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第九章 告白と結末
52
窓辺に腰かけると、春の風がカーテンを揺らした。
療養中の体はまだ重く、長く歩くのは難しい。けれど、こうして椅子に座るくらいならできるようになった。
そこへ、イリーナが花籠を抱えてやって来た。
柔らかな笑みとともに香りを運ぶ花々に、胸が温かくなる。
「エリシア様、ご快復されていると聞いて……本当に安心しました」
「ごめんなさい、イリーナ様。私が遊びに誘ったばかりに、巻き込んでしまって」
「ううん、気にしないで。私は守ってもらっていただけだもの。エリシア様が無事でよかった」
「ありがとう。あなたの笑顔を見ると、私まで元気になれるわ」
自然に言葉がこぼれた。
けれど、そのあと彼女は少し真剣な顔をして、じっと私を見つめた。
「……ルシアン様は、ずっとエリシア様の傍にいらっしゃいましたよ。眠るのも惜しんで」
「え……」
頬が熱を帯びる。
イリーナの声音は穏やかだけれど、揺るぎのない確信があった。
「わたし……羨ましいです。誰かのために、あんなふうに真っ直ぐでいられるのは」
その言葉が胸に落ちた瞬間、心臓が強く跳ねた。
あの夜、涙を滲ませながら「俺の幸せはあなたしかない」と叫んだルシアン。
その瞳に映っていたのは、甥が叔母を慕う甘えなんかじゃなく――一人の青年の、抗えないほど真剣な想い。
(……私、気づかないふりをしていただけなのね)
胸の奥がきゅっと痛んだ。
推しだと思っていた。守るべき存在だと思っていた。
けれど、本当はずっと――彼が誰かに、イリーナに向ける優しさを見るたび、私は胸をざわつかせていた。
(好き……だったんだ、私も)
イリーナが帰ったあと、静けさの中で私は決心した。
ルシアンは待っていてくれている。
それでも、待たせ続けるのはもう嫌だった。
――だから、返事をしなきゃ。
夕暮れ、寝台の脇で本を閉じる音がした。
ルシアンが、静かにこちらを見ていた。
あの蒼い瞳が、何も言わずに――ただ私を待っている。
胸が震える。
理性はまだ戸惑っているのに、私の心はもう答えを知っていた。
「……ルシアン」
名を呼ぶだけで、声が震える。
それでも逃げないように、彼を真っ直ぐに見つめて言った。
「私もあなたが……好きよ」
一瞬で、彼の瞳が熱に揺れた。
大きな手が私の手を包み込み、震えるほど強く握る。
「……やっと、聞けた」
言葉の直後、彼の腕が一気に私を抱き寄せた。
力強くて、でも震えていて、これまでどれほど想ってくれていたのかが伝わる。
「ごめんなさい……遅くなって」
涙が滲む。けれど今は、胸の奥が温かくて仕方なかった。
「俺のエリシア」
低く囁かれたその言葉に、理性なんて簡単に溶けていった。
叔母としての立場も、家の責務も、今だけは全部遠くへ霞んで――。
ただ一人の人として、彼の想いに応えた自分が、ここにいた。
療養中の体はまだ重く、長く歩くのは難しい。けれど、こうして椅子に座るくらいならできるようになった。
そこへ、イリーナが花籠を抱えてやって来た。
柔らかな笑みとともに香りを運ぶ花々に、胸が温かくなる。
「エリシア様、ご快復されていると聞いて……本当に安心しました」
「ごめんなさい、イリーナ様。私が遊びに誘ったばかりに、巻き込んでしまって」
「ううん、気にしないで。私は守ってもらっていただけだもの。エリシア様が無事でよかった」
「ありがとう。あなたの笑顔を見ると、私まで元気になれるわ」
自然に言葉がこぼれた。
けれど、そのあと彼女は少し真剣な顔をして、じっと私を見つめた。
「……ルシアン様は、ずっとエリシア様の傍にいらっしゃいましたよ。眠るのも惜しんで」
「え……」
頬が熱を帯びる。
イリーナの声音は穏やかだけれど、揺るぎのない確信があった。
「わたし……羨ましいです。誰かのために、あんなふうに真っ直ぐでいられるのは」
その言葉が胸に落ちた瞬間、心臓が強く跳ねた。
あの夜、涙を滲ませながら「俺の幸せはあなたしかない」と叫んだルシアン。
その瞳に映っていたのは、甥が叔母を慕う甘えなんかじゃなく――一人の青年の、抗えないほど真剣な想い。
(……私、気づかないふりをしていただけなのね)
胸の奥がきゅっと痛んだ。
推しだと思っていた。守るべき存在だと思っていた。
けれど、本当はずっと――彼が誰かに、イリーナに向ける優しさを見るたび、私は胸をざわつかせていた。
(好き……だったんだ、私も)
イリーナが帰ったあと、静けさの中で私は決心した。
ルシアンは待っていてくれている。
それでも、待たせ続けるのはもう嫌だった。
――だから、返事をしなきゃ。
夕暮れ、寝台の脇で本を閉じる音がした。
ルシアンが、静かにこちらを見ていた。
あの蒼い瞳が、何も言わずに――ただ私を待っている。
胸が震える。
理性はまだ戸惑っているのに、私の心はもう答えを知っていた。
「……ルシアン」
名を呼ぶだけで、声が震える。
それでも逃げないように、彼を真っ直ぐに見つめて言った。
「私もあなたが……好きよ」
一瞬で、彼の瞳が熱に揺れた。
大きな手が私の手を包み込み、震えるほど強く握る。
「……やっと、聞けた」
言葉の直後、彼の腕が一気に私を抱き寄せた。
力強くて、でも震えていて、これまでどれほど想ってくれていたのかが伝わる。
「ごめんなさい……遅くなって」
涙が滲む。けれど今は、胸の奥が温かくて仕方なかった。
「俺のエリシア」
低く囁かれたその言葉に、理性なんて簡単に溶けていった。
叔母としての立場も、家の責務も、今だけは全部遠くへ霞んで――。
ただ一人の人として、彼の想いに応えた自分が、ここにいた。
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