【完結】前世で教祖(ペテン師)してましたが、転生後「聖女」になって崇められてます

藤原遊

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第10話:信じたいと願っただけで、私たちは罪になるのですか?

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「……本当はね、私、君のことが怖かった」

ふいに、エレオノーラはそう言った。

会議の終わった夜。大聖堂の中庭。
灯りの落ちた石畳の上で、彼女はまっすぐ私を見ていた。

 

「私は、正統の聖女として育てられました。
神の声を聞くための作法、祝詞、姿勢、言葉の一つ一つに意味があると教え込まれて。
“聖女”とは、神の器であり、個を捨てた導き手であると――」

 

その声に、かすかな震えが混じる。

 

「でも、あなたは違った。
神の名を語らず、教典も知らず、ただ、誰かの隣に立って、言葉をかけただけ。
なのに、人は救われていた。……それが、羨ましかったんです」

 

彼女の瞳は、どこまでもまっすぐだった。

そこには、敵意も誤解もない。

ただ、**“救いを求めて届かなかった人間”**の、透き通った哀しみがあった。

 

「私は、信じていたんです。
正しく祈れば、正しく奇跡が起こる。
正しく信じれば、正しく救われる……って。
でも、私の祈りでは誰も救われなかった日が、何度もあって……」

 

……ああ、そうか。

この人、ずっと自分を責めてたんだ。

奇跡が起きなかったのは、自分の“信じ方”が足りなかったせいだって。
誰かを救えなかったのは、自分の“器”が足りなかったからだって。

 

それはもう、信仰じゃない。
それは、罰としての信じ方だ。

 

「……でもね、マリア様。
あなたの“言葉”を知ったとき、私は初めて……“信じることは許されるんだ”って、思えたんです」

 

……それ、完全に誤解なんだけどなぁ。

私、信じてないし。信仰なんてないし。むしろ前世じゃ信じさせて金巻き上げてた側だし。

それでも。

その言葉を聞いて、私はなぜか、泣きたくなった。

 

「……ごめんね、エレオノーラさん」

私は小さく呟いた。

「本当は……全部、偶然で、奇跡なんて起こすつもりなかったし、誰かを救いたいとかも、最初は思ってなかった。
ただ、“聖女”って言われて、それがあんまりにも必死だから、流されたっていうか……」

 

言葉が、口からこぼれ落ちる。

これは、懺悔ではない。

たぶん、ただの報告だ。

私が初めて、誰かに“今の私”を説明しているだけだ。

 

「それでもね……それでも、君がそう言ってくれるなら、
少しは……信じてもらえる自分に、なれてるのかなって、思った」

 

エレオノーラは、微笑んだ。

それは、勝者でも、敗者でもない。

ただ、“信じたかった者”が、“信じる余地をもらえた時”の、安堵の笑みだった。

 

「……ありがとうございます。
マリア様の言葉は、今も私を救ってくれています。
その言葉に“神の意志”が宿っていようと、いまいと――
私は、それを信じたいのです」

 

その言葉を、私は否定できなかった。

神はいなくても、誰かの言葉が救いになる。

信仰が空っぽでも、空っぽの中に灯がともることがある。

それを知ってしまったから。

 

 

──こうして私は、
“偽物の聖女”のまま、ひとりの“本物”と心を通わせた。

 

信仰とは何か。

奇跡とは誰のものか。

その問いに、まだ答えは出ない。

でもきっと、私は――

 

信じてくれる誰かのために、嘘の使い方を、選びたいと思った。
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