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会場の空気がわずかにざわめいた。
王宮の重厚な扉が、再び開かれる。
「アレスト王国、ユーリ・アレスト殿下、ご入場」
侍従の高らかな声が響き渡り、ゆったりとした足取りでその人影が現れる。
一歩進むごとに、煌びやかな光がその姿を優しく包み込んでいく。
金褐色の長髪が滑るように肩に流れ、彫りの深い整った顔立ちは異国の血筋を色濃く映していた。
青く煌めく瞳は宝石のように輝き、柔らかな微笑みを浮かべるその姿は、見る者の視線を自然と惹きつけて離さない。
礼装は絢爛ながらも過剰ではなく、優雅さと異国情緒が絶妙に調和している。
(……なるほど)
思わず私は視線を奪われた。
美しい、というより――まるで絵画の中から抜け出したよう。
国内貴族の端正さとも、アレクシス殿下の冷徹な美しさともまた異なる、異国ならではの華やかさがあった。
「……華やかですわね」
思わず漏れた私の小さな呟きに、隣のアレクシス殿下がわずかに視線を寄せた。
表情は変わらぬ微笑を保ちながらも、その奥に小さく光るものが走る。
ユーリ王子は堂々と歩を進め、まずは王太子殿下と聖女サクラの前に立つ。
「王太子殿下、聖女サクラ様。こうして直々にご挨拶の機会を頂き、光栄に存じます」
柔らかな口調と、完璧に整った礼法。
サクラはやや緊張しながらも笑みを返し、王太子殿下も穏やかにそれに応じる。
「遠路はるばるのご足労に感謝します。今宵はどうぞ、存分に楽しんでいただきたい」
続いて、ユーリ王子の視線が私たちへと移る。
「王弟殿下、リディア嬢――お目にかかれて光栄です」
柔らかな微笑を浮かべつつ、私へと礼を取る。
その眼差しは、ほんの僅かに好奇心と品の良い評価を含んでいた。
「以前より、貴女の聡明さは噂に聞き及んでおりました」
私は微笑を返し、控えめに言葉を紡ぐ。
「恐れ入ります。殿下の母国の華やかな舞踏会に比べれば、我が国の宴など少々地味で退屈に感じられるやもしれませんが……今宵はどうぞお楽しみくださいませ」
ユーリ王子はすぐに優雅に首を振った。
「退屈などとんでもない――すでに滞在の楽しみが増えた気がいたします。これほど聡明で、美しい方にお会いできるとは思いもよりませんでした」
その言葉に、周囲の貴族たちがざわつく。
淡く甘い褒め言葉に、ご婦人たちが早速色めき立つ気配が漂った。
そこで、アレクシス殿下が静かに口を開いた。
「外交の賓客として歓迎いたします、ユーリ殿下。そして――リディア嬢につきましては、私が公私共に積極的に口説き中でして。どうぞ、ご配慮を」
あくまで穏やかな口調だが、確かな牽制が柔らかく場に浸透していく。
周囲が一斉に息を呑む。
ユーリ王子もわずかに口元を緩める。
「……お邪魔にならぬよう気をつけます。殿下」
そして続けた。
「今回の舞踏会を機に、しばらく王都に滞在させていただこうと思っております。王太子殿下にも事前に許可を頂いておりますが、王宮の皆様とも改めて友好を深めたく」
新たな外交の火種が、盤上に置かれた瞬間だった。
アレクシス殿下は微笑を崩さず、静かに頷いた。
「歓迎いたします、ユーリ殿下。ご滞在中、良き交友の場となることを祈っております」
こうして、舞踏会はさらに静かに、しかし確実に揺れ始めていった。
王宮の重厚な扉が、再び開かれる。
「アレスト王国、ユーリ・アレスト殿下、ご入場」
侍従の高らかな声が響き渡り、ゆったりとした足取りでその人影が現れる。
一歩進むごとに、煌びやかな光がその姿を優しく包み込んでいく。
金褐色の長髪が滑るように肩に流れ、彫りの深い整った顔立ちは異国の血筋を色濃く映していた。
青く煌めく瞳は宝石のように輝き、柔らかな微笑みを浮かべるその姿は、見る者の視線を自然と惹きつけて離さない。
礼装は絢爛ながらも過剰ではなく、優雅さと異国情緒が絶妙に調和している。
(……なるほど)
思わず私は視線を奪われた。
美しい、というより――まるで絵画の中から抜け出したよう。
国内貴族の端正さとも、アレクシス殿下の冷徹な美しさともまた異なる、異国ならではの華やかさがあった。
「……華やかですわね」
思わず漏れた私の小さな呟きに、隣のアレクシス殿下がわずかに視線を寄せた。
表情は変わらぬ微笑を保ちながらも、その奥に小さく光るものが走る。
ユーリ王子は堂々と歩を進め、まずは王太子殿下と聖女サクラの前に立つ。
「王太子殿下、聖女サクラ様。こうして直々にご挨拶の機会を頂き、光栄に存じます」
柔らかな口調と、完璧に整った礼法。
サクラはやや緊張しながらも笑みを返し、王太子殿下も穏やかにそれに応じる。
「遠路はるばるのご足労に感謝します。今宵はどうぞ、存分に楽しんでいただきたい」
続いて、ユーリ王子の視線が私たちへと移る。
「王弟殿下、リディア嬢――お目にかかれて光栄です」
柔らかな微笑を浮かべつつ、私へと礼を取る。
その眼差しは、ほんの僅かに好奇心と品の良い評価を含んでいた。
「以前より、貴女の聡明さは噂に聞き及んでおりました」
私は微笑を返し、控えめに言葉を紡ぐ。
「恐れ入ります。殿下の母国の華やかな舞踏会に比べれば、我が国の宴など少々地味で退屈に感じられるやもしれませんが……今宵はどうぞお楽しみくださいませ」
ユーリ王子はすぐに優雅に首を振った。
「退屈などとんでもない――すでに滞在の楽しみが増えた気がいたします。これほど聡明で、美しい方にお会いできるとは思いもよりませんでした」
その言葉に、周囲の貴族たちがざわつく。
淡く甘い褒め言葉に、ご婦人たちが早速色めき立つ気配が漂った。
そこで、アレクシス殿下が静かに口を開いた。
「外交の賓客として歓迎いたします、ユーリ殿下。そして――リディア嬢につきましては、私が公私共に積極的に口説き中でして。どうぞ、ご配慮を」
あくまで穏やかな口調だが、確かな牽制が柔らかく場に浸透していく。
周囲が一斉に息を呑む。
ユーリ王子もわずかに口元を緩める。
「……お邪魔にならぬよう気をつけます。殿下」
そして続けた。
「今回の舞踏会を機に、しばらく王都に滞在させていただこうと思っております。王太子殿下にも事前に許可を頂いておりますが、王宮の皆様とも改めて友好を深めたく」
新たな外交の火種が、盤上に置かれた瞬間だった。
アレクシス殿下は微笑を崩さず、静かに頷いた。
「歓迎いたします、ユーリ殿下。ご滞在中、良き交友の場となることを祈っております」
こうして、舞踏会はさらに静かに、しかし確実に揺れ始めていった。
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