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第二章 動き出す
湯井信明『あの後…』
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城の奥、とある重厚な扉には腕ほどの太さもある鎖が何本も巻き付けられ、その途中には封印に使われる魔具が取り付けられている。
それを湯井が冷めた目で見ていた。
中に閉じ込められているのは怪物だ。
仲間を嵌めて殺し、更に自らの腕を失ったせいで魔力が暴走して封印されてしまった憐れな怪物。
奴、シンゴはあの事件の後、目覚めた時にこう言った。
「あの黒い化け物はどうしたのか」と。見知らぬ人が退治したと言えば体を震わせ歓声を上げた。やった、魔物を二匹始末した。その言葉を聞いたとき疑問が浮かんだ。
魔物を二匹?
どういう意味だ?あの時居た魔物は一匹だったはずだ。
問い詰めると、シンゴは笑顔でこう言った。
「魔物は二匹で当たっている、一匹は黒い化け物、もう一匹は勇者として紛れ込んでいた魔族、ライハだ」
意味が分からなかった。
何をどうすれば彼が魔族となるのか。
シンゴは嬉々として彼が魔族だと判断したのかを話した。光魔法で具合が悪くなる事、魔族は魅了の魔法が使えること。その魅了で勇者として活動していなくても追い出されなかった事などを挙げた。
それは反転の呪いのせいだと何度も言うが、それは魔物の戯れ言、お前は騙されているの繰返し。
話にならない。
結局その後、お互いキレて魔法乱用の喧嘩に発展したのだが、そこで異変に気が付いた。
魔法を発動させようとして突き出した腕の先に、本来あるはずの手が無かった。
その事実にシンゴの動きが止まり、両腕を目の前に翳す。
切断された腕の先は血が一滴も出ておらず、断面も綺麗な状態だった。
その腕を激しく震わせ、シンゴは怒鳴り声とも泣き声とも違う叫びを上げた。
その先は朧気でよく覚えてはいないが、シンゴが叫び声を上げた瞬間、今まで見たことの無い量の魔力がシンゴから溢れだし、それが突然巨大な竜巻になって周囲を巻き込んで吹き飛ばした。
その威力は常軌を逸し、クローズの森、それに近くにあったウズルマ村をも巻き込んでその一帯を更地にしてしまった。
その後、国一番の魔法使いの隊がやって来て、数時間かけてシンゴの魔力を端から消していき、遂に封印の魔法具にて完全拘束をした。
今はあの扉の奥で魔力を封じられた状態でひたすら眠らされているだろう。
「…………」
手の中の携帯端末を見詰める。
あの後、何度も何度もアマツの携帯端末に連絡を入れたが、どれも通じない。
ノノハラはコノンを庇った時に負傷し、まだ意識が戻らず、コノンは自分を責めながら城の医者に頼み込んで処置の仕方を学んでいると聞いた。
スイはこの一件で上から問い詰められ何処かへと連行されていき、湯井も利き腕を折ってしまい療養中だ。
「全く、情けない」
「ほんとだぜ」
「!」
「なんですか、オレの気配に気付かなかったんですか?考え事もいいですけど気を抜いてると、喉元咬み付かれちまいますよ」
「わかってる」
気付けばタゴスが隣にいた。
いつ来たのか、普段ならすぐに感知できる気配も深く考え事をしていて分からなかったようだ。
携帯端末を懐に仕舞う。
「確かクローズの森に遠征に行っていたのではないのか?あの事件の後、魔物が森から大量に湧いて出たと聞いたが」
「ああ、湧いて出ました。見渡す限り真っ黒って程に。だけど、同時に大量のクローゥズが発生して、出てきていた魔物の約半分が消えたんですよ。それで、残った半分を俺達兵が前戦部隊、後戦部隊を交代しながら始末している感じです。オレは始めに戦った部隊なんで、今少しだけ休めている、そんな所です」
「なるほど」
魔力災害(クローゥズ)もこういう時だけ役に立つ。
「……なぁ」
「何ですか?」
「アマツ君は、本当に死んだと思うか?」
「……、なんでそんな事訊くんですか?ていうか、あなたの方がよく知っていると思いますが。一緒に遠征に行っていたんですよね」
タゴスからは相変わらずぶっきらぼうな返答しか来ない。だけど、湯井は構わず続けた。
「あの時、コノンの見せてくれた場面でアマツ君は黒い化け物の近くに倒れていたんだが。何というか、不思議と死んだっていう感覚がないんだ。まぁシンゴが黒い化け物の尻尾でアマツ君を丸呑みにしたとか、少し訳の分からん事を言っているが、あの時のシンゴはまともじゃなかったからな、どこまでが真実かわからないんだよ」
「………なるほど、で、もしの仮定でライハが生きていたとして、何故戻ってこないんですか?」
「…………、わからない。でも、何だろう。何かしっくり来ない」
日ノ本にいたときは、人が死ぬと何となく自然に分かったものだ。例え遠くにいても、連絡がとれなくても、あ、今アイツはいなくなってしまったなと感じることが出来た。
誰かがそれを虫の知らせと言っていたが。
世界が違うからという理由で終わってしまいそうな話しだが、今回のアマツ君の事は何故かそういう感じが一切無かったのだ。
「あなたがそう思うなら、そう信じていればいいじゃないですか。大事ですよ、そういうの」
タゴスがこちらを見ることなく言う。
視線の先には封印された扉があったが、湯井はタゴスがその扉を透かして別のものを見ているように感じだ。
「それに、もしかしたら運良く生き延びていて、別のところで元気にしているのかも知れない。オレはそう信じてますがね」
「…………」
そうか、と、湯井は小さく呟いた。
しっくり来ないなら、己の信じるものを信じれば良い。
「礼を言うタゴス」
「あ?何?なんか今日のあなた気持ち悪いですね、変なもんでも食べました?」
「素直に礼を言えば…。いや、それでも心が軽くなった」
「そうですか」
湯井はもう一度だけ扉を見ると踵を返す。
「あいつは、勘が良いんだな」
その湯井の後ろ姿を見ながらタゴスが小さく呟いた。
それを湯井が冷めた目で見ていた。
中に閉じ込められているのは怪物だ。
仲間を嵌めて殺し、更に自らの腕を失ったせいで魔力が暴走して封印されてしまった憐れな怪物。
奴、シンゴはあの事件の後、目覚めた時にこう言った。
「あの黒い化け物はどうしたのか」と。見知らぬ人が退治したと言えば体を震わせ歓声を上げた。やった、魔物を二匹始末した。その言葉を聞いたとき疑問が浮かんだ。
魔物を二匹?
どういう意味だ?あの時居た魔物は一匹だったはずだ。
問い詰めると、シンゴは笑顔でこう言った。
「魔物は二匹で当たっている、一匹は黒い化け物、もう一匹は勇者として紛れ込んでいた魔族、ライハだ」
意味が分からなかった。
何をどうすれば彼が魔族となるのか。
シンゴは嬉々として彼が魔族だと判断したのかを話した。光魔法で具合が悪くなる事、魔族は魅了の魔法が使えること。その魅了で勇者として活動していなくても追い出されなかった事などを挙げた。
それは反転の呪いのせいだと何度も言うが、それは魔物の戯れ言、お前は騙されているの繰返し。
話にならない。
結局その後、お互いキレて魔法乱用の喧嘩に発展したのだが、そこで異変に気が付いた。
魔法を発動させようとして突き出した腕の先に、本来あるはずの手が無かった。
その事実にシンゴの動きが止まり、両腕を目の前に翳す。
切断された腕の先は血が一滴も出ておらず、断面も綺麗な状態だった。
その腕を激しく震わせ、シンゴは怒鳴り声とも泣き声とも違う叫びを上げた。
その先は朧気でよく覚えてはいないが、シンゴが叫び声を上げた瞬間、今まで見たことの無い量の魔力がシンゴから溢れだし、それが突然巨大な竜巻になって周囲を巻き込んで吹き飛ばした。
その威力は常軌を逸し、クローズの森、それに近くにあったウズルマ村をも巻き込んでその一帯を更地にしてしまった。
その後、国一番の魔法使いの隊がやって来て、数時間かけてシンゴの魔力を端から消していき、遂に封印の魔法具にて完全拘束をした。
今はあの扉の奥で魔力を封じられた状態でひたすら眠らされているだろう。
「…………」
手の中の携帯端末を見詰める。
あの後、何度も何度もアマツの携帯端末に連絡を入れたが、どれも通じない。
ノノハラはコノンを庇った時に負傷し、まだ意識が戻らず、コノンは自分を責めながら城の医者に頼み込んで処置の仕方を学んでいると聞いた。
スイはこの一件で上から問い詰められ何処かへと連行されていき、湯井も利き腕を折ってしまい療養中だ。
「全く、情けない」
「ほんとだぜ」
「!」
「なんですか、オレの気配に気付かなかったんですか?考え事もいいですけど気を抜いてると、喉元咬み付かれちまいますよ」
「わかってる」
気付けばタゴスが隣にいた。
いつ来たのか、普段ならすぐに感知できる気配も深く考え事をしていて分からなかったようだ。
携帯端末を懐に仕舞う。
「確かクローズの森に遠征に行っていたのではないのか?あの事件の後、魔物が森から大量に湧いて出たと聞いたが」
「ああ、湧いて出ました。見渡す限り真っ黒って程に。だけど、同時に大量のクローゥズが発生して、出てきていた魔物の約半分が消えたんですよ。それで、残った半分を俺達兵が前戦部隊、後戦部隊を交代しながら始末している感じです。オレは始めに戦った部隊なんで、今少しだけ休めている、そんな所です」
「なるほど」
魔力災害(クローゥズ)もこういう時だけ役に立つ。
「……なぁ」
「何ですか?」
「アマツ君は、本当に死んだと思うか?」
「……、なんでそんな事訊くんですか?ていうか、あなたの方がよく知っていると思いますが。一緒に遠征に行っていたんですよね」
タゴスからは相変わらずぶっきらぼうな返答しか来ない。だけど、湯井は構わず続けた。
「あの時、コノンの見せてくれた場面でアマツ君は黒い化け物の近くに倒れていたんだが。何というか、不思議と死んだっていう感覚がないんだ。まぁシンゴが黒い化け物の尻尾でアマツ君を丸呑みにしたとか、少し訳の分からん事を言っているが、あの時のシンゴはまともじゃなかったからな、どこまでが真実かわからないんだよ」
「………なるほど、で、もしの仮定でライハが生きていたとして、何故戻ってこないんですか?」
「…………、わからない。でも、何だろう。何かしっくり来ない」
日ノ本にいたときは、人が死ぬと何となく自然に分かったものだ。例え遠くにいても、連絡がとれなくても、あ、今アイツはいなくなってしまったなと感じることが出来た。
誰かがそれを虫の知らせと言っていたが。
世界が違うからという理由で終わってしまいそうな話しだが、今回のアマツ君の事は何故かそういう感じが一切無かったのだ。
「あなたがそう思うなら、そう信じていればいいじゃないですか。大事ですよ、そういうの」
タゴスがこちらを見ることなく言う。
視線の先には封印された扉があったが、湯井はタゴスがその扉を透かして別のものを見ているように感じだ。
「それに、もしかしたら運良く生き延びていて、別のところで元気にしているのかも知れない。オレはそう信じてますがね」
「…………」
そうか、と、湯井は小さく呟いた。
しっくり来ないなら、己の信じるものを信じれば良い。
「礼を言うタゴス」
「あ?何?なんか今日のあなた気持ち悪いですね、変なもんでも食べました?」
「素直に礼を言えば…。いや、それでも心が軽くなった」
「そうですか」
湯井はもう一度だけ扉を見ると踵を返す。
「あいつは、勘が良いんだな」
その湯井の後ろ姿を見ながらタゴスが小さく呟いた。
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