魔力ゼロの英雄の娘と魔族の秘密

藤原遊

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プロローグ

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剣がなければ、ここまで来られなかった。

アリアは肩に担いだ剣の重さを感じながら、草の茂る山道を歩いていた。夕陽が西の空を赤く染め、木々の影が長く伸びている。依頼は無事に終わった。後は街に戻って報告を済ませるだけだ。

「今日も楽勝じゃん!」

そう呟いて、誰もいない道を歩く。特に誰かと話すつもりもないのに声に出してしまうのは、一人でいる時間が長いからだろう。

ギルドには仲間がいる。街にも親切な人たちがいる。それでも、帰り道はいつだって独りだ。

10歳のとき、両親を亡くした。彼らは街を守る冒険者だった。槍を振るう父と剣を握る母。その背中をいつも追いかけていたけれど、気づいたらもう追いつける場所にはいなかった。

だから、アリアは剣を握り続ける。自分の力で生き抜くために、そして――。

「ま、考えたって仕方ないか!」

再び口を開き、前を向いたそのときだった。道端の茂みが揺れた。

アリアは瞬時に剣を構える。だが、そこにいたのは魔物ではなかった。

黒いマントをまとった青年が倒れている。

「…何だ、こんなところで行き倒れ?」

青年は目を閉じていて、顔色も悪い。アリアはため息をつき、剣を下ろした。人助けをする余裕がないわけじゃない。むしろ、困っている人を放っておけない性格だとは自覚している。

「おーい、生きてる?」

近づいて声をかけると、かすかに青年のまぶたが動いた。ゆっくりと瞳が開かれる。冷たい灰色の瞳。その色彩は、周囲の紅い景色に溶け込むことなく、どこか異質だった。

アリアは一瞬だけ息を呑む。その顔立ちは驚くほど整っていて、青白い肌と切れ長の目元が人間離れした雰囲気を漂わせていた。けれど、ただ倒れているだけなのに、どこか危うい冷たさを感じる。

「…少し、力を使いすぎたようです。」

声は穏やかだが、低い温度が漂う。感情が抜け落ちているようにも聞こえた。

「力って…魔法使いか。まあ、いいや。とりあえず立てる?」

アリアが手を差し出すと、青年はふっと目を細めた。

「いえ、その必要は――」

拒絶しようとした瞬間、アリアが躊躇なく彼の手を掴んだ。ひんやりと冷たい感触が伝わる。

「冷たっ。魔力ってこんなもんなの?」

青年の目が驚きに見開かれる。

「…どうして、君は……」

彼の言葉が途切れる。その瞳は微かに揺れていた。

アリアは首を傾げる。

「どうしてって、あんたが倒れてたから助けるだけじゃん。それ以外に理由なんてある?」

「…普通、私に触れれば――いや、それは今はいいです。」

青年は視線をそらしながら呟いた。まるで、自分自身が信じられないかのように。

「なんかよく分かんないけど、ほら、つかまって!街まで送ってやるから。」

「…ありがとうございます。」

握られた手がわずかに震えていることに、アリアは気づかなかった。イアンと名乗る青年の胸の内に広がっていたのは、ただひとつの疑問。

――なぜ、この人だけが凍らないのだろう。

剣と魔法の世界は、今日もどこかで誰かが倒れ、また誰かが助け起こしている。そして、それが新たな冒険の始まりになることもある。

アリアはまだ知らなかった。自分が手を差し伸べたその青年が、ただの魔法使いではないことを。そして、この出会いが自分自身の物語を大きく変えることになることを。



ステータス画面:

アリア・マーウェラ

• レベル: 7
• 職業: 剣士(盾なし)
• 体力: 20
• 魔力: 0
• 力: 18
• 敏捷: 14
• 器用: 10
• 知力: 8
• 精神: 10

スキル一覧

• 剣の扱い Lv.2
• 投擲 Lv.1
• 身体強化 Lv.1
• 戦闘直感(パッシブ)


イアン

• レベル: 12
• 職業: 魔法使い(呪術特化)
• 体力: 10
• 魔力: 38
• 力: 6
• 敏捷: 10
• 器用: 12
• 知力: 24
• 精神: 22

スキル一覧

• 氷結魔法 Lv.4
• 魔力制御 Lv.3
• 詠唱短縮 Lv.2
• 呪いの触(自動発動 / パッシブ)
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