不要とされた私が、拾われた先で人生を立て直すまで

藤原遊

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第22話 冬支度

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冬支度が始まる頃、村に運び込まれる肉の量が、目に見えて増えた。

クマやイノシシが、例年よりもよく出る。
森に近い畑の端や、水場の跡が荒らされることもあり、狩りに出る回数が自然と多くなっていた。

「多いですね……」

屋敷の前に積まれた肉を見て、ロイが言う。

「ええ」

セシリアは頷きながら、その量を確かめる。

不安がないわけではない。
獣が里に近づく理由は一つではなく、森の奥で何かが起きている可能性もある。

けれど、村人たちの表情は明るかった。

「今年は、肉が足りそうだな」
「干しても、燻しても、余るくらいだ」

そんな声が、あちこちから聞こえる。

「……保存、どうしますか」

ロイが小声で聞いてくる。

「やり方は、いくつかあります」

セシリアはそう言って、手を洗い、包丁を取った。

塩を振り、血を抜き、切り分ける。
火を使う前に、下ごしらえをきちんとする。

「ここで、しっかり水分を出します。
その方が、後で味が落ちません」

村の女たちが、半信半疑で覗き込む。

「そんなに塩、使うの?」

「最初だけです」

そう言って、布に包み、重しを乗せる。

「あとで、使う分だけ戻しますから」

次に、香草と一緒に煮る方法を教える。
火を弱め、時間をかける。

鍋から、肉の匂いが立ち上る。

「……これなら」

誰かが、味見をして目を丸くした。

「美味しい」

「思ったより、全然、固くない」

声が重なり、周囲が少し騒がしくなる。

「保存食って、
こんな味になるんだな」

「これなら、冬でも食べたい」

セシリアは、その様子を見て静かに息を吐いた。

屋敷の一角では、干し肉を吊るす準備も進んでいる。
燻製用の薪が運ばれ、場所が決められていく。

ロイが帳面を抱えて近づいてきた。

「……不思議ですね」

「何が、ですか」

「外は不作だって聞いたのに、
ここは、肉も作物も、足りてます」

「確かに」

セシリアは、干し肉の並びを見ながら答える。

「獣が増えているのは、
良い兆候とは言えません」

「ですよね」

「でも、今は――」

言葉を選びながら、続ける。

「来たものを、
無駄にしない方が大事です」

ロイは頷いた。

「……そうですね」

鍋の火を落とし、肉を引き上げる。
塩と香草の匂いが、空気に残る。

村の人たちは、役割を分け合いながら動いていた。
切る者、干す者、包む者。
誰も指示を待っていない。

「今年の冬は、
食べ物の心配、少ないな」

誰かがそう言い、
別の誰かが笑う。

不安が消えたわけではない。
獣が増える理由も、外の不作の話も、気にはなる。

それでも、
目の前で積み上がっていく保存食は、確かな手応えだった。

日が傾く頃、
屋敷の前には、干し肉と壺が並ぶ。

セシリアは、それを一つずつ見渡す。

冬は、もうすぐだ。
けれど、今年は――備えがある。

そのことが、村全体の動きを、少しだけ軽くしていた。
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