十八歳で必ず死ぬ令嬢ですが、今日もまた目を覚ましました【完結】

藤原遊

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屋敷に戻る頃には、陽は西に傾き始めていた。
空は淡い茜色に染まり、庭の花々がその光をやわらかく映している。
スノードロップの隣では、早咲きのスイートピーが揺れていた。

私はひとり、回廊を抜けて庭に出る。
風の匂いが春の訪れを告げ、木々の隙間から金色の光が差し込んでいる。

(あの人は、今日もここにいるだろう)

思った通りだった。
藤棚の影で風に髪を揺らしながら、兄――セディス・ノクターンは立っていた。

「ごきげんよう、兄さま。こんなところで黄昏れていらしたの?」

軽い声をかけると、兄はわずかに微笑む。

「君こそ、今日はずいぶん楽しそうだったから。……少し安心していたんだ」

「そんなに楽しそうだったかしら?」

「……そうだな。言い換えるなら、“無理をしていなかった”ように見えた」

その言葉に、私は思わず足を止めた。

(変わらないわね。どの人生でも、兄さまは私の変化に気づく)

けれど、その鋭さに私が気づく頃には、
もう彼は私を守るために、どこかで命を落としていた。

――ある人生では、私の不正をかばって王に盾突き、左遷された。
――別の人生では、裏切り者をあぶり出すために毒を飲み、自ら病に倒れた。
――あるいは、私を逃がすために敵兵の前に立ち塞がり、斬られた背中を最後まで見せなかった。

私は、兄がどれほど多くを差し出してくれたかを、いつも“死んでから”しか知らなかった。

(今回も、同じなのかしら)

この人の背中に、私は何度も守られていた。
だからこそ、今こうして隣に立てることが奇跡のようだった。

「……春は、いいわね」

「春はいい。風がやさしくて、花の香りも強すぎない。……君に似合う季節だ」

「そうかしら?」

私は微笑む。
その仕草ひとつで、兄が少し目を細めた。

変わらない人。
変わってはいけない人。
でも、何度繰り返しても私はこの兄の献身に、まともな“ありがとう”すら返せていない。

(せめて今度は、気づけるうちに、守らせて)

私は隣を歩く兄の横顔を、そっと盗み見る。
光が柔らかく頬を照らしていた。

花が風に揺れている。
静かで、穏やかな、何でもない夕暮れ。

それでも私は、こう思わずにはいられなかった。

――今、この時間が、永遠だったらいいのに。
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