私より幼馴染を選んだ婚約者に別れを告げたら謝罪に来ましたが、契約を守れない貴族とは取引しませんので

藤原遊

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第4話 港の異変

翌朝、港はいつも通り賑わっていた。

荷車が行き交い、船乗りたちの怒鳴り声が飛び交う。倉庫の前では商人たちが帳簿を片手に値段の交渉をしていた。

だが、その光景の中に、わずかな違和感が混じり始めていた。

「……おい、あの倉庫」

一人の商人が眉をひそめる。

「荷出ししてないか?」

視線の先には、港の中央にある大きな倉庫があった。

そこは長年、祖父の商会が使っている倉庫だ。

そして今、その前では商会の従業員たちが忙しく荷を運び出していた。

木箱が次々と荷車に積まれていく。

「おいおい、どうしたんだ」

別の商人が近づく。

「引っ越しか?」

「そんな話聞いてないぞ」

港の商人たちは互いに顔を見合わせる。

祖父の商会は、この港の物流の中心だ。

倉庫の一つや二つならともかく、あそこは主力倉庫だった。

そこが動くということは――

「おい、船はどうなってる?」

誰かが叫ぶ。

港の桟橋を見ると、いつも停泊しているはずの商船がいくつか見当たらない。

「昨日の便、来てないぞ」

「うちの荷もまだ届いてない」

ざわめきが広がる。

そこへ、一人の若い役人が走ってきた。

領主の港湾管理をしている男だ。

「何が起きてる!」

商人の一人が言う。

「商会の倉庫が荷出ししてる」

役人は顔をしかめる。

「そんな話は聞いてない」

その時だった。

桟橋の先から、新しく入ってきた船がゆっくりと方向を変えた。

港に入ると思われたその船は、向きを変えてそのまま沖へ出ていく。

「……おい」

誰かが呟く。

「あれ、入港しないのか?」

ざわめきが一段と大きくなる。

祖父の商会の船だった。

商人の一人が青ざめる。

「まさか……」

その頃。

領主の屋敷では、アルベルトが遅い朝食を取っていた。

昨夜の舞踏会のことは、正直あまり気にしていない。

婚約者が怒って帰った。

それだけだ。

そのうち落ち着けば戻ってくるだろう、くらいに思っていた。

そこへ、扉が勢いよく開いた。

「アルベルト様!」

執事が慌てた様子で入ってくる。

アルベルトは眉をひそめる。

「なんだ、騒がしい」

「港で問題が起きています!」

「問題?」

執事は息を整えながら言う。

「商会の倉庫が、荷を引き払っています」

アルベルトは一瞬、意味が分からなかった。

「……それがどうした」

「船もです!」

執事は続ける。

「本日入港予定だった商会の船が、港に入らず沖へ戻りました」

アルベルトはフォークを止める。

「……は?」

「他の船も、寄港先を変更している可能性があります」

アルベルトは椅子から立ち上がった。

「待て」

ようやく、昨夜の言葉が頭をよぎる。

――祖父の商会との契約も終了ということで。

アルベルトの顔色が変わる。

「まさか……」

執事は恐る恐る言った。

「商会が撤退している可能性があります」

部屋の空気が重くなる。

アルベルトはしばらく動かなかった。

そして、ようやく言葉を吐き出す。

「……冗談だろ」

だが、その声には自信がなかった。
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