レム睡眠で待ってて

あおと

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いい天気だ。
今の季節は夏真っ盛り。違和感を感じさせるほど真っ青な空に、作り物のような入道雲が浮かんでいる。もし今カメラを持っていたなら、この空を写真に収めて夏の思い出の一コマとして残しておきたいくらいだ。

僕の名前は羅村吉平。上から読んでも下から読んでもラムラです、というのは僕の持ちネタである。どうでもいいか。
行き先は近くのスーパー。近いので歩きで問題ない。今はバイト先の休憩時間なので昼ご飯を買いに来た次第。このバイト先というのが回転寿司店で、飲食店なので賄いは出るのだが…如何せん酢飯が飽きてしまい、いつもスーパーで買い物をして済ませているのだ。

それにしても暑いな。スーパーまでのそう長くない道のりを歩くだけでも汗ばんでくるほどだ。スーパーの入り口まで来ると、僕は早足で入店した。クーラーで冷やされた店内は天国だ。必然的に長時間買い物をしてしまいそうになるが、休憩時間は短いから、長居はできない。手早く済まさなくては。

いつも通り、カップラーメンとおにぎりにすることにした。おっと、野菜ジュースも忘れてはいけない。僕はこう見えて健康に気をつけているのだ。野菜ジュースだけでは栄養的には不十分らしいが、飲まないよりはましだろう。
いつも飲んでいる野菜ジュースをカゴに入れ終わった時、隣にいた中年女性と目が合った。
んん?見たことがある人だ。どこで会った人だったか。頭の中で考えを張り巡らせていると、
矢坂寿司やさかずしのお兄さんでしょ」
と言ってきた。矢坂寿司は僕の勤務先だが、お客さんだったのか。そういえば、数日前に来ていたお客さんだ。思い出した。
「あっ、こりゃ珍しいところで」
咄嗟に声を出すと変な口調になってしまうのが僕の弱点である。
「お買い物?」
「そうなんですよ。今は休憩中でしてね。昼ご飯を買いに来たところで」
「そうなの」
「うん、賄いは出るんすけどね、どうにも酢飯が飽きちゃって」
などと他愛ない話をしていた時、奥からスラリと長身の女性が近づいて来た。
沢田さわださん。お知り合い?」
「あ、留美るみちゃん。ほら、矢坂の店員さんよ」
あっ!あの美人な連れだ!このメチャ可愛いんだよな。ルミちゃんというのか。彼女は僕に気付き、笑顔で声をかけてきた。
「あー、こんにちは!」
「こんにちゃわ…2人でお買い物ですか」
「そうなんですよー」
改めて見てすごい美人。歳は僕とそう変わらないとは思うが少し上だろうか。右手に持ったカゴにはフルーツやヨーグルト、お酒などが入っていた。
沢田さんと呼ばれた女性が口を開いた。
「私達そこの洋服店の店員やってるんだけどね、この時間はお昼休みなの。この子によく買い物付き合ってもらってるんですよ」
「喜んでお付き合いさせてもらってま~す」
「へぇ、あそこの洋服店」
「ランチはいつも他の店でしてたんだけどね。矢坂寿司に一回行ってみたらお昼のランチは結構お値打ちじゃない?これだったらたまに来てもいいわね、なんて話してたのよ。彼女とね」
「そうなんですか。ありがとうございます」
「だからまた近いうち、寄らせてもらうからよろしくお願いね、えーと」
「ごめんなさい、何さんでしたっけ?」
ルミちゃんが困った顔で聞いてきた。
「あっ…僕? 羅村吉平と申します」
「羅村さん! 素敵なお名前で。よろしくお願いしますね」
「私は沢田真樹まきです。この子は」
宮田みやた留美です! よろしくお願いします」
「よろしくお願いします!」
沢田さんはうんうんと頷くと、
「それじゃあまた今度」
「どうもどうも。お待ちしてます」
「羅村さん、また今度!」
「宮田さん、また!」
そうして2人はレジの方へと歩いていった。

それにしても一回来てくれただけで顔を覚えてくれるものか。2人共いい人そうだし。近いうちに来てくれるとか言ってた?うわ、楽しみだ!
宮田留美さん。やっぱり可愛いな。まさか話せるとは思ってなかった。女の子に縁の無い僕はすっかり舞い上がってしまった。名前を聞けたことが嬉しくなり小さくガッツポーズをする。カゴの中の野菜ジュースが倒れた。


その日の夜。遅い夕食を済まし、僕はベッドに腰掛けた。明日のバイトは9時半からか。7時半に目覚ましをセットしておこう。現在時刻午後11時半。今日も遅くなった。早く寝よう。
それにしても日が落ちてもこの暑さか。こりゃあ今夜も熱帯夜だな。僕の部屋にはクーラーが無いので扇風機を一番強いのにして回した。窓も全開にして、これで何とか眠れそうだ。


どうか今夜は変な夢を見ませんように。僕は目を閉じた。





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