金色アンダンテ

弥生なぬか

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5 金色の約束

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「赤いなあ。」
西の空は真っ赤に染まっていた。それは雲までも赤に染めるほどの強さで1日の終わりを告げていた。二人の少年の東側には長く濃い影が伸びている。まるでその場から離れるのを拒みしがみつく爪のようにしっかりと、くっきりと。
「確かに。」
するとまた、一人の少年が年季は入っているがよく手入れされたグローブから飛び出た紐を親指と人差し指でつまみ上げ、くるくる回しながら尋ねた。
「てか、黄昏時って言うけどなんで黄色がはいってんの?赤じゃね?」
「確かに。」
もう一人の少年は軟球のボールを指で弾いて回転させながら宙へ放って、まだ新しく手の形になっていないグローブでキャッチしながら答えた。

土手に腰掛け座る二人の少年の後ろを同じ金色のランニングシューズを履いた男女がリズミカルに通り過ぎる。
「で、明日は何時に出るんだ?」
「ん~、十時くらいかな。」
「じぁ。見送りは行けないなぁ。」
「いいよ。お前は学校だからな。みんなによろしくな。」


風上から珈琲の苦いにおいが漂ってきた。
「おお。悟くん。」
そう声をかけてきた男の人の右手が太陽の赤い光を乱反射させて眩しい。目を細めながら見ても誰だかよくわからない。自分たちの数歩先に男の人が近づいてきてやっと分かった。
「なんだ。及川のおじさんかぁ。」
「もうそろそろ日も落ちるし、早めに帰るんだぞ。」
そういうと、及川さんは手をヒラヒラさせ、長い影を引き連れて歩いていった。
「おい。悟。誰?」
「あぁ。近所のおじさん。それより真司。これ持ってけよ。」
悟は赤い太陽に照らされることで、真新しいライトブラウンが金色に光って見える自分のグローブを差し出した。
「いや。悪いよ。お前の欲しがったモデルだろ。」
「うるせえなぁ。そのかわり野球続けろよな。」
「じゃあ。悟は俺のグローブを貰えよ。」
真司は悟からのグローブを受け取り、その代わり、グラブレースが毛羽立ち、網が所々解けているが大事に使っていた自分のグローブを手渡した。
「悟。ありがとな。大切にするよ。」
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