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第二章 甘えん坊の甥
7
訓練を終えた帰り道、私はマリオと並んで廊下を歩いていた。
十歳を目前にして、私はもう「護身用の真似事」では済まされない。
護衛の子たちと同じ訓練に参加する時間も増えてきている。
……とはいえ、私は相変わらず剣の腕前はぽんこつ。
稽古の後の怪我治療要員に完全になってしまっている。まあ、こうしてヒーラーとして役立てているからこそ、みんなの稽古の和に入れてもらえているとも言えるけど……。
私が勝てるのは子どもの遊びで手加減してもらった時くらい。
それでも、足掻かずにはいられない。
「おばしゃまー!」
勢いよく飛びついてきた小さな体に、思わず笑みがこぼれる。
裾を掴んで離さないのは、甘えん坊に育った甥――ルシアンだ。悲劇の中で懸命に生きる攻略対象になるはずが、幸せいっぱいである。
ーーあのときは本当に死ぬかと思ったけど、昔の私、よくやった!現状にとっても満足してる。
「ふふ、ルシアン。今日はいい子にしてた?」
しゃがみこんで抱きとめると、ルシアンはぱっと笑顔を広げ、手の中の包みを差し出してきた。
「お菓子、もらったの。おばしゃまも食べよ?」
――可愛い。尊い。癒やし。
中身は焼き菓子。領民から届いたものを、きっと台所から持ち出してきたのだろう。
私は笑ってひとかけらを口に運ぶ。
「ん……おいしい」
「でしょ! おばしゃまと半分こ!」
小さな手で一生懸命に割ってくれた欠片を受け取りながら、胸がじんわり温かくなる。
「秘密ね」
ふいにルシアンが顔を寄せ、小声で囁いた。
「台所のお姉さんには言わないで。おばしゃまと僕だけの、秘密」
――ぐはっ。尊い。
こんな天使に秘密を託されたら、誰だって赤べこよろしく頷くしかない。
「うん、約束」
思わず指切りをすると、ルシアンは安心したように笑った。
その笑顔に胸をぎゅっと掴まれる。
……そのとき。
「仲が良いわね」
振り向けば、リシェル姉様が廊下の奥で微笑んでいた。
隣にはカイ様。いつものように、彼女を守る護衛のように立っている。
「……ああ」
低く返事をしたカイ様の声が、妙に重く響いた。
俺は妻の言葉に短く答え、目の前の光景を見つめていた。
子どもの微笑ましいやりとり――そう言ってしまえばそれまでだ。
だが、俺にはどうしても笑い飛ばせない。
息子が見せる笑顔の奥に、執着の色を見た気がする。
幼すぎるはずなのに、「決して譲らない」とでも言うような光。
……似ている。
十歳の頃の俺と。
かつて、全てを投げ打ってリシェルだけを見ていた、あの時の俺に。
奥歯を噛みしめた。
目の前にいるのは、まだ小さな子ども。
それでも――その視線が行き着く先を思うと。
ため息を一つ吐いた。
十歳を目前にして、私はもう「護身用の真似事」では済まされない。
護衛の子たちと同じ訓練に参加する時間も増えてきている。
……とはいえ、私は相変わらず剣の腕前はぽんこつ。
稽古の後の怪我治療要員に完全になってしまっている。まあ、こうしてヒーラーとして役立てているからこそ、みんなの稽古の和に入れてもらえているとも言えるけど……。
私が勝てるのは子どもの遊びで手加減してもらった時くらい。
それでも、足掻かずにはいられない。
「おばしゃまー!」
勢いよく飛びついてきた小さな体に、思わず笑みがこぼれる。
裾を掴んで離さないのは、甘えん坊に育った甥――ルシアンだ。悲劇の中で懸命に生きる攻略対象になるはずが、幸せいっぱいである。
ーーあのときは本当に死ぬかと思ったけど、昔の私、よくやった!現状にとっても満足してる。
「ふふ、ルシアン。今日はいい子にしてた?」
しゃがみこんで抱きとめると、ルシアンはぱっと笑顔を広げ、手の中の包みを差し出してきた。
「お菓子、もらったの。おばしゃまも食べよ?」
――可愛い。尊い。癒やし。
中身は焼き菓子。領民から届いたものを、きっと台所から持ち出してきたのだろう。
私は笑ってひとかけらを口に運ぶ。
「ん……おいしい」
「でしょ! おばしゃまと半分こ!」
小さな手で一生懸命に割ってくれた欠片を受け取りながら、胸がじんわり温かくなる。
「秘密ね」
ふいにルシアンが顔を寄せ、小声で囁いた。
「台所のお姉さんには言わないで。おばしゃまと僕だけの、秘密」
――ぐはっ。尊い。
こんな天使に秘密を託されたら、誰だって赤べこよろしく頷くしかない。
「うん、約束」
思わず指切りをすると、ルシアンは安心したように笑った。
その笑顔に胸をぎゅっと掴まれる。
……そのとき。
「仲が良いわね」
振り向けば、リシェル姉様が廊下の奥で微笑んでいた。
隣にはカイ様。いつものように、彼女を守る護衛のように立っている。
「……ああ」
低く返事をしたカイ様の声が、妙に重く響いた。
俺は妻の言葉に短く答え、目の前の光景を見つめていた。
子どもの微笑ましいやりとり――そう言ってしまえばそれまでだ。
だが、俺にはどうしても笑い飛ばせない。
息子が見せる笑顔の奥に、執着の色を見た気がする。
幼すぎるはずなのに、「決して譲らない」とでも言うような光。
……似ている。
十歳の頃の俺と。
かつて、全てを投げ打ってリシェルだけを見ていた、あの時の俺に。
奥歯を噛みしめた。
目の前にいるのは、まだ小さな子ども。
それでも――その視線が行き着く先を思うと。
ため息を一つ吐いた。
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