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第15話 春の声
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暖かい日が続くと、屋敷の周りが少し賑やかになった。
畑の様子を見に外へ出ると、
いつの間にか、子どもたちの姿が増えている。
「こら、そっちはまだだぞ」
誰かの声が飛ぶ。
それでも、子どもたちは止まらない。
屋敷の裏手を駆け抜け、
草の間を縫うように走り、
笑い声を残して遠くへ行ってしまう。
「元気ですね」
そう言うと、
近くにいた大人たちが顔を見合わせた。
「春になると、こんなもんです」
「冬の間、ずっと我慢してたから」
言葉の調子は軽い。
けれど、どこか含みがあった。
子どもたちの後ろ姿が小さくなり、
やがて見えなくなる。
その場に残った静けさの中で、
ラグナが一歩、こちらへ近づいてきた。
「……礼を言っておこうと思って」
「何の、ですか」
「冬のことです」
ラグナは少し視線を外し、
屋敷の方を見た。
「屋敷を開けてくれただろう。
手仕事の場として」
私は頷いた。
「あれのおかげで、
今年は子どもが減らなかった」
一瞬、言葉の意味が分からなかった。
「……減らなかった、とは」
「冬を越せないことがあります」
淡々とした声だった。
「寒さもあるし、
食い物もある。
それに、家の中に閉じこもりきりになると、
体を崩すことも多い」
私は、言葉を探した。
貴族の屋敷で育った身には、
冬は「静かな季節」だった。
火は絶えず、
食事は減らず、
子どもが冬を越せないなど、
考えたこともなかった。
「今年は」
ラグナが続ける。
「人が集まる場所があった。
暖があって、
声があって、
子どもが追い出されない場所が」
少し間を置いてから、
短く言った。
「助かりました」
それ以上は、何も付け足さなかった。
遠くで、子どもたちの笑い声が聞こえる。
さっきより、少し高い声だ。
私はその音に耳を澄ませながら、
ゆっくり息を吐いた。
知らなかったことがある。
それだけだ。
そして、
知らずにしていたことで、
失われていたものもあったのだと、
ようやく気づいた。
「……教えてくれて、ありがとうございます」
そう言うと、
ラグナは「いや」と短く返した。
「春ですからね」
それだけで話は終わり、
ラグナは畑の方へ戻っていく。
私は、もう一度、遠くを見る。
走っていた子どもたちは、
いつの間にか引き返してきていた。
春の声は、
思っていたより、ずっと賑やかだった。
畑の様子を見に外へ出ると、
いつの間にか、子どもたちの姿が増えている。
「こら、そっちはまだだぞ」
誰かの声が飛ぶ。
それでも、子どもたちは止まらない。
屋敷の裏手を駆け抜け、
草の間を縫うように走り、
笑い声を残して遠くへ行ってしまう。
「元気ですね」
そう言うと、
近くにいた大人たちが顔を見合わせた。
「春になると、こんなもんです」
「冬の間、ずっと我慢してたから」
言葉の調子は軽い。
けれど、どこか含みがあった。
子どもたちの後ろ姿が小さくなり、
やがて見えなくなる。
その場に残った静けさの中で、
ラグナが一歩、こちらへ近づいてきた。
「……礼を言っておこうと思って」
「何の、ですか」
「冬のことです」
ラグナは少し視線を外し、
屋敷の方を見た。
「屋敷を開けてくれただろう。
手仕事の場として」
私は頷いた。
「あれのおかげで、
今年は子どもが減らなかった」
一瞬、言葉の意味が分からなかった。
「……減らなかった、とは」
「冬を越せないことがあります」
淡々とした声だった。
「寒さもあるし、
食い物もある。
それに、家の中に閉じこもりきりになると、
体を崩すことも多い」
私は、言葉を探した。
貴族の屋敷で育った身には、
冬は「静かな季節」だった。
火は絶えず、
食事は減らず、
子どもが冬を越せないなど、
考えたこともなかった。
「今年は」
ラグナが続ける。
「人が集まる場所があった。
暖があって、
声があって、
子どもが追い出されない場所が」
少し間を置いてから、
短く言った。
「助かりました」
それ以上は、何も付け足さなかった。
遠くで、子どもたちの笑い声が聞こえる。
さっきより、少し高い声だ。
私はその音に耳を澄ませながら、
ゆっくり息を吐いた。
知らなかったことがある。
それだけだ。
そして、
知らずにしていたことで、
失われていたものもあったのだと、
ようやく気づいた。
「……教えてくれて、ありがとうございます」
そう言うと、
ラグナは「いや」と短く返した。
「春ですからね」
それだけで話は終わり、
ラグナは畑の方へ戻っていく。
私は、もう一度、遠くを見る。
走っていた子どもたちは、
いつの間にか引き返してきていた。
春の声は、
思っていたより、ずっと賑やかだった。
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