十八歳で必ず死ぬ令嬢ですが、今日もまた目を覚ましました【完結】

藤原遊

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城下町の通りは、春の陽気に包まれていた。

石畳に射す陽光はやわらかく、店先には焼き菓子や果物が並び、
花売りの少女が明るい声で通行人を呼び止めている。
遠くから、鍛冶屋の打つ鉄の音が聞こえ、湯気の立つスープの匂いが鼻をくすぐる。

すれ違う人々の顔は穏やかで、子どもたちは追いかけっこをして笑っている。
世界は、まるで何事もなかったかのように平和で、
この場所に“死の運命”など存在しないようにさえ思えた。

(……そう、この町はいつも変わらない)

隣でレオニスが歩いている。
時折店に目を留めては、あれが美味しそう、これがきれいだと無邪気に話しかけてくる。

「エル! あの花飾り、すごく似合いそうじゃない?」

「ふふ、あなたの目に似てるわね。金色の、小さな花」

「え、ほんと!? じゃああとで買って帰ろう!」

私は笑って頷く。
その笑顔が自然に出るほど、今は穏やかだった。
けれど――

突然、レオニスが私の手を取った。
指をしっかりと絡めるように、強くもない、でも確かな力で。

その瞬間、胸の奥に波紋が走った。

(……そうだった。何度も、彼はこうして私を守ってくれた)

――毒に倒れた私を助けようと、扉を蹴破って駆け込み、矢に倒れた。
――共に逃げようとした夜、兵に見つかり、囮となって命を落とした。
――馬車が暴走したとき、私を突き飛ばし、代わりに轢かれた。

いつも、最初に走り出して、最後まで戻ってこなかった。
彼は、何度でも私のために死んだ。
その記憶だけは、どれだけ時間を巻き戻しても、薄れなかった。

「……レオ」

「ん? なあに?」

まだ幼い声。無邪気な笑顔。
失った記憶の中の彼と、今ここにいる彼とが、重なる。

「……なんでもない。あなたはやっぱり変わらないのね」

「へ? よくわかんないけど、褒めてる?」

「ええ。とても、よ」

私は、彼の手を少し強く握り返した。
この温度を確かめるように。
生きているという奇跡を、噛みしめるように。

風が吹いた。
春の風だった。
どこかに消えた命の記憶をなぞるように、私の頬を撫でていく。

(どうか今度こそ、あなたの笑顔だけは、失いたくない)

私の中で、何かがかすかに疼いた。
それは希望か、それともまた来る別れへの予感か。
自分でも、もうわからなかった。
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