異世界でぼっち生活をしてたら幼女×2を拾ったので養うことにした【改稿版】

きたーの(旧名:せんせい)

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ぼっちと幼女

幼女と買い物②

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 脇に抱えていたシロとミドリを椅子に座らせていると、奥の扉がバンッと開き、さっきの受付嬢が戻ってきた。
 その隣には、立派なヒゲを蓄えた、いかにも「歴戦の猛者です」と言いたげな風貌の男性がついてきている。

 肩幅は広く、筋肉で服が張っている。顔には年季の入った傷跡。
 ぱっと見、年配のベテラン戦士――という感じだ。

「自分じゃ対応できないとメル君に言われて来てみたら若造じゃないか」

 開口一番、それか。

「人を見かけで判断すると後悔するぞ、おっさん」

 思わず口が勝手に動いた。
 多分、おっさんの五百倍くらいは生きてるからな? 見た目は若造でも中身はベテランもいいところだ。

 ふと視線を戻すと、さっきまで椅子に座らせていたはずのシロとミドリが、いつの間にか俺の膝の上に座っている。

 いつ移動したんだ? 膝の上に乗るの、もはや当たり前になってないか?

「ご忠告感謝しよう。さて、この素材だが何処で手に入れた?」

 ギルドマスターらしきヒゲ男が、テーブルの上に散らばった素材を見渡しながら問いかけてくる。

「何処って……普通に倒しただけだが?」

「くまさんおいしかった!」

 シロが食い気優先で元気よく補足する。

 男は「ふむ……」と低く唸り、眉間に深い皺を刻んで考え込んでいるようだった。
 しばし沈黙したあと、重々しく口を開く。

「もし、それが本当なら国に報告しないといけない」

「理由を聞かせてもらおう」

「この爪が本物なら国が滅びる危険性があるからだ」

 ごめん、理解が追いつかない。

 あの熊ごときで国が滅びるとか、大げさすぎるだろ。

「聞いた特徴に関しては『カイザーグリズリー』そのものだ。しかも大人のな」

 あの熊、そんな仰々しい名前だったのか。
 少しかっこいいじゃないか、カイザー。

「昔その子供が前線都市の生活圏に侵入した時があった。その時でさえ、この前線都市は半壊。ここにいる人間も二割は死んだ」

「それで倒せたのか?」

「もう二百年も前の話だがな。勇者様が駆けつけてくれたよ。それがなければここは滅んでた」

 やはり、まだ勇者の存在はあるのか。
 クラスごと召喚された連中も、似たような扱いを受けてるんだろうか。

「子供でもそのレベルだ。大人の『カイザーグリズリー』の爪だと? 冗談じゃない。アレは人間の手に負えるものじゃない」

「くまさんつよかった……?」

「そうみたいだ」

「ほへー!」

 シロの反応は、いつもどおりのんきだ。

 あの熊がそこまで強かったら、あれ以上に強いのが来たら世界滅亡だな。
 ……別に俺には関係ないが。

「それを若造が狩れるとでも? 冗談も大概にして欲しいものだ。大方落ちていたのを拾っただけだろう」

 おっさんが、じろりと俺を睨みながら吐き捨てるように言った。

「ガイトのおっさん、それマジで言ってんのか?」

 不意に、別の声が割り込んできた。
 なんか増えたぞ。

 振り向くと、背中ぐらいまである赤い髪をポニーテールにした、グラマラスな女戦士が立っていた。
 褐色肌にビキニアーマー、背中には床に着きそうな長さの大剣を背負っている。

 その大剣、随分と太いな……俺の腰幅ぐらいあるぞ……?
 あれを振り回せる腕力があるなら、確かに強そうだ。

 何か言い争いが始まりそうな雰囲気なので、とりあえず俺は、膝の上のシロとミドリの頬を指でつついて遊んでいよう。
 柔らかい。癒やし。

「何をだ? 『紅蓮』」

 ヒゲのおっさん――ガイトと呼ばれた男が、赤髪の女戦士を睨み返す。

「コイツから何も感じないってことだ」

「ここで冗談を言う必要もなかろう」

「だとしたら耄碌したな、引退してギルドマスターになって正解だ」

 言い争いをしている二人の間に、バチバチと見えない火花が散る。

 その横で、頬を突かれていたシロとミドリが、にへぇーと笑い、仕返しと言わんばかりに今度は俺の頬を両側から掴んできた。

 倍返しかコヤツら。

「この若造が爪を拾って来たなら、元の大人がまだ近辺にいるはずだ。国に報告しなければならない」

「耄碌したジジイには倒したって線は浮かばないんだな、私にはコイツの強さがヤバイほど伝わってくるぞ」

 強さの認識って、一定ラインを超えると感じなくなるんだよな。

 と、なると、この姉ちゃんはおっさんより強いってことか……?
 だとしたら、少なくとも人間の中ではトップクラスの部類だろう。

「おい、少年」

「ん? 俺か?」

「そうだ。この爪、何処で手に入れた?」

「森の中だ」

 間違ってはない。
 ……ってか、あの森、アホみたいに広いんだな。

 半径二千キロってやばいだろ。地図で見たら笑えない規模だ。

「少年、家は何処にある?」

「もりのなか!」

 先に答えたのはミドリではなく、シロだった。

「ん? お嬢ちゃんが答えてくれるのか。どっちの方向の森だい?」

「あっち!」

 シロが来た方向――俺たちが飛んできた方角の森を、迷いなく指差す。

 方向が分かるのか。偉いぞ、シロ。

 答えたお礼に、シロの頭をわしゃわしゃと撫で回す。

「えへへー」

 ミドリが羨ましそうな顔でこっちを見ているので、ついでにミドリの頭も撫でておこう。
 2人セットで撫でるのが最近のルールになりつつある。

「『魔の森』の住人か…」

 赤髪の女戦士が、ぽつりと呟いた。

「バカな! あそこに人族は住めないはずだ!」

 ガイトが、机を叩きそうな勢いで声を荒げる。

「でもこの尋常じゃない魔力の濃度を見ると、それしか考えられない」

 ん? 少し魔力が漏れてるか?

 量が多すぎて、完全に抑え込むのは正直キツイんだよな。
 意図的に抑え込んで、外に漏れる分をもっと減らしてみるとするか。

「にーに……なんかくるしい」

「ぼくも……」

 なんだと……?

 この街に入ってから索敵は怠ってないし、2人には魔法反射と物理無効の魔法をかけている。
 何かしらの攻撃ではないな。

 まさか……魔力欠乏か?

 森と比べたら、この街の空気中の魔力濃度は非常に薄い。
 俺の近くにいたから、シロとミドリは今まで魔力欠乏にならずに済んでいたのか?

 魔力なら余っているし、使い道に困っているくらいだ。
 2人を包むように、薄い膜状に魔力で覆ってみるか。

「らくになった! にーにのにおい!」

「いいにおい……」

「やっぱりそうか、良かった」

 抱え直した2人が、安心したように胸元に顔を埋める。

 ふと周りを見ると、いつの間にか俺を囲むように武器を構えた冒険者たちが取り囲んでいた。

 はて、何かしただろうか?

「少年……その魔力は何だ……?」

「あ? ここの魔力が薄くて2人が苦しいって言ったから応急処置だ。何か問題があったのか?」

「敵意は?」

「ない。素材の買い取りはまだか?」

 そう、ここに来てから一時間くらい経つが、素材の買い取りが全然終わらないのだ。
 そこが一番の問題だと思う。マジで。

「あっはっは! これだけの殺意を向けられて眉ひとつ動かさないか! 想定以上の強さだ!」

 赤髪の女戦士――さっき「紅蓮」と呼ばれていた女が、楽しそうに笑う。

「死の危険を感じない殺意なんて警戒するだけ無駄だろ」

「若造がそうでも、その2人はどうだろうか?」

 その瞬間、体が反射的に臨戦態勢に入った。

 滲み出る魔力に呼応して、髪が逆立つ。
 空気が揺れ、ギルドの空間が一気に張り詰める。

「今なんて言った?」

 氷点下まで冷えたような自分の声が、やけにクリアに耳に届く。

 おっさんが口をパクパクとさせている。
 この程度の殺気で声も出なくなるのか。雑魚め。

「こちらの非礼は詫びよう。どうかその魔力と殺気を収めてくれないだろうか」

 紅蓮が、一歩前に出て、真剣な目でこちらを見据えた。

「この2人に手を出したらこの街を消す。覚えておけ」

 短く言い捨てて、臨戦態勢を解く。

 シロとミドリは、何事もなかったかのように、未だに俺の頬を突いて遊んでいる。
 そんなに楽しいのか、その遊び。

「残念だがジジイが気絶してしまったから素材の買い取りはできない」

「は?」

「ギルドでは…ってことだ。私が個人的に買うぶんには問題ない」

 なるほど、そういうことか。

 正直な話、金になればどっちでもいい。

「白金貨10枚でどうだ?」

「物価を知らん」

「一般的な家庭なら10年は遊んで暮らせる」

「売った」

 よしっ! 金だ!

 相場を知らないので買い叩かれてても別にいい。
 どうせ森に戻れば素材はいくらでも補充できる。

「じゃあ爪はもらってくね」

「ん? 全部で白金貨10じゃないのか?」

「はっ?」

 紅蓮が、口を開けたまま固まった。

 なるほど、「開いた口が塞がらない」というのはこういうことか。

「この素材って…もしかして全部『魔の森』の魔物のか?」

「そうだ。その羽はクソみたいに規模のでかい魔法を使う鳥の羽だ」

「『死鳳凰』…!?」

 紅蓮が、震える声でそう呟いた直後――その場にぐらりと崩れ落ち、気絶してしまった。

 ここの人間は、よく気絶するな。

 まあいいや。
 金はもらったので、街に繰り出すとしよう。

「おかいもの…?」

「ああ、やっとだ」

「おなかへった!」

 まずは腹ごしらえからだな。

 美味しそうな匂いのする店を探して、入るとしよう。
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