INTEGRATE!~召喚されたら呪われてた件~

古嶺こいし

文字の大きさ
73 / 152
第二章 動き出す

湯井信明『あの後…』

しおりを挟む
城の奥、とある重厚な扉には腕ほどの太さもある鎖が何本も巻き付けられ、その途中には封印に使われる魔具が取り付けられている。

それを湯井ゆいが冷めた目で見ていた。

中に閉じ込められているのは怪物だ。
仲間を嵌めて殺し、更に自らの腕を失ったせいで魔力が暴走して封印されてしまった憐れな怪物。


奴、シンゴはあの事件の後、目覚めた時にこう言った。
「あの黒い化け物はどうしたのか」と。見知らぬ人が退治したと言えば体を震わせ歓声を上げた。やった、魔物を二匹始末した。その言葉を聞いたとき疑問が浮かんだ。

魔物を二匹?
どういう意味だ?あの時居た魔物は一匹だったはずだ。

問い詰めると、シンゴは笑顔でこう言った。

「魔物は二匹で当たっている、一匹は黒い化け物、もう一匹は勇者として紛れ込んでいた魔族、ライハだ」

意味が分からなかった。

何をどうすればアマツが魔族となるのか。

シンゴは嬉々として彼が魔族だと判断したのかを話した。光魔法で具合が悪くなる事、魔族は魅了の魔法が使えること。その魅了で勇者として活動していなくても追い出されなかった事などを挙げた。
それは反転の呪いのせいだと何度も言うが、それは魔物の戯れ言、お前は騙されているの繰返し。
話にならない。

結局その後、お互いキレて魔法乱用の喧嘩に発展したのだが、そこで異変に気が付いた。

魔法を発動させようとして突き出した腕の先に、本来あるはずの手が無かった。
その事実にシンゴの動きが止まり、両腕を目の前に翳す。

切断された腕の先は血が一滴も出ておらず、断面も綺麗な状態だった。

その腕を激しく震わせ、シンゴは怒鳴り声とも泣き声とも違う叫びを上げた。

その先は朧気でよく覚えてはいないが、シンゴが叫び声を上げた瞬間、今まで見たことの無い量の魔力がシンゴから溢れだし、それが突然巨大な竜巻になって周囲を巻き込んで吹き飛ばした。

その威力は常軌を逸し、クローズの森、それに近くにあったウズルマ村をも巻き込んでその一帯を更地にしてしまった。

その後、国一番の魔法使いの隊がやって来て、数時間かけてシンゴの魔力を端から消していき、遂に封印の魔法具にて完全拘束をした。
今はあの扉の奥で魔力を封じられた状態でひたすら眠らされているだろう。

「…………」

手の中の携帯端末を見詰める。
あの後、何度も何度もアマツの携帯端末に連絡を入れたが、どれも通じない。

ノノハラはコノンを庇った時に負傷し、まだ意識が戻らず、コノンは自分を責めながら城の医者に頼み込んで処置の仕方を学んでいると聞いた。
スイはこの一件で上から問い詰められ何処かへと連行されていき、湯井も利き腕を折ってしまい療養中だ。

「全く、情けない」

「ほんとだぜ」

「!」

「なんですか、オレの気配に気付かなかったんですか?考え事もいいですけど気を抜いてると、喉元咬み付かれちまいますよ」

「わかってる」

気付けばタゴスが隣にいた。
いつ来たのか、普段ならすぐに感知できる気配も深く考え事をしていて分からなかったようだ。

携帯端末を懐に仕舞う。

「確かクローズの森に遠征に行っていたのではないのか?あの事件の後、魔物が森から大量に湧いて出たと聞いたが」

「ああ、湧いて出ました。見渡す限り真っ黒って程に。だけど、同時に大量のクローゥズが発生して、出てきていた魔物の約半分が消えたんですよ。それで、残った半分を俺達兵が前戦部隊、後戦部隊を交代しながら始末している感じです。オレは始めに戦った部隊なんで、今少しだけ休めている、そんな所です」

「なるほど」

魔力災害(クローゥズ)もこういう時だけ役に立つ。

「……なぁ」

「何ですか?」

「アマツ君は、本当に死んだと思うか?」

「……、なんでそんな事訊くんですか?ていうか、あなたの方がよく知っていると思いますが。一緒に遠征に行っていたんですよね」

タゴスからは相変わらずぶっきらぼうな返答しか来ない。だけど、湯井は構わず続けた。

「あの時、コノンの見せてくれた場面でアマツ君は黒い化け物の近くに倒れていたんだが。何というか、不思議と死んだっていう感覚がないんだ。まぁシンゴが黒い化け物の尻尾でアマツ君を丸呑みにしたとか、少し訳の分からん事を言っているが、あの時のシンゴはまともじゃなかったからな、どこまでが真実かわからないんだよ」

「………なるほど、で、もしの仮定でライハが生きていたとして、何故戻ってこないんですか?」

「…………、わからない。でも、何だろう。何かしっくり来ない」

日ノ本にいたときは、人が死ぬと何となく自然に分かったものだ。例え遠くにいても、連絡がとれなくても、あ、今アイツはいなくなってしまったなと感じることが出来た。
誰かがそれを虫の知らせと言っていたが。

世界が違うからという理由で終わってしまいそうな話しだが、今回のアマツ君の事は何故かそういう感じが一切無かったのだ。

「あなたがそう思うなら、そう信じていればいいじゃないですか。大事ですよ、そういうの」

タゴスがこちらを見ることなく言う。
視線の先には封印された扉があったが、湯井はタゴスがその扉を透かして別のものを見ているように感じだ。

「それに、もしかしたら運良く生き延びていて、別のところで元気にしているのかも知れない。オレはそう信じてますがね」

「…………」

そうか、と、湯井は小さく呟いた。
しっくり来ないなら、己の信じるものを信じれば良い。

「礼を言うタゴス」

「あ?何?なんか今日のあなた気持ち悪いですね、変なもんでも食べました?」

「素直に礼を言えば…。いや、それでも心が軽くなった」

「そうですか」

湯井はもう一度だけ扉を見ると踵を返す。







「あいつは、勘が良いんだな」






その湯井の後ろ姿を見ながらタゴスが小さく呟いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】 【第5回一二三書房Web小説大賞コミカライズ賞】 ~ポルカコミックスでの漫画化(コミカライズ)決定!~  ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。  学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。  何か実力を隠す特別な理由があるのか。  いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。  そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。  貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。  オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。    世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな! ※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

ハズレスキル【地図化(マッピング)】で追放された俺、実は未踏破ダンジョンの隠し通路やギミックを全て見通せる世界で唯一の『攻略神』でした

夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティの荷物持ちだったユキナガは、戦闘に役立たない【地図化】スキルを理由に「無能」と罵られ、追放された。 しかし、孤独の中で己のスキルと向き合った彼は、その真価に覚醒する。彼の脳内に広がるのは、モンスター、トラップ、隠し通路に至るまで、ダンジョンの全てを完璧に映し出す三次元マップだった。これは最強の『攻略神』の眼だ――。 彼はその圧倒的な情報力を武器に、同じく不遇なスキルを持つ仲間たちの才能を見出し、不可能と言われたダンジョンを次々と制覇していく。知略と分析で全てを先読みし、完璧な指示で仲間を導く『指揮官』の成り上がり譚。 一方、彼を失った勇者パーティは迷走を始める……。爽快なダンジョン攻略とカタルシス溢れる英雄譚が、今、始まる!

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~

松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。 異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。 「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。 だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。 牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。 やがて彼は知らされる。 その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。 金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、 戦闘より掃除が多い異世界ライフ。 ──これは、汚れと戦いながら世界を救う、 笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。

無能認定され王宮から追放された俺、実は竜の言葉が話せたのでSSS級最凶竜種に懐かれ、気がついたら【竜人王】になってました。

霞杏檎
ファンタジー
田舎の村から上京して王宮兵士となって1年半…… まだまだ新人だったレイクは自身がスキルもろくに発動できない『無能力者』だと周りから虐げられる日々を送っていた。 そんなある日、『スキルが発動しない無能はこの王宮から出て行け』と自身が働いていたイブニクル王国の王宮から解雇・追放されてしまった。 そして挙げ句の果てには、道中の森でゴブリンに襲われる程の不遇様。 だが、レイクの不運はまだ続く……なんと世界を破壊する力を持つ最強の竜種"破滅古竜"と出会ってしまったのである!! しかし、絶体絶命の状況下で不意に出た言葉がレイクの運命を大きく変えた。 ーーそれは《竜族語》 レイクが竜族語を話せると知った破滅古竜はレイクと友達になりたいと諭され、友達の印としてレイクに自身の持つ魔力とスキルを与える代わりにレイクの心臓を奪ってしまう。 こうしてレイクは"ヴィルヘリア"と名乗り美少女の姿へと変えた破滅古竜の眷属となったが、与えられた膨大なスキルの量に力を使いこなせずにいた。 それを見たヴィルヘリアは格好がつかないと自身が師匠代わりとなり、旅をしながらレイクを鍛え上げること決める。 一方で、破滅古竜の悪知恵に引っかかったイブニクル王国では国存続の危機が迫り始めていた…… これは"無能"と虐げられた主人公レイクと最強竜種ヴィルヘリアの師弟コンビによる竜種を統べ、レイクが『竜人王』になるまでを描いた物語である。 ※30話程で完結します。

処理中です...