不要とされた私が、拾われた先で人生を立て直すまで

藤原遊

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第3話 人を付けるという判断

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屋敷の扉が閉まると、外の気配が遠のいた。

石造りの壁は厚く、音を吸い込む。
広間には、人の気配がほとんど残っていない。

足元に目を落とすと、床には薄く埃が積もっていた。
掃除をされた形跡はない。
それでも、荒れ果てているというほどではなく、
ただ――長く使われていなかった、という印象だった。

ラグナは無言のまま、広間を歩く。

壁際に置かれた家具。
窓の位置。
出入口の数。

一つ一つを確認するように視線を巡らせ、
最後に私の方を見た。

「今日は、こちらに入られますか」

問い方は丁寧だったが、
そこに感情はほとんど含まれていない。

「はい。
まずは、ここを拠点にしようと思います」

そう答えると、
ラグナは小さく頷いた。

「承知しました」

それだけ言って、踵を返す。

――と思ったところで、足を止めた。

「ロイ」

呼ばれて、入口近くに控えていた青年が前に出る。
背筋を伸ばし、自然と視線を落とすその動きは、
この土地で身についたものなのだろう。

「はい」

「しばらく、こちらに来なさい」

短い指示だった。

ロイは一瞬だけ間を置き、
それから静かに頷く。

「承知しました」

ラグナは、今度は私の方を向く。

「この屋敷は、長く使われていません。
不便な点も多いでしょう」

言葉を選んでいる様子が、わずかに見て取れた。

「人を一人、付けます」

それ以上の説明はない。

「ありがとうございます」

私がそう答えると、
ラグナはそれで話は終わりだと判断したようだった。

ロイが一歩前に出て、深く頭を下げる。

「ロイと申します。
何かありましたら、お声がけください」

丁寧で、抑えた声音。
距離を保つことを忘れていない。

ラグナはその様子を一度だけ確認し、
今度こそ屋敷を後にした。

扉が閉まる音が、
広間に小さく響く。

残された空間に、
私とロイだけが立っている。

ロイは少し距離を取った位置で立ち止まり、
周囲を見回した。

「……まず、明かりを点けますね」

そう言って、壁際のランプに手を伸ばす。

火が灯り、
広間に淡い光が広がった。

私は、その光の中で、
改めて屋敷を見回す。

ここが、
これから使う場所になる。

そう、静かに思った。
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