を。
あのステージを。
彼らの笑顔を。
ステージ裾から見える七色に光る世界。

この世界に、こんなにもきれいな景色があったなんて知らなかった。

何度でも思い出して、胸を熱くさせてくれるこの瞬間を……私は一生、忘れない。

……

学校が始まり、まるで夏に起きたことが幻だったかのように、いつもの日常に戻っていた。

私が初めて作った曲は、発売後すぐに各種ランキングで1位を獲得し、動画サイトの再生数も更新され続けている。
セナ君と約束したとおり、スターライトパレードの"代表曲"と呼ばれるようになった。

時折、街の大型ビジョンから流れるあの曲を耳にすると、どうしようもなく泣きたくなってしまう。
この感情が何なのか……まだ、よくわからない。

また、会いたいな。

……LINEの着信が鳴る。

そんなはずないのに。
出る前から、誰からか分かってしまう。

「……もしもし?」
『まーだー?』
「え?」
『次の曲! まさか、あれで終わりなわけじゃねーよな?』
「……また、作れるの?」
『知ってるか? 代表曲って、別に1曲って決まりはないって。』

スマホの向こうではいたずらっぽく笑っているセナ君の顔が思い浮かぶ

『で、やるの? やらないの?』
「やる!!」
『だよな!! いつ打ち合わせ来れる?』
「今!!今行くよ!!」

セナ君の言葉を遮るように、声が出た。
思わず走り出す。

もう一度、あの光の景色を見たくて。
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