攻略対象の叔母に転生した悪役令嬢ですが、甥の執着が重すぎます

藤原遊

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第一章 幼き日の誓い

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大広間は避難してきた人々の声で満ちていた。
すすり泣く子ども。祈りの言葉を口にする老婆。誰もが怯えを隠せず、ざわめきは波のように広がっていく。

「結界が……もう持たないのでは」
「兵が……押し返せていないと……」

断片的に耳に届く言葉が胸を冷たく締めつける。
息が苦しい。
――やっぱり、これは原作で見た悲劇の始まりだ。

気づけば、私は広間を抜け出していた。
リコやマリオの声を背に、石造りの廊下を駆け上がる。
足が竦むほど怖いのに、止まれなかった。

辿り着いたのは城の高み、見晴台を兼ねたバルコニー。
外気に触れた途端、冷たい風が頬を刺す。
眼下に広がるのは、赤黒く燃え盛る戦場――魔物の群れがうねり、空には黒い影が飛び交っていた。
轟音が大地を揺らし、思わず膝が笑う。

その場で、二つの声が鋭くぶつかり合っていた。

「――リシェル! お前が結界を張るなど許さない!」
「カイ! 私にしかできないのです!」

銀髪を翻すリシェル姉様。
黒髪のカイ様が、険しい眼差しで彼女を制していた。
額に浮かぶ汗、荒い呼吸。すでに限界を越えているのが分かる。

――この城を守る結界は、辺境伯家の直系か、その影でなければ維持できない。
そのための魔道具、首飾りは今もカイ様の首にかかっていた。

「あなたは身重なのですよ!」
「それでも……私には、この城を守る責務があります!」

二人の声が夜風に乗って響き渡る。
そのやり取りに、胸がぎゅっと掴まれた。

怖い。
けれど――分かってしまった。
このままではリシェル姉様が命を削ることになる。

気づいたら、叫んでいた。

「――待って!」

二人が振り返る。
炎に照らされた横顔は険しく、美しく、そして痛々しかった。

「結界は……私がやる!」

自分の声が震えているのが分かった。
けれど、後戻りはできない。

「エリシア……!」
「馬鹿な! お前はまだ五歳だ!」

カイ様の叱責を浴びても、胸を張った。

「次代の辺境伯様を守るために!」

言葉が夜を裂いた。
リシェル姉様が思わずお腹に手を添える。
その仕草を見た瞬間、私の奥底に熱いものがこみ上げてきた。

――この子を、守らなきゃ。
推しの未来を、絶対に繋がなきゃ。

首飾りを握った途端、熱が掌を焼き、光が弾けた。
眩い結界が広がり、空気そのものが震える。

「……エリシア!」

駆け寄る足音。
リコとマリオが蒼白な顔で飛び込んでくる。

「無茶です! ですが……ならば私が護ります!」
マリオの瞳が強く光った。
その決意に、ほんの少しだけ心が落ち着いた。

そこへ、辺境伯――父が現れた。
その姿だけで兵たちが静まり返る。

「ボス級が出たか……!」

低く放たれた言葉に、場の空気が張りつめた。
母が駆け寄り、癒しの光を父とカイ様に注ぐ。

「あなた……ご無事で」
「……ああ。リシェルは指揮を」

父とカイ様が視線を交わす。
剣を抜き放ち、打って出る覚悟を決めた。

「結界は……お前に任せる」

父の瞳が私を射抜く。
迷いを含んだその眼差しに、私は大きく頷いた。

「……はい!」

声が震えた。
でも、怖くても、足が竦んでも。

――やるしかない。

リシェル姉様に命を削らせないために。
推し夫婦の未来を、この小さな手で守るために。

眩い光が夜空に広がり、結界が完成する。
その輝きは、震える私の決意を無理やり支えてくれるかのようだった。
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