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第13話 春を迎える
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雪解けは、一気には進まなかった。
昼に緩み、夜に凍る。
それを何度か繰り返してから、ようやく土が顔を出す。
「……今年は、いつから始めますか」
畑の端で、そんな声が上がった。
冬の間、屋敷に集まっていた顔ぶれだ。
手仕事の場で見慣れた人たちが、今は鍬を手にしている。
「様子を見て、来週からにしましょう」
そう答えると、誰も異論を挟まなかった。
春の畑は、忙しい。
植えるものを決め、区画を分け、種芋や種を揃える。
「今年は、ここにこれを」
私は畑を指し示す。
「……日陰、ですね」
言われて、周囲が少しざわついた。
「日照が弱い場所ですけど」
「ええ。
そこには、寒さに強いものを」
これまでの経験で分かっている。
寒い土地でもしっかり育った作物は、
直射日光が少なくても根を張る。
「日陰だと、あまり育たないと思いますが……」
そう言いながらも、声は強くない。
「構いません。
試しましょう」
それだけで、話は進んだ。
「……まあ、
お貴族様の希望に沿うのも悪くないか」
そんな小声が聞こえる。
不満ではない。
確認に近い。
私は続けて、別の畑を示した。
「麦だけでなく、
芋も植えてください」
「芋ですか」
「はい」
麦は換金できる。
税の対象にもなる。
けれど、それだけでは足りない。
「食べられるものを、
きちんと残したいんです」
その言葉に、何人かが顔を見合わせた。
「税金がないと困りますよ」
そう言ったのは、ラグナだった。
「あなた、お貴族様でしょう?」
からかうような口調だったが、
そこには、もう刺のある響きはなかった。
「困りますね」
私は正直に答える。
「でも、
飢える方がもっと困ります」
一瞬の沈黙。
それから、誰かが小さく笑った。
「……確かに」
「芋、増やすのも悪くないな」
「去年の冬、助かったしな」
そんな声が重なる。
指示ではなく、
相談に近い形で話が進んでいく。
冬を共に越えたことで、
空気が変わっていた。
私は畑を見渡す。
まだ何も植わっていない土。
けれど、もう準備は始まっている。
「では、
この配置で行きましょう」
そう言うと、
皆がそれぞれ動き出した。
鍬が入り、
土が返され、
春の匂いが立ち上る。
今年も、また始まる。
今度は、
一人ではなかった。
昼に緩み、夜に凍る。
それを何度か繰り返してから、ようやく土が顔を出す。
「……今年は、いつから始めますか」
畑の端で、そんな声が上がった。
冬の間、屋敷に集まっていた顔ぶれだ。
手仕事の場で見慣れた人たちが、今は鍬を手にしている。
「様子を見て、来週からにしましょう」
そう答えると、誰も異論を挟まなかった。
春の畑は、忙しい。
植えるものを決め、区画を分け、種芋や種を揃える。
「今年は、ここにこれを」
私は畑を指し示す。
「……日陰、ですね」
言われて、周囲が少しざわついた。
「日照が弱い場所ですけど」
「ええ。
そこには、寒さに強いものを」
これまでの経験で分かっている。
寒い土地でもしっかり育った作物は、
直射日光が少なくても根を張る。
「日陰だと、あまり育たないと思いますが……」
そう言いながらも、声は強くない。
「構いません。
試しましょう」
それだけで、話は進んだ。
「……まあ、
お貴族様の希望に沿うのも悪くないか」
そんな小声が聞こえる。
不満ではない。
確認に近い。
私は続けて、別の畑を示した。
「麦だけでなく、
芋も植えてください」
「芋ですか」
「はい」
麦は換金できる。
税の対象にもなる。
けれど、それだけでは足りない。
「食べられるものを、
きちんと残したいんです」
その言葉に、何人かが顔を見合わせた。
「税金がないと困りますよ」
そう言ったのは、ラグナだった。
「あなた、お貴族様でしょう?」
からかうような口調だったが、
そこには、もう刺のある響きはなかった。
「困りますね」
私は正直に答える。
「でも、
飢える方がもっと困ります」
一瞬の沈黙。
それから、誰かが小さく笑った。
「……確かに」
「芋、増やすのも悪くないな」
「去年の冬、助かったしな」
そんな声が重なる。
指示ではなく、
相談に近い形で話が進んでいく。
冬を共に越えたことで、
空気が変わっていた。
私は畑を見渡す。
まだ何も植わっていない土。
けれど、もう準備は始まっている。
「では、
この配置で行きましょう」
そう言うと、
皆がそれぞれ動き出した。
鍬が入り、
土が返され、
春の匂いが立ち上る。
今年も、また始まる。
今度は、
一人ではなかった。
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