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ぼっちと幼女
幼女と買い物③
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思っていた以上の金額が手に入ったので、少しぐらいなら贅沢しても問題なさそうだ。
今まで森で自炊していた分、「誰かが作った飯」を金を払って食べるという行為そのものが新鮮に感じる。
「にーに! ここおいしそう!」
シロが鼻先をひくひくさせながら、ある店の前でぴたりと足を止めた。
「ああ、確かにいい匂いするな」
鼻腔をくすぐるのは、肉を焼く香ばしい匂いと、スープのような出汁の匂い、油と香草が混ざった食欲をそそる香り。
「ここに……しよ……?」
ミドリも、シロの袖をつまみながら、少し恥ずかしそうに小さく提案してくる。
目の前の店は、いかにも「街の食堂」といった趣だ。
高級店のようなギラギラした外装ではなく、木の扉と、控えめな看板、少し煤けた窓。
通りから中のざわめきが漏れ聞こえ、人の出入りも多い。
2人がここがいいと言っているので、俺も異論はない。ここにしよう。
扉の取っ手に手をかけ、引いて中へ入る。
「いらっしゃい! 好きな席に座りな!」
中から、よく通る大きな声が飛んできた。
声の主をちらりと見ると、腕まくりをした元気な女将らしき人が、厨房と客席を行ったり来たりしている。
ざっと見回したところ、四人がけのテーブルがひとつ空いていたので、そこに向かう。
椅子を引き、シロとミドリを俺の正面に座らせる。
「見ない顔だね。旅人かい?」
さっきの女将が、水の入ったコップを三つ持ってテーブルまでやってきた。
「そんな感じだ、オススメを頼む」
メニューらしき板は、見事に読めない文字で埋め尽くされている。
なんとなく意味は分かるが食材の名前を正確に知らないから、ここはプロに任せるのが一番だろう。
「あいよ! 予算はあるかい?」
「金はある。気にしなくて構わない」
「任せな!」
女将はニッと笑うと、くるりと踵を返して厨房に戻っていった。
さて、注文も済んだし、あとは飯が来るのを待つだけ――と、正面を見ると、さっきまで座っていたはずの2人がいない。
「……どこいった?」
首を左右に振って辺りを見回していると、ふくらはぎのあたりに何かがこつん、と当たった。
テーブルの下に気配を感じる。
「んしょ……!」
「よいしょー!」
テーブルクロスの隙間から、小さな頭が二つ飛び出した。
2人してテーブルの下を通り抜け、当然のような顔で俺の膝の上に収まる。
「食べにくいから自分の席に戻ってくれ」
「やだ!」
「ここでたべる……」
即答で拒否された。
はぁ……とため息が出る。
これ以上説得しても、頑固さ的に聞きそうにないので、仕方ないと割り切って諦めることにした。
膝の上はもう2人の定位置になりつつある。
仕返しがてら、2人の頬を指でむにっと掴んで、口の形を『3』みたいに変形させて遊んでいると、タイミングよく女将さんが料理を運んできた。
「お待ちっ! って、ずいぶんとコンパクトに座ってるねぇ……」
「申し訳ない」
女将が目を丸くするが、すぐにふっと笑って肩をすくめる。
「まあ、構わないよ! この2つはお子様の。こっちは兄ちゃんのだね!」
テーブルに置かれた皿から、立ち上る湯気と香りが一気に襲いかかってくる。
「おにく!」
「おいしそう……」
シロの目が肉に釘付けになり、ミドリは自分の皿と俺の皿を交互に見比べながら、小さく感嘆の息を漏らす。
……おい、シロ。
その肉は俺のやつだからな?
こっちをチラチラ見ながら、自分の陣地に皿ごと引き込もうとしているが、ダメだからな?
「ダメだぞ」
「けちー!」
伸びてきたシロの手をペシっと軽く叩く。
それでも、肉に突き刺さったフォークだけは頑なに離そうとしない。執念深い。
2人の料理も、見た目からして普通に美味しそうだ。
形的にはオムライスに近い。
ただ、乗っている卵の色が、見慣れた黄色ではなく、鮮やかな赤色だ。初めて見る色合いだが、香りは良い。
「チャンス……!」
「おいっ!」
シロを注意しているその一瞬の隙を突いて、ミドリが自分のフォークで俺の皿の肉をひょいっと奪い去る。
こいつ……はなから狙ってやがったな。
虎視眈々という言葉が、これほど似合う幼女も珍しい。
「えいっ!」
「あーもう……」
ミドリの動きに気を取られていると、その間にシロがフォークごと肉を引き寄せ、そのまま自分の口に放り込んだ。
皿の上にあった肉は四切れだったので、気付けば残り二切れしかなくなってしまった。
「おいしい!」
「おいしかった……!」
「はぁ……満足そうで何よりだ」
きらきらと目を輝かせて感想を述べる2人を見ていると、文句を言う気も失せてくる。
まあ、喜んでくれているなら、それでいいか……と、自分を納得させる。
残った肉をさっさと口に運び、野菜に手を伸ばす。
シャキッとした食感と程よい塩気。うん、美味い。
シロとミドリが、またじーっと俺の皿を覗き込んでくるので、追加で奪われる前に、肉は急いで片付けてしまう。
2人は残念そうに唇を尖らせるが、お前ら……これは俺のだからな?
そうこうしているうちに、2人の皿もきれいに空になっていた。
「女将さん、いくらだ?」
皿を寄せて、カウンターに声をかける。
「銀貨2枚だね」
「これで足りるか?」
懐から、ついさっき手に入れた白金貨を一枚出す。
女将さんが目をカッっと見開き、まるで化け物でも見たかのような顔でこっちを見る。
「多すぎだよ!! そんなに釣りがあると思ってんのかい!?」
「マジか……これしか持ってないしなぁ…」
どうやら高すぎて、お釣りが支払えないらしい。
銀貨どころか、金貨の手持ちもないのだろう。
困ったな……どうするか……と顎に手を当てて考え込んでいると、店の扉が勢いよく引かれて開いた。
「おーい! ルシア! 聞いてくれよ! ガイトのジジイが失禁して気絶してるぞ!?」
外から、聞き覚えのある元気な声が飛び込んでくる。
入ってきたのは、妙に顔がツヤツヤしている赤髪の美人――さっきの紅蓮だ。
肩には相変わらず巨大な大剣。水を得た魚のように生き生きしている。
「ルナ! ここは食事するところだよ! 汚い話は外でしてな!!」
目の前の女将――どうやらルシアというらしい――が、カウンター越しにびしっと注意する。
「すまんすまん」と赤髪が小さく謝り、店内を見回したところで、こちらに気づいた。
「おや!? 素材を売ってくれた少年じゃないか? ここで飯を食ってたのか?」
「そうだ。丁度いい。貰った金が高すぎて払えない。両替してくれ」
「あっはっはっ! それはすまないことをした! ここは私が払っておくよ!」
「感謝する」
「少しいったところに財産組合があるから、そこで両替してくるといいぞ!」
ルナ――紅蓮が軽く肩を叩きながらそう教えてくれたので、支払いを任せて店を出ることにする。
シロが当然のような顔で肩車をねだってきたので肩に乗せ、ミドリは腕の中に抱き上げて街道を歩く。
しばらく歩くと、周囲の店とは雰囲気の違う、何だか厳格そうな建物が目に入った。
壁は厚い石造りで、窓も少なく、入り口は重厚な扉。
魔力を解析してみると、迎撃系の魔法陣が多量に設置してあるので、ここで間違い無いだろう。
扉を横にスライドさせて中に入る。
「いらっしゃいませ。冒険者の方ですか?」
きちんとした身なりの職員らしき男が、カウンター越しに丁寧に頭を下げた。
「冒険者登録しようとしたがまだしてない。旅人って感じだな」
「失礼いたしました。本日のご用件をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「両替をしたい」
そう言って、白金貨を三枚ほど取り出し、カウンターにそっと置く。
要件を聞いていた男の目が、わずかに見開かれる。
顔色が一瞬で変わり、喉がごくりと鳴るのが見て取れた。
「少々お待ちください……!」
パタパタと駆け足で奥の部屋に消えていく。
何だかデジャブだな。さっきも似たような光景を見た気がする。
三分くらいで戻ってきて、こちらに向き直る。
「お待たせしました……! 額が額なのでこちらでお渡しします」
「わかった」
先ほど入っていった扉とは別の扉を指し示し、そちらへ案内される。
中に入ると、少し豪華な机と椅子が置かれた部屋に、男性が一人、ゆったりと座っていた。
「好きに座って貰って構わないぞ」
「ああ」
促されるままに椅子に腰を下ろす。シロは肩の上であくびをし、ミドリは抱かれたまま、ぼんやり部屋を見回していた。
「支部長のステインだ。少しばかり時間を頂きたい」
「いいよ!」
シロが元気よく先に答えたので、ステインが少し驚いたように目を丸くする。
「フフッ……ありがたい。では早速だが、両替の目的を聞きたい」
「普通に買い物がしたい」
「なるほど、嘘偽りはないようだ。全て金貨に替えるので構わないか?」
「構わない」
ステインが合図をすると、部屋の隅に控えていた職員が袋を三つ運んできて、机の上に並べた。
中身はずしりと重く、袋越しでも金属同士が触れ合う音がする。
メッキではなく、どうやら純金で作られた貨幣らしい。
さすが異世界。財の感覚が日本だった頃と桁違いだ。
「白金貨三枚だから金貨三百枚だ。こちらで確認してあるとは言え、確認してほしい」
「めんどくさいからそちらの仕事を信頼したということで確認しない」
荷物が入っている亜空間を開き、その中に金貨の袋をまとめて投げ入れる。
ついでに白金貨も同じ場所へ収納しておいた。
「それはありがたい。今後ともよろしく頼むよ」
「今後があるか分からないが覚えておこう」
支部長らしく、最後まで丁寧な物腰だ。
こちらとしても、金を扱う場所とは友好的でありたい。
目的のもの――細かい金が手に入ったので、急ぎ足で外へ向かう。
急いでいる理由としては、暇を持て余したミドリがウトウトし始めたことと、
シロが俺の髪を引っ張って遊び始めたからだ。
寝るのは構わない。むしろ可愛い。
だが、髪で遊ぶのはやめてほしい。
段々と引っ張る力が強くなってきているので、頭をぐいっと動かして、シロのお腹に額を押し当てるようにぐりぐりと押す。
「ふへへへ……」
今度は俺の頭を両手で抱えて、シロがニヤニヤし始めた。よく分からんテンションだ。
ミドリも真似して、俺の胸に頭をぐりぐりと押し付けながらニヤけている。
一体どうしたんだ…?
何かツボに入ったらしい。
まあ、放置しておいても問題はなさそうなので、どこに行くか考えることにしよう。
まずは調味料だな。
塩以外の調味料を一通り揃えたい。できればバターも欲しい。
食料が売ってそうな通り――市場のような場所――を探して、街の中をぶらぶらと歩くとしよう。
今まで森で自炊していた分、「誰かが作った飯」を金を払って食べるという行為そのものが新鮮に感じる。
「にーに! ここおいしそう!」
シロが鼻先をひくひくさせながら、ある店の前でぴたりと足を止めた。
「ああ、確かにいい匂いするな」
鼻腔をくすぐるのは、肉を焼く香ばしい匂いと、スープのような出汁の匂い、油と香草が混ざった食欲をそそる香り。
「ここに……しよ……?」
ミドリも、シロの袖をつまみながら、少し恥ずかしそうに小さく提案してくる。
目の前の店は、いかにも「街の食堂」といった趣だ。
高級店のようなギラギラした外装ではなく、木の扉と、控えめな看板、少し煤けた窓。
通りから中のざわめきが漏れ聞こえ、人の出入りも多い。
2人がここがいいと言っているので、俺も異論はない。ここにしよう。
扉の取っ手に手をかけ、引いて中へ入る。
「いらっしゃい! 好きな席に座りな!」
中から、よく通る大きな声が飛んできた。
声の主をちらりと見ると、腕まくりをした元気な女将らしき人が、厨房と客席を行ったり来たりしている。
ざっと見回したところ、四人がけのテーブルがひとつ空いていたので、そこに向かう。
椅子を引き、シロとミドリを俺の正面に座らせる。
「見ない顔だね。旅人かい?」
さっきの女将が、水の入ったコップを三つ持ってテーブルまでやってきた。
「そんな感じだ、オススメを頼む」
メニューらしき板は、見事に読めない文字で埋め尽くされている。
なんとなく意味は分かるが食材の名前を正確に知らないから、ここはプロに任せるのが一番だろう。
「あいよ! 予算はあるかい?」
「金はある。気にしなくて構わない」
「任せな!」
女将はニッと笑うと、くるりと踵を返して厨房に戻っていった。
さて、注文も済んだし、あとは飯が来るのを待つだけ――と、正面を見ると、さっきまで座っていたはずの2人がいない。
「……どこいった?」
首を左右に振って辺りを見回していると、ふくらはぎのあたりに何かがこつん、と当たった。
テーブルの下に気配を感じる。
「んしょ……!」
「よいしょー!」
テーブルクロスの隙間から、小さな頭が二つ飛び出した。
2人してテーブルの下を通り抜け、当然のような顔で俺の膝の上に収まる。
「食べにくいから自分の席に戻ってくれ」
「やだ!」
「ここでたべる……」
即答で拒否された。
はぁ……とため息が出る。
これ以上説得しても、頑固さ的に聞きそうにないので、仕方ないと割り切って諦めることにした。
膝の上はもう2人の定位置になりつつある。
仕返しがてら、2人の頬を指でむにっと掴んで、口の形を『3』みたいに変形させて遊んでいると、タイミングよく女将さんが料理を運んできた。
「お待ちっ! って、ずいぶんとコンパクトに座ってるねぇ……」
「申し訳ない」
女将が目を丸くするが、すぐにふっと笑って肩をすくめる。
「まあ、構わないよ! この2つはお子様の。こっちは兄ちゃんのだね!」
テーブルに置かれた皿から、立ち上る湯気と香りが一気に襲いかかってくる。
「おにく!」
「おいしそう……」
シロの目が肉に釘付けになり、ミドリは自分の皿と俺の皿を交互に見比べながら、小さく感嘆の息を漏らす。
……おい、シロ。
その肉は俺のやつだからな?
こっちをチラチラ見ながら、自分の陣地に皿ごと引き込もうとしているが、ダメだからな?
「ダメだぞ」
「けちー!」
伸びてきたシロの手をペシっと軽く叩く。
それでも、肉に突き刺さったフォークだけは頑なに離そうとしない。執念深い。
2人の料理も、見た目からして普通に美味しそうだ。
形的にはオムライスに近い。
ただ、乗っている卵の色が、見慣れた黄色ではなく、鮮やかな赤色だ。初めて見る色合いだが、香りは良い。
「チャンス……!」
「おいっ!」
シロを注意しているその一瞬の隙を突いて、ミドリが自分のフォークで俺の皿の肉をひょいっと奪い去る。
こいつ……はなから狙ってやがったな。
虎視眈々という言葉が、これほど似合う幼女も珍しい。
「えいっ!」
「あーもう……」
ミドリの動きに気を取られていると、その間にシロがフォークごと肉を引き寄せ、そのまま自分の口に放り込んだ。
皿の上にあった肉は四切れだったので、気付けば残り二切れしかなくなってしまった。
「おいしい!」
「おいしかった……!」
「はぁ……満足そうで何よりだ」
きらきらと目を輝かせて感想を述べる2人を見ていると、文句を言う気も失せてくる。
まあ、喜んでくれているなら、それでいいか……と、自分を納得させる。
残った肉をさっさと口に運び、野菜に手を伸ばす。
シャキッとした食感と程よい塩気。うん、美味い。
シロとミドリが、またじーっと俺の皿を覗き込んでくるので、追加で奪われる前に、肉は急いで片付けてしまう。
2人は残念そうに唇を尖らせるが、お前ら……これは俺のだからな?
そうこうしているうちに、2人の皿もきれいに空になっていた。
「女将さん、いくらだ?」
皿を寄せて、カウンターに声をかける。
「銀貨2枚だね」
「これで足りるか?」
懐から、ついさっき手に入れた白金貨を一枚出す。
女将さんが目をカッっと見開き、まるで化け物でも見たかのような顔でこっちを見る。
「多すぎだよ!! そんなに釣りがあると思ってんのかい!?」
「マジか……これしか持ってないしなぁ…」
どうやら高すぎて、お釣りが支払えないらしい。
銀貨どころか、金貨の手持ちもないのだろう。
困ったな……どうするか……と顎に手を当てて考え込んでいると、店の扉が勢いよく引かれて開いた。
「おーい! ルシア! 聞いてくれよ! ガイトのジジイが失禁して気絶してるぞ!?」
外から、聞き覚えのある元気な声が飛び込んでくる。
入ってきたのは、妙に顔がツヤツヤしている赤髪の美人――さっきの紅蓮だ。
肩には相変わらず巨大な大剣。水を得た魚のように生き生きしている。
「ルナ! ここは食事するところだよ! 汚い話は外でしてな!!」
目の前の女将――どうやらルシアというらしい――が、カウンター越しにびしっと注意する。
「すまんすまん」と赤髪が小さく謝り、店内を見回したところで、こちらに気づいた。
「おや!? 素材を売ってくれた少年じゃないか? ここで飯を食ってたのか?」
「そうだ。丁度いい。貰った金が高すぎて払えない。両替してくれ」
「あっはっはっ! それはすまないことをした! ここは私が払っておくよ!」
「感謝する」
「少しいったところに財産組合があるから、そこで両替してくるといいぞ!」
ルナ――紅蓮が軽く肩を叩きながらそう教えてくれたので、支払いを任せて店を出ることにする。
シロが当然のような顔で肩車をねだってきたので肩に乗せ、ミドリは腕の中に抱き上げて街道を歩く。
しばらく歩くと、周囲の店とは雰囲気の違う、何だか厳格そうな建物が目に入った。
壁は厚い石造りで、窓も少なく、入り口は重厚な扉。
魔力を解析してみると、迎撃系の魔法陣が多量に設置してあるので、ここで間違い無いだろう。
扉を横にスライドさせて中に入る。
「いらっしゃいませ。冒険者の方ですか?」
きちんとした身なりの職員らしき男が、カウンター越しに丁寧に頭を下げた。
「冒険者登録しようとしたがまだしてない。旅人って感じだな」
「失礼いたしました。本日のご用件をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「両替をしたい」
そう言って、白金貨を三枚ほど取り出し、カウンターにそっと置く。
要件を聞いていた男の目が、わずかに見開かれる。
顔色が一瞬で変わり、喉がごくりと鳴るのが見て取れた。
「少々お待ちください……!」
パタパタと駆け足で奥の部屋に消えていく。
何だかデジャブだな。さっきも似たような光景を見た気がする。
三分くらいで戻ってきて、こちらに向き直る。
「お待たせしました……! 額が額なのでこちらでお渡しします」
「わかった」
先ほど入っていった扉とは別の扉を指し示し、そちらへ案内される。
中に入ると、少し豪華な机と椅子が置かれた部屋に、男性が一人、ゆったりと座っていた。
「好きに座って貰って構わないぞ」
「ああ」
促されるままに椅子に腰を下ろす。シロは肩の上であくびをし、ミドリは抱かれたまま、ぼんやり部屋を見回していた。
「支部長のステインだ。少しばかり時間を頂きたい」
「いいよ!」
シロが元気よく先に答えたので、ステインが少し驚いたように目を丸くする。
「フフッ……ありがたい。では早速だが、両替の目的を聞きたい」
「普通に買い物がしたい」
「なるほど、嘘偽りはないようだ。全て金貨に替えるので構わないか?」
「構わない」
ステインが合図をすると、部屋の隅に控えていた職員が袋を三つ運んできて、机の上に並べた。
中身はずしりと重く、袋越しでも金属同士が触れ合う音がする。
メッキではなく、どうやら純金で作られた貨幣らしい。
さすが異世界。財の感覚が日本だった頃と桁違いだ。
「白金貨三枚だから金貨三百枚だ。こちらで確認してあるとは言え、確認してほしい」
「めんどくさいからそちらの仕事を信頼したということで確認しない」
荷物が入っている亜空間を開き、その中に金貨の袋をまとめて投げ入れる。
ついでに白金貨も同じ場所へ収納しておいた。
「それはありがたい。今後ともよろしく頼むよ」
「今後があるか分からないが覚えておこう」
支部長らしく、最後まで丁寧な物腰だ。
こちらとしても、金を扱う場所とは友好的でありたい。
目的のもの――細かい金が手に入ったので、急ぎ足で外へ向かう。
急いでいる理由としては、暇を持て余したミドリがウトウトし始めたことと、
シロが俺の髪を引っ張って遊び始めたからだ。
寝るのは構わない。むしろ可愛い。
だが、髪で遊ぶのはやめてほしい。
段々と引っ張る力が強くなってきているので、頭をぐいっと動かして、シロのお腹に額を押し当てるようにぐりぐりと押す。
「ふへへへ……」
今度は俺の頭を両手で抱えて、シロがニヤニヤし始めた。よく分からんテンションだ。
ミドリも真似して、俺の胸に頭をぐりぐりと押し付けながらニヤけている。
一体どうしたんだ…?
何かツボに入ったらしい。
まあ、放置しておいても問題はなさそうなので、どこに行くか考えることにしよう。
まずは調味料だな。
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