攻略対象の叔母に転生した悪役令嬢ですが、甥の執着が重すぎます

藤原遊

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第一章 幼き日の誓い

5

どれくらい時間が経ったのだろう。
私が張った結界は、いまだ緑がかった光を放ち、魔物たちの進撃を押し返していた。

けれど――父やカイ様の結界が黄金色で輝くのに比べ、私の結界は明らかに色合いが違っていた。
兵たちの間から、ひそやかな声が漏れる。

「……珍しい色だな」
「魔力の個性か……?」

理由は誰にも分からない。ただ、その視線に私は小さく肩をすくめた。

その瞬間。
空を切り裂く影が結界に叩きつけられ、甲高い衝撃音が耳をつんざいた。

「ひっ……!」

思わず体が竦む。
翼を広げた魔物が何度も結界に爪を打ちつけ、火花を散らしていた。
心臓が喉の奥で暴れ、呼吸が浅くなる。

「エリシア様、下がって!」

鋭い声が飛んだ。
リコだ。次の瞬間、矢が弦を弾く音と共に放たれ、魔物の胸を正確に貫いた。
隣ではマリオも、いつもの無表情で矢を次々と射掛けていく。

「……リコ、戦えるの……?」
思わず呟いた声に、乳母は小さく笑った。

「お守りするためにございます」

私の知っている優しい乳母はそこにはいなかった。
戦場に立つひとりの戦士が、目の前にいた。

――乳母も、影も。みんな私を守るために、命を懸けている。

けれど。
咆哮が重なり、炎が上がり、兵の怒号が響くこの場に漂っているのは、
命を削り合う現実そのものだった。

(……これが、本当の戦いなんだ)

日本での社畜生活。
理不尽で眠れなくても、明日が必ず来る世界。
だけど、ここでは一瞬で命が奪われる。二度と戻らない。
背筋が凍るような恐怖に、体が震えた。

「……こわい」

かすれた声が漏れたとき。
背後から、静かな母の声が届いた。

「大丈夫よ、エリシア。……お歌を歌いましょう」

振り返ると、母の指先に癒しの緑の光が揺れていた。
結界を張ることはできなくても、癒しの魔法で兵を支えている。
その光に胸が温められ、私は必死に頷いた。

思い出したのは、母がよく口ずさむ賛美歌。
幼い声で震えながら歌うと、結界がほんの少し落ち着く。
けれど、曲はすぐに終わってしまった。

(次は……何を歌えば……?)

息を呑んだ瞬間、脳裏に浮かんだのは――前世で夢中になった物語の主題歌。
心臓が痛いほど早鐘を打つ。
でも、この歌なら。

「……これなら、歌える」

私は深く息を吸い込み、旋律を紡ぎ出した。
最初は恐怖で震える声。けれど、歌い続けるうちに響きが強くなっていく。

緑がかった結界が脈打つように揺らめき、光が一段と鮮やかになった。
歌声は広間へ、戦場へ、そして夜空へと広がっていく。

――今の私にできるのは、ただ必死に歌うこと。
その声で、みんなを支えることだけだった。
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