【完結】前世で教祖(ペテン師)してましたが、転生後「聖女」になって崇められてます

藤原遊

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第6話:信じるって、誰かの言葉を神様にすることじゃないと思う

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朝から騒がしかった。

どうやら村の広場で、レメルが何やら**“ミニ神託講座”**なるものを開いていたらしい。
勝手に。完全に、私の許可なしで。私の名前を冠して。

「聖女様の教えを皆で読みましょう!」
「“冷たい水に触れたら目が覚めた”――これは“目覚めには冷水を”というお告げです!」

 

やめろ。
それ、寝不足のときに洗顔した感想だ。

 

クラリスが「感動しました……」とまた泣いていたが、私はもう慣れた。
泣くのがクラリスの通常運転である。問題はそこじゃない。

問題は――レメルだ。

彼は、信仰を“自分の武器”にしはじめていた。
もともと繊細で、自信がなくて、空っぽだった彼が、私という聖女を使って、世界との接点を作っていた。

でもそれは、私の“言葉”を盾にしてるだけで、彼自身の声じゃない。

 

だから、呼び出した。正式に、きちんと、話すために。

 

「……マリア様、何か……お気に召さないことが……?」

レメルは、不安そうに目を伏せた。まるで怒られる子供のように。

その姿に、少しだけ胸が痛んだ。だけど――だからこそ、言わなきゃいけない。

 

「レメルくん。私の言葉は、“正解”じゃないよ」

 

彼は、はっと顔を上げた。

 

「え……でも、マリア様の言葉は……奇跡を起こして……私の命も……」

「うん。たまたまだよ」

「……え?」

 

私は、少し笑ってみせた。
できるだけ、優しく。でも、まっすぐに。

 

「あなたが“救われた”のは、私の言葉のせいじゃない。
あなたが、救われたいと思ってたから。自分で、立ち上がったから。
それが、あなたの“強さ”なんだよ」

 

レメルは、困ったように笑った。信じたくないものを、聞かされた人間の顔だった。

でも、私は続ける。

 

「ねえ。信じるって、何だと思う?」

「……マリア様の言葉を……信じること……?」

「違うよ。それは“依存”っていうんだよ」

 

少し言い過ぎかもしれない。でも、彼には伝えたかった。

 

「信じるって、“自分の目で見て、心で決めること”だよ。
誰かの言葉をそのまま飲み込むことじゃない。
たとえそれが“神の言葉”だとしても、ちゃんと疑って、考えて、それでも選ぶのが“信じる”ってことだよ」

 

レメルは、しばらく黙っていた。

部屋の外では、鳥の声が聞こえていた。春の風が、ほんの少しだけカーテンを揺らす。

そして、彼はゆっくりと、ノートを閉じた。

 

「……僕……“正解”が欲しかったんです」

「うん」

「何をすればいいか、何を信じればいいか、誰のせいにすればいいか……わかんなくて。
だから、“全部決めてくれる言葉”を、探してたんです」

 

彼の目が、少し潤んでいた。

でも、もう“崇拝の目”じゃなかった。
ただの、迷ってる人間の目だった。

 

「……もう少し、自分で考えてみます。
でも、それでも僕、マリア様のことは……信じてますから」

「それなら、嬉しいよ。少しだけね」

 

私は、笑って答えた。

レメルは、深く一礼して、部屋を出ていった。

 

 

……たぶん、これで全部が解決したわけじゃない。
また彼は、悩んで、間違えて、苦しんで、立ち止まるだろう。

でも、それでいい。
それこそが“信じる”ってことだから。

 

私は“奇跡を起こす聖女”だって言われてるけど、ほんとはただの元詐欺師で。

でも、今の私は――

少しだけ、誰かのために、言葉を選んでいる。

 

それだけは、きっと、前世にはなかったことだ。
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