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第38話:それでも、私はそこにいた
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村に戻って数日が経った。
何もしていない。正確に言えば、何も「していないふり」をしている。
ライオネルが朝から薪を割っているのを、私は焚き火の前で眺めていた。
いや、見守っていた。……いや、監督していた。つまり、何もしていない。
「お前な、せめて水汲みくらい――」
「私が行くと、転びそうになるから村に迷惑なんだよねー。知ってるでしょ?」
「……自慢するな」
ライオネルはため息をついた。もはや日課らしい。
彼は、いまだに私の傍にいる。
曰く「生活力が壊滅的」「一人だと飢える可能性がある」「お前を一人にすると何かやらかす」。
だいぶ失礼な理由ばかりだが、私は否定できない。
そうして今日も、私は堂々と――存在している。
村の空気は、あの日よりもさらにやわらかくなっていた。
子どもたちは祈りを“遊び”のように扱い、大人たちは“言葉”でなく“間”で想いを伝える。
もう誰も私に“教えてください”とは言わない。
たまにパンのおすそ分けはあるが、あれはたぶん、ただの生活支援だ。
「これ、昨日より膨らんだんですよ。神さまって、パン生地にも宿るんですね!」
笑って言ったレティシアが、明らかに“信仰”と“発酵”をごっちゃにしていたけれど、
私は「それ、すごくいい信仰だね」と答えておいた。
間違っていない。祈りというのは、大体そういうものだ。
その晩、焚き火の火が少しだけ弱くなったころ。
ライオネルが、唐突に言った。
「……なあ。俺、これからも一緒にいていいか?」
――は?
「どういう意味?」
「そのままの意味だ」
「いやいや、“護衛”とか“生活管理”って大義名分なくなるよ? 私もうただの一般人だし」
「構わん。“ただの一般人”の隣に、俺がいるだけだ」
私は思わず吹き出した。
「それ、なんかプロポーズみたいなセリフだよ? 今のとこ“居候同士”だけど」
「違うのか?」
「いや、間違ってはないけど……ああもう、はいはい、いいよ。
一人だとパンも焼けないし、火も維持できないし。隣にいてもらえると助かる、うん」
どうしてこうなるんだろうなと思いながら、私はふと、空を見上げた。
月が、少し欠けている。でも、光はちゃんと届いている。
私の名は、もう使われていない。
誰も私を“聖女”とは呼ばない。
でも、火がついていた。誰かの中に。
それでいい。
それが、すべてだ。
だから私は――それでも、ここにいたのだと思う。
何もしていない。正確に言えば、何も「していないふり」をしている。
ライオネルが朝から薪を割っているのを、私は焚き火の前で眺めていた。
いや、見守っていた。……いや、監督していた。つまり、何もしていない。
「お前な、せめて水汲みくらい――」
「私が行くと、転びそうになるから村に迷惑なんだよねー。知ってるでしょ?」
「……自慢するな」
ライオネルはため息をついた。もはや日課らしい。
彼は、いまだに私の傍にいる。
曰く「生活力が壊滅的」「一人だと飢える可能性がある」「お前を一人にすると何かやらかす」。
だいぶ失礼な理由ばかりだが、私は否定できない。
そうして今日も、私は堂々と――存在している。
村の空気は、あの日よりもさらにやわらかくなっていた。
子どもたちは祈りを“遊び”のように扱い、大人たちは“言葉”でなく“間”で想いを伝える。
もう誰も私に“教えてください”とは言わない。
たまにパンのおすそ分けはあるが、あれはたぶん、ただの生活支援だ。
「これ、昨日より膨らんだんですよ。神さまって、パン生地にも宿るんですね!」
笑って言ったレティシアが、明らかに“信仰”と“発酵”をごっちゃにしていたけれど、
私は「それ、すごくいい信仰だね」と答えておいた。
間違っていない。祈りというのは、大体そういうものだ。
その晩、焚き火の火が少しだけ弱くなったころ。
ライオネルが、唐突に言った。
「……なあ。俺、これからも一緒にいていいか?」
――は?
「どういう意味?」
「そのままの意味だ」
「いやいや、“護衛”とか“生活管理”って大義名分なくなるよ? 私もうただの一般人だし」
「構わん。“ただの一般人”の隣に、俺がいるだけだ」
私は思わず吹き出した。
「それ、なんかプロポーズみたいなセリフだよ? 今のとこ“居候同士”だけど」
「違うのか?」
「いや、間違ってはないけど……ああもう、はいはい、いいよ。
一人だとパンも焼けないし、火も維持できないし。隣にいてもらえると助かる、うん」
どうしてこうなるんだろうなと思いながら、私はふと、空を見上げた。
月が、少し欠けている。でも、光はちゃんと届いている。
私の名は、もう使われていない。
誰も私を“聖女”とは呼ばない。
でも、火がついていた。誰かの中に。
それでいい。
それが、すべてだ。
だから私は――それでも、ここにいたのだと思う。
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