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第21話 秋の終わり
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秋の終わりは、収穫祭の準備から始まった。
倉の扉が開き、籠が並び、粉にした麦の袋がいくつか前に出される。
派手な飾りはないが、誰が何を持ち、どこに置くかで迷う者はいなかった。
今年は、それだけの余裕がある。
火が入ると、匂いが広がる。
焼いた麦の香ばしさと、芋の甘い湯気が混じり、子どもたちが先に集まってきた。
「もういい?」
「まだだ。火が落ち着いてから」
制する声も、どこか穏やかだ。
止めるためではなく、待たせるための声だった。
水車小屋の方からも人が流れてくる。
挽いた粉で焼いたものは口当たりが軽く、今年の出来をそのまま伝えていた。
「……今年、いいな」
誰かが言い、誰も否定しなかった。
その輪の少し外で、セシリアは様子を見ていた。
騒がしすぎない、けれど沈みもしない。
この土地らしい収穫祭だと思う。
そこへ、道の向こうから人影が現れた。
背負い袋を二つ、肩から下げている。
歩き慣れた足取りで近づく姿に、何人かが先に気づいた。
「行商だ」
男は立ち止まり、軽く手を上げた。
「邪魔するよ。
祭りだって聞いたから」
ラグナが一歩前に出る。
「構わない。
今年は、ちょうどいい」
男は笑い、袋を下ろした。
「助かる。
布と、雑貨が少し。
食い物は……まあ、持ってこれなかったけどな」
そう言いながら、包みを広げる。
染めの入った布、小さな金具、木製の櫛や留め具。
どれも必需品ではないが、あると生活が少し楽になるものだった。
「久しぶりに見る柄だな」
「外の町のだ」
男は簡単に名乗る。
「マルク。
この辺り、久しぶりに回ってる」
人が集まり、布を手に取る。
値段を聞き、顔を見合わせる者もいるが、今年はすぐに下ろす者も多かった。
「……買えるな」
「今年は、な」
そんな声が混じる。
セシリアは少し離れたところから、そのやり取りを見ていた。
布が売れるということは、食べる分に余裕があるということだ。
マルクは一通り売り場を整えると、周囲を見回した。
「ここ、ちゃんと回ってるな」
「何がですか」
誰かが聞く。
「作物も、人も。
余裕がある」
言い方は軽いが、視線は鋭かった。
「外は?」
ラグナが短く問う。
マルクは、少しだけ表情を曇らせる。
「良くない。
北は雨が続いたし、東は逆に降らなかった。
今年は、食い物を買いに出る人が増えてる」
ざわめきは起きなかった。
皆、黙って聞いている。
セシリアが一歩、前に出る。
「……そうですか」
「ここは?」
「今年は、取れました」
短い答えだった。
マルクは頷き、並ぶ籠と袋を見た。
「だろうな」
それ以上、踏み込まない。
「今日は祭りだ。
商いも、話も、このくらいでいい」
そう言って、杯を受け取る。
火は安定し、食べ物は足りている。
布や雑貨が行き渡り、子どもたちが新しい櫛を回し見ている。
夜が深まる頃、
セシリアは星の見える空を見上げた。
秋は、終わりに近い。
この土地は、持ちこたえた。
外は、そうではないらしい。
その差が、これから何を連れてくるのか――
まだ、誰も知らなかった。
倉の扉が開き、籠が並び、粉にした麦の袋がいくつか前に出される。
派手な飾りはないが、誰が何を持ち、どこに置くかで迷う者はいなかった。
今年は、それだけの余裕がある。
火が入ると、匂いが広がる。
焼いた麦の香ばしさと、芋の甘い湯気が混じり、子どもたちが先に集まってきた。
「もういい?」
「まだだ。火が落ち着いてから」
制する声も、どこか穏やかだ。
止めるためではなく、待たせるための声だった。
水車小屋の方からも人が流れてくる。
挽いた粉で焼いたものは口当たりが軽く、今年の出来をそのまま伝えていた。
「……今年、いいな」
誰かが言い、誰も否定しなかった。
その輪の少し外で、セシリアは様子を見ていた。
騒がしすぎない、けれど沈みもしない。
この土地らしい収穫祭だと思う。
そこへ、道の向こうから人影が現れた。
背負い袋を二つ、肩から下げている。
歩き慣れた足取りで近づく姿に、何人かが先に気づいた。
「行商だ」
男は立ち止まり、軽く手を上げた。
「邪魔するよ。
祭りだって聞いたから」
ラグナが一歩前に出る。
「構わない。
今年は、ちょうどいい」
男は笑い、袋を下ろした。
「助かる。
布と、雑貨が少し。
食い物は……まあ、持ってこれなかったけどな」
そう言いながら、包みを広げる。
染めの入った布、小さな金具、木製の櫛や留め具。
どれも必需品ではないが、あると生活が少し楽になるものだった。
「久しぶりに見る柄だな」
「外の町のだ」
男は簡単に名乗る。
「マルク。
この辺り、久しぶりに回ってる」
人が集まり、布を手に取る。
値段を聞き、顔を見合わせる者もいるが、今年はすぐに下ろす者も多かった。
「……買えるな」
「今年は、な」
そんな声が混じる。
セシリアは少し離れたところから、そのやり取りを見ていた。
布が売れるということは、食べる分に余裕があるということだ。
マルクは一通り売り場を整えると、周囲を見回した。
「ここ、ちゃんと回ってるな」
「何がですか」
誰かが聞く。
「作物も、人も。
余裕がある」
言い方は軽いが、視線は鋭かった。
「外は?」
ラグナが短く問う。
マルクは、少しだけ表情を曇らせる。
「良くない。
北は雨が続いたし、東は逆に降らなかった。
今年は、食い物を買いに出る人が増えてる」
ざわめきは起きなかった。
皆、黙って聞いている。
セシリアが一歩、前に出る。
「……そうですか」
「ここは?」
「今年は、取れました」
短い答えだった。
マルクは頷き、並ぶ籠と袋を見た。
「だろうな」
それ以上、踏み込まない。
「今日は祭りだ。
商いも、話も、このくらいでいい」
そう言って、杯を受け取る。
火は安定し、食べ物は足りている。
布や雑貨が行き渡り、子どもたちが新しい櫛を回し見ている。
夜が深まる頃、
セシリアは星の見える空を見上げた。
秋は、終わりに近い。
この土地は、持ちこたえた。
外は、そうではないらしい。
その差が、これから何を連れてくるのか――
まだ、誰も知らなかった。
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