戦乙女の選ぶ道

藤原遊

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5章 本格侵攻

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翌朝、フィオラたちの陣営に、南東の補給拠点からの急報が届いた。

「敵軍が南東の補給拠点に向けて進軍を開始したとのことです!」

伝令の声が響き、指揮所の空気が一変した。
地図上の補給拠点は、この地域の防衛線を支える重要な場所であり、失うわけにはいかなかった。

「南東の拠点が狙われるとすれば、全軍で迎撃する必要があります。」

副官がそう提案するが、フィオラは地図を睨みながら首を振った。

「……待って。それが本当に敵の狙いなのか、慎重に見極める必要があるわ。」

彼女の言葉に、一同が緊張した面持ちで耳を傾ける。

「ライナー・フォルクスはそんな単純な動きをする人ではない。南東は確かに重要な拠点だけど、それが囮である可能性も十分に考えられる。」

「では、どこが本命だと?」

ロイドが尋ねると、フィオラは地図の北部を指差した。

「……ここよ。北部の丘陵地帯。防衛が手薄な場所を狙っているはず。」

その予測に、指揮官たちは驚きの表情を見せた。
だが、ロイドはすぐに納得したように頷いた。

「なるほど。南東に戦力を集中させれば、北部が手薄になる。奴ならその隙を突いてくるだろうな。」

「ええ。だからこそ、部隊を二手に分ける必要があるわ。」

フィオラは静かに地図を指でなぞりながら指示を出した。

「主力部隊は北部へ移動して防御を固める。一方で、南東には囮部隊を派遣し、敵の目を引きつけるの。」

その言葉に、副官たちは頷きながら素早く準備を始めた。

数時間後、フィオラたちは北部丘陵地帯への進軍を開始した。
険しい道のりの中、彼女は自分の選択が正しいかどうかを何度も自問していた。

「……これでいいのよね。」

彼女の呟きに、隣を馬で進むロイドが答えた。

「フィオラ、お前の判断を信じている。だが、もし俺が何か見落としていたら、遠慮なく言ってくれ。」

その言葉に、フィオラは微笑んだ。

「ありがとう、ロイド。でも、今は私が信じるしかないの。」

彼女の言葉には強い意志が込められていた。
ロイドはその決意を感じ取り、それ以上何も言わなかった。

その頃、ライナーの陣営では、彼の策略が着々と進んでいた。
彼は部下たちに最後の指示を与え、全軍を動かし始めていた。

「南東には、予備部隊を配置しておけ。彼女がそれに気づいて北部を守る動きを見せるなら、それこそが我々の狙い通りだ。」

彼の冷静な目が地図の北部を捉えている。

「次に重要なのは速度だ。北部丘陵地帯を短時間で突破し、防衛網を崩す。」

部下たちはその指示に従い、速やかに行動を開始した。
ライナーの胸には、再びフィオラの姿が浮かんでいた。

「君はこの手を見抜けるか?」

彼の声は冷たいが、どこかで期待するような響きを持っていた。

北部丘陵地帯に到着したフィオラたちは、すぐに防御陣地を整え始めた。
兵士たちが防壁を作り、魔法使いが射程を測りながら配置についていく。

「彼らがここに来るのは時間の問題ね……。」

フィオラは地形を見渡しながら呟いた。
その時、遠方から響く馬蹄の音が、彼女の予想が的中したことを告げた。

「来たわ……!」

ライナー率いる軍勢が丘陵地帯に到達し、その旗印が高く掲げられているのが見えた。
彼はその中心で馬を駆りながら、こちらを見据えていた。

「彼らを引きつけて、包囲を完成させるまで耐えるのよ。」

フィオラは部隊にそう指示を出し、前線へと進んだ。

戦場が再び燃え上がった。
ライナーの軍勢が前進を続ける中、フィオラの部隊が必死に持ちこたえていた。魔法の衝突が大地を揺るがし、剣戟の音が森全体に響き渡る。

「これ以上押し込ませるわけにはいかない……!」

フィオラは自ら魔力を練り上げ、巨大な水の壁を展開して敵の進軍を阻止した。
その壁を見て、ライナーは微かに笑みを浮かべた。

「またお前か……。」

彼は静かに馬を降り、自ら前線に立つ。

「ならば俺が直接相手をしてやろう。」

その声が響いた瞬間、戦場の空気が一変した。
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