虐げられ王女と忠誠の騎士〜運命を結ぶ婚約の物語〜

藤原遊

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静かな朝霧が王宮を包む中、ルミナリエは軽やかな心持ちで馬車に乗り込んだ。
長い間この場所で過ごしてきたが、不思議と後ろ髪を引かれる思いは少ない。それよりも、これから始まる新しい生活への期待の方が胸を満たしていた。

ヴィクターが馬車の扉を支えながら言った。
「お気をつけください、ルミナリエ様。」

「ありがとう、ヴィクター殿。」
彼女が微笑むと、ヴィクターも自然と穏やかな表情になる。

その横でミレイアが荷物を整えながら微笑んだ。
「いよいよですね。ルミナリエ様、新しい生活が待っていますよ。」

「ええ……。」
ルミナリエは小さく頷き、視線を王宮の方に向けた。霧の向こうに見えるその建物は、もう彼女にとって「縛られる場所」ではなかった。

馬車がゆっくりと道を進む中、ルミナリエは窓の外を眺めていた。
見慣れない景色が広がるたびに、心が弾む。これから向かう場所はどんな土地なのだろう――その期待とともに、胸の中には微かな不安もあった。

「どうされました?」
ヴィクターが馬車の中で隣に座り、彼女の様子を伺う。

「少しだけ……未知の場所に向かうことが怖く感じます。」
彼女は素直に答えた。

ヴィクターは頷きながら優しく言った。
「新しい土地は未知であるからこそ、可能性に満ちています。きっと、ルミナリエ様がその地に光をもたらすことでしょう。」

「私が……光を?」
ルミナリエは驚いたように彼を見た。

「はい。」
ヴィクターの瞳には確信が宿っている。
「あなたがどこにいても、その存在が周囲を照らす光となるのです。それは、私だけでなく、これから出会う多くの人々にとっても同じことです。」

その言葉に、ルミナリエは顔を赤らめた。
「そんなこと……少し恥ずかしいですね。」

「私は事実を述べているだけです。」
ヴィクターは穏やかに笑いながら続けた。
「そして、その光を守るのが私の使命です。それだけは、どうか信じてください。」

ルミナリエは小さく頷き、微笑んだ。
「ありがとう、ヴィクター殿……。あなたがいてくれるなら、私もきっと頑張れます。」

馬車が広大な平野を越え、城郭の見える丘に差し掛かった頃、ルミナリエは息を呑んだ。
「ここが……私たちの新しい家……。」

広がるのは美しい山々と緑の大地、そしてその中心にそびえる堅固な城塞だった。領地の者たちが城の前に集まり、新しい領主を出迎えるために整然と並んでいる。

ヴィクターが馬車から降りると、領民たちの中から拍手と歓声が湧き上がった。
「リオネル伯爵!」「新しい領主様、ようこそ!」

続いてルミナリエが馬車から降りると、その「光の瞳」に気づいた領民たちがさらに感嘆の声を上げた。

「まるで女神様のようだ……。」
そんな声が聞こえ、彼女は少し恥ずかしそうに微笑みながら頭を下げた。

「どうか、よろしくお願いいたします。」
ルミナリエが言うと、領民たちは一斉に頭を下げ、彼女を歓迎した。

その日の夕暮れ、ヴィクターとルミナリエは城の庭園に立っていた。
夕陽が二人を優しく照らし、その光の中でルミナリエは新しい庭を見つめていた。

「ここ、とても広いですね。」
彼女が言うと、ヴィクターは頷いた。
「この庭園は、あなたの好きなようにしてください。花を植えるのも、木々を増やすのも、すべて自由です。」

「本当ですか?」
彼女は目を輝かせた。

「もちろんです。」
ヴィクターは優しく微笑んだ。
「ここは、あなたの新しい家ですから。そして、私にとってもあなたがいる場所が家です。」

その言葉に、ルミナリエは一瞬戸惑い、頬を赤らめた。
「ヴィクター殿は……いつもそんなに真っ直ぐすぎます。」

「申し訳ありません。」
ヴィクターは笑いながら、少しだけ頭を下げた。
「ですが、それが私の本心です。」

ルミナリエは笑いながら言った。
「その本心……私も少しずつ受け止められるようになりたいです。」

翌朝、庭園で朝日を浴びながら、ルミナリエが静かに言った。
「ここが、私たちの新しい家ですね……。」

「はい。」
ヴィクターが彼女の隣で穏やかに微笑んだ。
「ここから始めましょう。あなたと共に、幸せな未来を。」

二人の視線の先には、新しい一日の始まりを告げる陽光が広がっていた。
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