冷徹と噂の辺境伯令嬢ですが、幼なじみ騎士の溺愛が重すぎます

藤原遊

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兄の覚悟

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あの夜の轟音と血の匂いを、私は一生忘れないだろう。

スタンピード。
幾千もの魔物が城塞に押し寄せ、地を揺らす咆哮が夜空を裂いた。
剣を振るいながら、私は背後に結界を張る弟の姿を見ていた。

光壁を支えるその肩は震え、額には冷や汗が滲んでいた。
魔力を注ぎ込むだけでも常人なら倒れるはずだ。
だがカイはなお立ち続け、蒼白な顔で結界を維持していた。

――そのとき、私は気づいた。

弟の身体から、魔力だけではない何かが削られていく。
生命の気配そのものが、薄れていくのを。

「……馬鹿者」

声にならぬ声が喉を突いた。
背筋が凍り、血の気が引く。
あの子は本当に命を懸けている――それも迷いなく。

剣を振り払いながら、私はそっと手を伸ばした。
触れたのは弟の肩。
そこから、自分の魔力を流し込む。

影の影として、ただ弟を生かすために。

「せめて……せめて、お前の命火が消えぬように」

それが自分にできる唯一のことだった。
誰にも気づかれず、ただ陰に徹し、弟を支える。
あの子が守ろうとする令嬢を、最後まで守り抜けるように。

命を削る弟の背を支えながら、私はただ願った。

――どうか、まだ倒れないでくれ。
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