虐げられ王女と忠誠の騎士〜運命を結ぶ婚約の物語〜

16

フェリクスとの会話を終えたヴィクターは、執務室を出ると深く息を吐いた。
王太子としての彼の威厳、そして姉であるルミナリエへの優しさ――そのどちらも感じ取れる時間だった。フェリクスの言葉に背中を押される形で、自分が選んだ道の正しさを再確認できたように思う。

「さあ、彼女に伝えなければ。」

ヴィクターはそう心の中で呟きながら、ルミナリエのもとへ向かった。

ルミナリエの部屋の前に立つと、扉の奥から小さな話し声が聞こえてきた。
それは、彼女と侍女ミレイアのものだった。

「本当に、私がこの道を選んで良いのか……。」
ルミナリエの声には迷いが感じられた。

「ルミナリエ様、私はあなたが幸せを感じられる場所を選ぶことが一番だと思っています。」
ミレイアの声は穏やかで、優しさが滲んでいる。
「そして、ヴィクター殿はきっと、どこにいてもあなたを幸せにしてくれるでしょう。」

その言葉に、ルミナリエは少し黙り込んだ。

ヴィクターはそっと扉をノックした。
「失礼します、ルミナリエ様。」

彼女の声が中から返ってくる。
「どうぞ、お入りください。」

部屋に入ると、ルミナリエが少し驚いたように顔を上げた。
ミレイアは軽く会釈をして部屋を出ていく。ヴィクターは静かに彼女の前に立ち、深く一礼した。

「フェリクス殿下とのお話を終えてまいりました。」

「そうですか……どうだったのですか？」
ルミナリエの声は控えめだったが、その瞳には真剣さが宿っていた。

「殿下は、私たちの決断を尊重してくださいました。そして、この新しい地での生活が、ルミナリエ様にとって幸せなものになるよう願ってくださっています。」

彼女は少し目を伏せた。
「フェリクス殿下……そうおっしゃってくださったのですね。」

「はい。」
ヴィクターは深く頷いた。
「そして、殿下から改めて『彼女を幸せにしてほしい』と、託されました。」

その言葉に、ルミナリエはわずかに微笑んだ。
「フェリクス殿下らしいですね……。昔から、何も言わなくても私のことを気にしてくださる方でした。」

ヴィクターは彼女のその微笑みを見つめ、静かに言葉を紡いだ。
「私は、殿下の想いだけでなく、私自身の誓いとして、あなたを幸せにすることをお約束します。」

その言葉に、ルミナリエは驚いたように顔を上げた。

「ヴィクター殿……。」

彼は真剣な瞳で彼女を見つめ続けた。
「私の人生の全ては、あなたと共にあります。どんな試練が待っていようとも、私はそれを乗り越え、あなたを守り抜く覚悟です。」

彼の言葉は真っ直ぐで、迷いのないものだった。その瞳には、彼女への深い愛情が隠しきれずに溢れている。

「……そんなに、真っ直ぐに言われると……。」
ルミナリエは顔を赤らめ、視線を逸らした。彼女の耳まで赤く染まっているのが、ヴィクターには分かった。

「申し訳ありません。」
ヴィクターは微笑を浮かべ、少し頭を下げた。
「ですが、どうしてもお伝えしたかったのです。」

「もう……。」
ルミナリエは小さく息を吐き、彼を見上げた。照れくさそうに微笑むその表情は、どこか穏やかで、愛おしさを感じさせるものだった。

「あなたに、そこまで言われたら……私も頑張らないといけませんね。」

その言葉に、ヴィクターは微笑みながら答えた。
「一緒に頑張りましょう。そして、新しい生活を共に築きましょう。」