攻略対象の叔母に転生した悪役令嬢ですが、甥の執着が重すぎます

藤原遊

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第二章 甘えん坊の甥

6

スタンピートの大騒ぎが収まり、領地にようやく日常が戻ったころ。
私は相変わらず稽古でマリオに負け続けながら、ぽんこつなりに毎日を過ごしていた。

そんなある日――待望の知らせが届いた。

「リシェル様が、男児をご出産されました」

その瞬間、胸が弾けるように嬉しかった。

えっ、推し……!ついに産まれた!?
悲劇の辺境伯家で唯一の希望とかじゃなく、普通にお祝いごとになっている現状に心からガッツポーズをしたい。
でも、そんなことよりも。

「マリオ!おめでとうを言わなきゃ!」

思わず傍にいたマリオの手を引っ張り、城の奥へ駆けだす。

隣で振り回されるマリオは、何か考え込んでいる顔をしていたけれど――そんなの今は気にしていられない。

産室の扉を抜けると、そこには幸せそうに微笑むリシェル姉様と、その隣で優しい眼差しを注ぐカイ様がいた。
二人の腕の中で眠っているのは、まだ小さな赤子。

「……可愛い」

思わず呟いた声は、私自身も驚くほど震えていた。

銀髪の姉様がそっと抱きかかえ、カイ様が穏やかにその頬を見つめる。
その姿は、乙女ゲーム原作で散々泣かされた“悲恋の夫婦”なんかじゃない。
幸せいっぱいの両親の姿だった。

そして――その腕の中の小さな命は。

「ルシアン」

そう名付けられた瞬間、心臓が飛び跳ねた。

――尊っっっ!
推し、現物、降臨しましたーッ!!

「可愛い……叔母ちゃんが絶対に守るからね」

赤子に向かってそう誓ったとき、胸の奥で何かが弾けるように熱くなる。
甥としてだけじゃない。
前世で私が夢中になって推し活した、あの“ルシアン”が今ここにいる。

その小さな寝息に、もう泣きそうだった。


「おばしゃまー!」

月日が流れ、よちよち歩きを始めたルシアンは、私にべったり。
どこへ行くにも後ろをついてきて、小さな手で服の裾を掴んで離さない。

「おばしゃま!だっこ!」

――可愛い、尊い、やばい。

社畜時代の私なら確実にデスクで転げ回っていた。

そんな姿を見ていたリシェル姉様が、柔らかく笑んで言う。

「ルシアンはエリシアに随分と懐いたわね」
「ええ……」

リシェル姉様とカイ様は目を細め、見つめている。

けれどカイ様のその声には、どこか含みがあった。
それを察したのは、たぶん私だけじゃない。「甘やかしすぎでは?」という副音声が聞こえてくるようだった。

――まあ、仕方ないよね。
だって私、推し活全力でやってるんだから!

「可愛い、ほんと可愛い……!」

ぎゅっと抱き上げたルシアンの笑顔に、心の底から誓う。

私はこの子の笑顔を、絶対に守る。
たとえ未来がどうあろうと

――推しの幸せを、この手で掴ませてみせるのだ。
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